ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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撒き餌は豪快にまかないとね

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「ここにいたのかユリシア嬢。探していた、早速きてもらおうか!!」

 生徒会役員かな、五人いる内の一人が厳しい声で恫喝する。かなり苛ついているのがわかる。感情の乱れは隙を作る。カイナル様から教わった通りだわ。一気に場が制御しやすくなった。

「お断りしますわ。今、昼ご飯を食べているのがみえませんか? それに、怒鳴らないでくれます、汚いので」

 きっぱりと断った。ついでに煽る。でも、大袈裟なことは言ってないわ。だって、色々飛んできそうで汚いでしょ。

「昼ご飯なら、後で食え!!」

「なぜ、貴方たちに命令されないといけないのです?」

 コンディー公爵家で礼儀作法受けていてよかった~。毅然な態度と落ち着いた有無を言わさない言葉使い。たじろいでるたじろいでる。

 私の言葉を無視して再度掴もうとした時、アベル殿下が生徒会役員の腕を掴んだ。と同時に、生徒会長が「やめないか!!」と割り込んできた。

 よし!! 撒き餌(二)がきた。

「なにを騒いでいる!?」

 生徒会長が役員に問いただすが、聞き流し、役員たちは生徒会長の制止を無視した。

「生徒会長は黙っていてください!! これは、副会長の命令です!! 元々、貴方がしっかりしてないから、こんなことになっているんですよ!!」

 その台詞に、私はニヤリと笑いそうになる。

「あらあら、おかしなことをいいますね。この学園において、最高責任者である生徒会長を、一役員が理由もなく非難し、命令を聞かないとは? ねぇ、アジル殿下、スノア王女殿下、この学園は生徒会長よりも副会長の方が偉いのですか? ならば、副会長が会長職を就けばいいのに……それとも、就けないのですか?」

 私の言葉に、生徒会役員たちは真っ赤になる。

「この学園は実力主義だから、学年首席である生徒が必然的に会長職に就くことになるんだよ」

 アジル殿下の言葉に、私は知らない振りをして頷く。

「そうなのですね、知りませんでしたわ。では、この方々は学園の主義を認めていないのですね」

「そうなるな」

 アジル殿下がそう認めた時、彼に腕を掴まれたままの生徒会役員が怒鳴った。

「なら、なぜ、お前は生徒会室にこなかった!?」

「命令されておりませんもの。お願いはされましたが、願いなら断っても問題はないでしょ」

「それは詭弁だ!!」

「ならば、私のクラスメートに訊いてみてはどうです? 生徒会長はいつもこう言ってましたの。きてもらえないだろうか? と、それは命令ではありませんよね」

 悔しそうな表情で私を睨む、生徒会役員。あとの四人も彼ほどではないが似た表情を浮かべていた。

「話を戻しますが、貴方がた以上に学園の主義を認めていないのは副会長のようですね。自分は一切表には出ず、生徒会長を己の駒のように扱っていますよね。正直、不愉快ですわ。……場違いな暴言を放ったのは副会長、謝罪するなら副会長なのでは? 生徒会長が、なぜ謝罪の言葉を代弁しなければならないのです? 頭を下げなければならないのです? それとも、高位貴族だから、この学園の主義は無効だとお考えですか?」

 私がゆっくりとそう言い放つと、ますます生徒会役員たちは怒りで顔を赤らめる。黙って聞いている食堂にいた生徒たちは、徐々に私の味方になり始めている。

 この流れになるのは読めていた。私は間違ったことは何一つ言ってはいない。平民としての常識と、貴族としての常識も。強いて言うなら、生徒会長も生徒会役員も動きすぎたことが、この結果を作り出していた。

 一生徒を訪ねるだけ――そう考えていたのは、かなり甘かった。結構、皆シビアな目で見てるのよ。盲目的になるのは一部の生徒。甘い言葉にうっとりしていても、その言葉全部を無条件に信じ切る者は少ない。

「……ユリシア嬢、そこまでにしてくれないか?」

 生徒会長が生徒会役員たちのために頭を下げる。

「生徒会長とはいえ、一平民に貴族が頭を下げる。部下の不始末のせいで。それを見て、なぜ、貴方がたは当然のように受け入れているのでしょう。私はダクリス様が成績一位だからではなく、人格者としても優れているから、なるべくして生徒会長になったのだと思いますわ」

 さぁ、撒き餌はすべて投げ終えたわよ。どうする? 食堂内は生徒会長有利に進んでる。プライドの高い貴方は、絶対それを許さない。

「なにをしているんだ!? 食堂で騒いでると聞いてきてみれば、会長が率先してなにをしているのです!?」

 あ~あくまで、生徒会長が悪い体でいくつもりね。隠れて聞いていたくせに。まぁでも、そうでしか、この場に現れないよね。

 やっと、本命が釣れたわ。

 撒き餌を豪快にまいてあげたんだから、盛大に食らいついて離さないでね。


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