ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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「これは、副会長、あの日以来ですね。悪いのですが、貴方の子飼いたちを連れていってもらえませんか? まったく……昼ご飯が冷めてしまったわ」

 私が呆れたように吐き捨てると、副会長は眉を潜めた。

「子飼いとは、なにを勘違いしているのか。私たちは生徒会役員に過ぎませんよ」

 当然否定してくるわね。

「そうですか……でも、アジル殿下に腕を掴まれている役員さんは、私たちにはっきりと、貴方の命だと仰ってましたが……私の聞き間違いですか?」

 副会長が「聞き間違いでしょう」と、口を開き言おうとしたタイミングで、スノア王女殿下が言い放つ。

「私も確かに聞きましたわ。そして、無理矢理、ユリシアを連れて行こうとしたのです。アジルが止めましたけどね」

 ナイスタイミング。さすがです、スノア王女殿下。

「……そうなのか? それは悪いことをしました。私が落ち込んでいるのを見兼ねての行動でしょう。許してはもらえませんか?」

 ほんと、胡散臭い笑顔。それに、芝居じみた演技。まったく心が微塵もこもってはいない。これに騙されるやつって……かなりの馬鹿だわ。顔の良さがプラスになっていてもない。

「……やはり貴方は、生徒会長とは違うのですね」

 これは計算もなにもしていない、心底、心から出た言葉だった。

 だから、副会長は仮面を外した。

「それは――ガハッ!!」

 その場にいる者全員が一瞬の出来事に言葉を失う。

 私は予知していたけど、スノア王女殿下もアジル殿下も完全に固まっていた。話してはいたけど、その目にするのは始めてだものね。でも、よく飛んだわ。伯爵令嬢の取り巻きたちは軽く雷が落ちただけなのに。

 副会長は私の肩に触れ怒鳴ろうとしたの。でも、触れることもなく弾かれ、食堂の端の壁に勢いよくぶち当たった。嫌な音がしたから、骨数本やられたわね。壁ひびが入っているし。

 私はゆっくりと副会長の元に向かう。

 私がなにかすると思ったのだろう、生徒会長が副会長を背に庇い恫喝する。

「これはやりすぎだ!! ユリシア嬢!!」

「…………学園内の攻撃魔法は禁止事項だ……即退学だ」

 回復魔法を自分にかけた副会長は、勝ち誇った顔で私にそう言い放った。彼の頭には、私が退学し学園を去る姿が映ってるんだろうな。

 私は笑みを浮かべる。淑女の仮面を剥いだ笑み。幸いにも、その笑みを見ているのは生徒会長と副会長だけ。生徒は私の後ろにいる。

「攻撃魔法? 私は攻撃魔法など使ってはいませんよ」

 私の笑みにのまれ言葉を失いながらも、反論する副会長。生徒会長は空気だね。

「見え透いた嘘を」

「これは、ただの防御魔法が発動しただけですよ。カイナル様が身に着けるように渡された魔法具の。もちろん、魔法具の持ち込みに関しては学園から許可をもらっております。疑うのなら、お確かめを」

「これが、防御魔法であってたまるか!!」

 副会長が怒鳴る。

 それを見て、私は笑みを浮かべながら小さな声で言ってやる。

「仮面外れてますよ、副会長」

 悔しそうに押し黙る、副会長にネタばらし。

「この魔法具は特別製なの。カイナル様が自ら魔法陣を組み施したもの。当然でしょう、未成年の番を一人学園に通わすのだから……率直に言いましょう、副会長。貴方、私に対し殺意に近い感情を抱きましたね」

「なっ、なにを!?」

「その発言は問題だ!!」

 言葉に詰まる副会長と憤る生徒会長。

「さきほど、私は言いましたよね、この魔法具は特別製だと。この魔法具は悪意に反応するのですよ。私に害を抱く者、傷付けようとする者にたいしてだけね。仕組みはわかりませんが。以前も、私を傷付けようとした者がいて発動しましたわ」

 私がそう言った時、二人の表情がハッとする。同時に思い出したんだね、伯爵令嬢の件。私はさらに続けた。

「なぜ私が、貴方が私に対し殺意に近い感情を抱いたのか――そう言ったの理由は、貴方の今の状態ですわ。防御魔法でふっ飛ばされ、数本の骨を折った。悪意の強さに比例するのですよ」

 再度、言葉を失う副会長と生徒会長。

 私は倒れたままの副会長の胸倉を掴むと恫喝する。

「貴方が私に対し、いくら悪意を持とうがどうでもいい。関係ない。間違えるな!! 初対面の私に対し挨拶もなしに暴言を吐いたのは、副会長貴方でしょ。なに、生徒会長に頭を下げさせてるの。謝罪の代弁をさせてるの。恥ずかしいと思わないの。高位貴族だろうが、自分が冒した過ちの尻拭いを他人に押し付けるな!! そんな人間が夢や希望を語るな!!」

 そこまで言うと、胸倉から手を離した。

「今さらだけど、私は静観するつもりだったのよ。ほっとけばよかったのに、貴方はやりすぎた。その態度が、アジル殿下とスノア王女殿下に不信感を抱かせたのも気付かずにね。私だけにとどめていればよかったのに」

 最後にそう言うと、私は彼らに背を向けた。

「お待たせしました、アジル殿下、スノア王女殿下。まだ時間がありますので、移動しましょうか。ここは騒がしいので落ち着かないでしょう」

 にっこりと微笑みながらそう声をかけると、なぜかぎこちない返事が返ってきた。

 もしかして、やりすぎた……

 
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