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地雷は意図せぬ所にありました

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 やっぱり……監視されて、聞かれている。圧が凄いよ~口にはしない代わりに、全身で訴えてきてる。

 だって、今日のグリグリは強くて長い。もう二時間され続けているよ。いつもは三十分ぐらい、長くて一時間なのに。基本、こういう時って、逆らわずジッと嵐がすぎるのを待つの。まぁ逃げたくても、腹に腕を回してガッシリと抱え込まれているからね、ビクとも身体は動かない。それに逃げそうな素振りを見せると、確実に駒を進めることになる。

 遅刻した課題しないといけないんだけどな……今夜は徹夜になりそう。

「…………お昼寝」

 ポツリとカイナル様が耳元で呟く。

「お昼寝がどうかしましたか?」

「俺はまだ、シアと昼寝をしたことがない。なのに、シアはスノア王女殿下と一緒に昼寝をしようとするなんて……シアは俺のものなのに。俺がしたことないことを俺以外としないでくれ。俺の初めてはシアのもので、シアの初めては俺のものだ。そもそも、昼寝など無防備な姿を晒そうとするなんて、絶対に許さない。考えるのも、口にするのも許さない」

 淡々と抑揚も変えずに耳元で言われたら、冷や汗タラタラと流れてきたよ。本能が恐怖を感じてる。私、選択間違った? まさかの、デスゲームの駒進めてしまったの!? はぁ~スノア王女殿下が焦ったのがよくわかったよ。

 私は腹に回された腕に手を添える。カイナル様って、私が触られるのが好きで安心するから。そして、誠意を持って謝り倒す。

「……ごめんなさい、カイナル様。なんとなく言った言葉で貴方を傷付けてしまって。本当に、ごめんなさい」

「そうだ。俺は傷付いた。シアには俺だけを見ていて欲しいのに、なんでそうじゃないんだ……シアの瞳に映るのは俺だけでいいのに、なぜ、ほかを見るんだ」

 うん……病んでるね。

 普通の日常生活をおくる限り不可能だよね。この世界に私とカイナル様しかいなかったら、必然的にそうなるけど……もしくは、その環境を作ればね。絶対に嫌だけど。

 そもそも、なんでそんなに心配するの?

「……私はカイナル様のものですよ。私の帰る場所はカイナル様のところですから」

 言わないとわからないのかな。私は毎日、カイナル様の元に帰ってきているのに。

「信じていいのか?」

 泣きそうな声で囁かないでよ。

「信じてもらわないと困ります」

「だったら、一度、俺に愛してると言ってくれ」

「はぁ!? そんなこと言えるわけないでしょ!!」

 焦って、思わず大きな声を上げてしまった。

 カイナル様から幾度となく、その……愛してるとは言われてたし、それに近い言葉も言われている。

 でも自分からは、一度もその言葉を口にしたことはなかった。愛するって気持ちがいまいちわからないせいもあるけど。それでもそれなりに、自分では精一杯伝えてきたつもりだった。でも……カイナル様には足りなかったみたい。

「どうして?」

「どうしても!! 恥ずかしくて言えるわけないでしょ」

 恥ずかしくてあたりは、ボソボソとした話し方だけど、当然カイナル様には聞こえてるわけで……

「恥ずかしいのか?」

 そう尋ねる声は、とても穏やかで優しかった。私は小さく頷くことしかできない。間違いなく、今の私は顔も耳も首も真っ赤ね。

 さらに、ギュッとカイナル様に抱き締められた。苦しくない程度に。こういうところにも、私のことを大事にしてくれてるってわかる。

「シア、あまり危険なことをするな。だが、我慢する必要はない。したいようにすればいい」

 少しの間のあと、カイナル様はやや低い声で注意してきた。止めても聞かないってわかっているから。

「わかりました、カイナル様。気を付けます」

 気を付けながら、確実に潰します。




 昼休憩が始まると同時に、私たちは食堂に向かった。少し早いのか、生徒数はまだ少ない。でも、もう十分もすれば、かなりの生徒数で賑わうはず。

 私たちは食堂の一番隅に座る。一番目立ちにくい場所だ。これはちょっとした時間稼ぎ。でも、気付くはず。

「今日は、私の我儘を聞いてくださりありがとうございます。アジル殿下、スノア王女殿下」

 私は二人に軽く頭を下げる。

「構いませんわ。言ったでしょ、私はあの輩には迷惑をしていると」

「俺も迷惑していたんだ。ほんと、最後の方はなりふり構わないようになってきて……」

 うんざりして消耗しきっているアジル殿下に、私は申し訳ない気がしてならないよ。

「私たちの盾になってくれてましたから……」

「それが、アジルの仕事なんだから、ユリシアが気にすることはないですわ。でも、頑張りましたね。ご褒美にこれあげますわ」

 そう言って、チキンソテーを一切れアベル殿下の皿に移す。私もあげたいんだけど、たぶん、カイナル様の地雷を踏みそうなので止めた。

 双子だからかな、特に二人仲がいいんだよね。ほんわかしながら、私は二人を眺めながら昼ご飯を食べていると、騒がしい声と荒々しい複数の靴音が近付いてきた。

 意外と早かったわね。でも、撒き餌は釣れた。さて、うまく本命釣り上げないとね。
 


 
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