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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
悪役令嬢として最高の生き方
しおりを挟む魔王様の養女になったからといって、特に周囲が変わることはなかった。というか、すんなりと皆に受け入れられたことに心底驚いたよ。
その理由がね、私が今まで隊長たちをノシてきたからだって。確かにノシたけどさ……私、人族だよ。今さらだけど、魔族の宿敵だよ。複雑な表情をする私に、「その強さ、すでに人超えてるからOK」だって。ほんと、魔族って脳筋だよね。
でもそれを、素直に信じられるほど私は馬鹿じゃないわ。それが、表面上の理由だってわかっている。正直、色々思うこともあるし、反感心もあって当然だよ。人にとっては歴史でも、彼らには過去なんだから。
それでも、私を受け入れてくれたことに感謝しかなかった。
今はまだ、私が掛けた魔法の影響と怖さを知りはしない。でも想像はできる。魔国を離れたら、私を覚えている人はいない。会話しても、数歩離れれば忘れてしまう。
実体を持った透明人間――
自分が覚悟し悩み決断した結果なのに、その事実はいずれ私の心を苛むだろう。
そんな私にとって、私を記憶してくれる人がいる。それが魔族でも、私にとっては救いでしかなかった。
養女となってからも、私の生活はほとんど変わらない。寝る部屋も変わってないしね。
光魔草の栽培の研究は相変わらず続けてるよ。あとは……ラックさんの手伝いもしている。暗部にとったら、私の状況は最強の武器だからね。とはいっても、暗殺はしていないわよ。しているのは、人族の動向を調べることかな。この頃、ちょっときな臭いから。情報は武器だからね。とはいえ、魔族が界を越えてまで人族にたいして口を挟むつもりはないわ。ただ……物価安定力をいれてるだけ。あとは、商会からの物資の運搬かな。
いやぁ~驚いたよ。魔族が人族の王都に商会を出してたなんて。それも大陸二番目の大商会、いやはや、驚いたってもんじゃないわよ。さすがに、かつての祖国には進出してなかったみたいだけど。カインと私がいなくなったから、進出を検討してるんだって。大聖女様は大神殿から出ることはないからね。とはいえ、かなり慎重になってるみたい。手始めに、魔族数人が大神殿に観光がてら行こうって話になってる。命知らずだよね。っていうか、肝試しみたいな感じになってるよ……楽観的だね。
苦笑してると、いつしか私がサポートするのことになっていた。それって、捕まったり、攻撃されかけた時の補助要因だよね。まぁ、いいけど。思ったほど平気なのに驚いたよ。
私は人族だけど、魔王様の養女。
私が護るべきものは、魔国に住む皆。
これまでの長い人生の中で、私は私の居場所を築くことができなかった。でも、今世でやっと築けたの。私はそれを護りたい。
悪役令嬢と呼ばれた私にしては、最高の生き方じゃないかしら。
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