354 / 354
第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる
悪役令嬢であり悪女の私らしいよね
しおりを挟むたぶん、カインに関わった者は彼の行方と動向が気になると思う。胸に抱く想いは多種多様だと思うけど。私自身気にならないとは言えないしね。
でも、それを口にはできない。
だからかな、時たま、ラックさんとかが気を利かせて雑談混じりに教えてくれたりする。
カインは旅をしているそうだ。そこで魔物を討伐したり、色々な厄介事を解決しているみたい。
そして、探しているらしいわ。アリエラの生まれ変わりを――
胸が痛くなる。罪悪感に苛まれる。でもそれは、私が選んだ結果なのだから、仕方ないよね。
それにしても、困った人に手を差し出すのは元勇者らしいわね……本来、カインは優しくてお人好しだから。今までの彼を見ていたら信じられないだろうけど。私は彼の優しさと強さを知っている。本来、彼は愛されるべき人なの。元の彼に戻ってきていて嬉しいかな。
そんなことを思いつつ、私が養女になって五年ほど経った頃だった。
ラックさんが冗談混じりに訊いてきた。
「まだ気になるんだろ。だったら一度、遠目からでもいいから、カインの様子を見たらどうだ」と。私は軽く首を横に振って断った。私は一生会わないって決めていたから。死後は別だけど。
それが、私なりのケジメで、カインに対して唯一できることだから。
そう思っていたのに、会ってしまった――
会うというのは足りない時間。
ほんの一瞬――すれ違っただけ。
犬の振りをしている神獣様に、カインはチラリと視線を向けたけど、私には視線を向けはしなかった。神獣様の件で呼び止められもしなかった。ちょっと、胸がチクリと痛む。私はその痛みに気付かぬ振りをして先に進んだ。
だから私は知らなかった。
カインが振り返り、私と神獣様を見ていたことに――
カインの攻撃で負傷し復活した神獣様と一緒に行動してるけど、今だに番関係にはなってはいないの。魔王様は呆れて、もう急かしたりはしない。
私には人よりはかなり多めの魔力がある。だから、年をとりにくいし、寿命も長い。見た目もほとんど変わってないしね。
だから、絆されて、神獣様の番になって神獣様似の小さな銀色の狼を抱いてる日が来るかもしれない。それとも、魔族の誰かと夫婦になっているかもしれない。神獣様も違う番を見付けてるかも。
未来はわからない。
わからない未来が、私は愛おしい。
そんな私でも言えることがあるわ。私とカインの死後、神獣様とカインの第二ラウンドが始まるってね。
最高の男二人を手玉に取るなんて、悪役令嬢であり悪女の私にとっておかしなことじゃないよね。平凡だけど。まぁそれでも、今世ではカインから殺されずに逃げ切れたことには違いないわ。
私とカインの人生は始まったばかり。
色々な想いはあるけど、私はこれからの長い人生を楽しもうと思う。
怒って笑って悲しんで、たまには恋をして、特別なんて望まない。主役なんて絶対嫌。ただ……普通の人間らしく生きていきたい。私が望むものはささやかな幸せなのだから……
64
お気に入りに追加
5,437
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(326件)
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
忌み子にされた令嬢と精霊の愛し子
水空 葵
恋愛
公爵令嬢のシルフィーナはとあるパーティーで、「忌み子」と言われていることを理由に婚約破棄されてしまった。さらに冤罪までかけられ、窮地に陥るシルフィーナ。
そんな彼女は、王太子に助け出されることになった。
王太子に愛されるようになり幸せな日々を送る。
けれども、シルフィーナの力が明らかになった頃、元婚約者が「復縁してくれ」と迫ってきて……。
「そんなの絶対にお断りです!」
※他サイト様でも公開中です。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。重ねて、感想をいただきとても嬉しいです。
そうですね……
カインには悲しい終わり方ですよね。彼はマリエールと共に生きるために、自分の持てる物全てを利用し、全てを捨てた。なのに、最後に残ったのは、マリエールがいない自由な世界。
私もカインのラストは悩みました。少しでも幸せにしてあげたいって。でも、マリエールのためとはいえ、マリエール自身の命を奪い続け、他者を踏みつけてきた過去は変わりません。彼女自身、それを知っているから、このエンディングになりました。
カインとして現世を生き抜いた後、どうなるかは、作者もわかりません。マリエールの未来も。
精一杯、生きて欲しいと願ってます。
カインを愛していただき、ありがとうございます。
これからも、一生懸命書いていきますので、引き続き応援宜しくお願い致します。ありがとうございました。