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第五章 呪いが解けるまで楽しむ予定です
確か、側近でしたよね
しおりを挟む「マリエール様!!」
王城の廊下を神獣様と歩いていると、突然大声で名前を呼ばれた。振り返ると、例の食人鬼が息を切らしながら立っていた。
「……あ、貴方は、あの時のグールさん」
一応、私も人だから、目の前にいる青年を食人鬼さんとは……ちょっと言えないかな。今日も、両手一杯に冊子を持ってるわね。
それにしても、血色良くなったわね。初めて会った時、かなり青白かったもの。少しフラフラしてたし。
「はい。あの時は、とんでもないことを口走ってしまい、本当にすみませんでした。本能が抑えられないなんて、成人失格です。本当にすみませんでした。それと、マリエール様が、魔王様をとりなしてくださったと、同僚から聞きました。本当に、ありがとうございます」
勢いよく、頭を下げるグールさん。いや、そんなに勢いよく下げだら、あ~~やっぱり、抱えていた冊子が廊下に落ちちゃったよ。慌てて拾うグールさん。
……あの時の姿とは全く違うわね。でも、このドジさ和むわ。
「手伝います」
私はしゃがみ込み、拾うのを手伝う。
「あっ、ありがとうございます。……マリエール様、私が怖くないんですか?」
戸惑いながら、グールさんが訊いてきます。
「本能が優先していた時は、近付きたくはありませんが、今は違うのでしょう」
「そうですが……マリエール様は変わってらっしゃいますね」
また、同じ台詞を聞いたわ。これで四度目よね。私、そんなに変わってる?
「……そんなに、変わってますか?」
「はい。普通、人族が食人鬼族である私と、話をすることなんてありません。ましてや、こんな近くで」
確かに、グールさんの言う通りよね……餌が、捕食者の前に自分からいるんだもの。変わってるわ。グールさんが戸惑うのもわかる。
「もし、グールさんが私を食べようと襲って来たなら、全力で相手させてもらいますよ。でも今は違うでしょ」
「もちろんです!! あの時は、ちょっとおかしな状態だったというか……完徹、三日目だったんです」
「えーー!? 完徹三日って……相当しんどい状態だったのですね」
「それは酷いな」
黙って聞いていた神獣様が参戦です。
もしかして、事務作業で!? だとしたら、完全にブラックじゃないですか。魔王様、何やってるんですか。
「正直、キツかったです。襲ってくる睡魔と、回復薬の取り過ぎで、少しイッている状態でした」
どうりで、あんなに顔色悪くてフラついてたわけね。……ん? 確かグールさん、側近だったよね。なのに、こんなに冊子を持って。
「もしかして、グールさん、一人で作業してませんか?」
そう尋ねると、グールさんは苦笑しながら言った。
「事務作業が苦手な方が多くて。部下もいるのですが、私の力が弱くて……それに、先日の件が更に拍車を掛けてしまい……」
なんてこと!? ありえないわ。最低。だとしたらよ、そもそもの原因は魔王様にあると思うわ。彼の働きを認めていても、彼が一人で仕事をこなしていたことは把握してないんじゃない。
「つまり、手伝ってもらえる方がいないということですね」
私がそう言うと、グールさんはさらに苦笑する。返事はないけど、肯定って意味だよね。
「わかりましたわ。私が手伝います」
「えっ!? マリエール様がですか!? 気持ちは嬉しいですが、駄目ですよ。私が魔王様に怒られてしまいます!!」
拾った冊子を持ったままかえさない私が本気だと知ると、グールさんは慌てて止めようとする。そんなグールさんに、私は言った。
「これは、私のためですよ、グールさん。だって、またおかしな状態になられたら困りますもの」
「し、しかし……」
グールさんは、なかなか納得してくれない。芯は真面目で誠実な方のようですね。
「よいではないか、グール。好意は素直に受け取るものだ」
ありがとう、神獣様。援護してくれて。今日のブラッシングは、いつも以上に時間を掛けますね。
「……本当に、宜しいのですか?」
「構いませんわ」
「ならば、お願いいたします」
グールさんはまた私に頭を下げた。半分冊子を持ってたから、今度は落とさなかったわよ。
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