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第五章 呪いが解けるまで楽しむ予定です
魔王様の英断
しおりを挟むグールさんの仕事部屋は、魔王様の執務室のすぐ隣にあった。
作業効率から考えたら、まぁその方がいいよね。その点は感心したけど……ドアを開けた途端、机に積まれた書類が雪崩落ちるのは、完全にアウトだわ。
私と神獣様、呆気にとられて立ち尽くしてる。
「あっ、すみません!!」
慌てて室内に入ると、グールさんは書類を拾う。
この悲惨か状態で、書類を踏まないで動けるなんて、かなりの技術が必要よね。つまり、慣れてるってことか……それにしても、この書類の多さ異常よね。ていうか、他の机には書類一枚ないのはなんで? 本当に、手伝う人がいないの? 出勤さえしてないの? それ、魔王様は許してるの? だとしたら、魔王様って、その方面は無能なの?
「無能かどうかは知らぬが、苦手なのは間違いないな」
神獣様が苦笑しながら答える。
「苦手の範囲を、遥かに通り越してますよ、これは。とりあえず、拾いましょう。神獣様はそこにいてください」
獣の姿の神獣様には、紙を拾うのは無理だからね。とりあえず、しゃがみ込み、足元にある書類から拾っていく。
すると、頭上から可愛い声がした。その内容は、ちっとも可愛くないけど。
「……儂を無能呼ばわりとは、マリエールも偉くなったのう」
不機嫌そうな声。グールさんはピシッと固まり、直立不動に。でも、私は怯まずに答える。グールさんは吃驚して止めようとしたけど、私は止めなかった。
「偉くはありませんよ。この状況を見て、大概の人は同じ感想を抱きますよ。だってそうでしょう。グールさん一人に仕事を押し付けて、同僚もしくは部下の方は出勤していない。まさか、それ自体、グールさんの力がないのが悪いとお考えですか。ならば、とても悲しいことですわ」
魔王様は私を睨み付ける。怖いけど、目を逸らさない。逸らせたら負けなような気がしたから。
「…………儂にそのような口をきくとは、ちと、自惚れがすぎるぞ」
魔王様が私の頬を撫でる。
グールさんは必死で私を庇おうとしてくれたが、一睨みされてビクッと身を竦ませる。
私も怖いよ。足ガクガクものだよ。でもね、これだけは言わないといけない。だって、私は魔王様が大好きだから。
「自惚れではありませんわ。事実でしょう。魔王様は魔族の長であり、魔界で一番偉い方。グールさんはそれを支える方の一人です。どうして、大事になされないのですか? 先日の件も、そもそもが、グールさんがおかれている状況を改善しなかったことから、起きたことではありませんか。違いますか?」
魔王様の手が頬から離れる。
「…………痛いところを突くのう」
自虐的な笑みを浮かべながら、魔王様は認めた。魔王様はグールさんに視線を移す。
「ニコよ」
魔王様の呼び掛けに、グールさんが可哀想なほど固まったよ。でも、「はい!!」と答えのは忘れない。ていうか、グールさん、ニコって名前だったんだ。真名じゃなくて、呼び名だろうけど。
人族以外の種族には呼び名と真名の二つがある。真名は伴侶か親しか知らない。真名を知られることは自分を縛るからね。
「お前に付けていた者を全て罷免する。自分の配下は、自分で選べ。身分は問わない。よいな」
さすが、魔王様。思い切った英断をするわね。でも、それはそれで、グールさんにとっては茨の道よね。いろいろな意味で。だって、かなりの反感を買うだろうから。でも、乗り越えられると思って、魔王様はそう英断したわけだし、私も応援するつもり。
「はい!!」
「それと、期日を守らない部署を融通する必要はない」
「わかりました」
「これからも、励め」
そう告げると、魔王様は執務室に戻った。途端に、その場にしゃがみ込む私とグールさん。
「「怖かった~~」」
見事に声がハモった私とグールさん。その後、笑い合う。そんな私を、神獣様は優しげな目で見ていた。
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