戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

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第四章 銀色の少女

閑話 書状

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 黒翼船が墜落した報せは、睦月様を無事したという報せが届いてから三週間後、重盛の書状によって、天狗族の総本山、黒劉山こくりょうざんにもたらされた。

 当然、重盛の書状は黒劉山全体を大いに揺るがした。

 常世一の速さを誇る黒翼船よりも、待ちに待った睦月様が行方不明という内容に黒劉山は揺れた。

 重盛の書状には、黒翼船の動力装置がの不具合が起きたことにより、帆船の結界が解除されたこと。その時、甲板に出ていたをはじめ、睦月様を助けるためにが共に落下し、行方不明だということがしたためられていた。

 そして現在黒翼船は、朱王都の外れ、辺境の地、赤砂漠に不時着した状態だ。乗組員全員で目下、探索中という内容だった。

 族長である伊吹いぶきは、直ぐに精鋭部隊を召集し赤砂漠に派遣した。

 迅速な行動だったが、伊吹の責任問題を問う声は、日を追うごとに大きくなっていった。

 元々、伊吹が族長になることを反対する声は多かった。

 何故なら、伊吹の翼の色は漆黒ではなく、側室と同じ灰色だったからだ。

 灰色、色なき者は、力なき者、半端者の色とされ、忌み嫌われ侮蔑の対象とされていた。今でも、その思想は根深く残っている。

 そんな中で、先代であり伊吹と翔琉かけるの父、にしきは兄である伊吹を次の族長に推した。

 弟の翔琉ではなく、伊吹をだ。

 周囲の反応は当然凄まじかった。

 翔琉は1束の中でも、一際美しい漆黒の翼を持っていた。ましてや、翔琉の実母は第二夫人であったが、身分は第一夫人より遥かに上だった。

 血筋、姿、どれをとっても翔琉の方が優れていた。

 誰もが、弟の翔琉が次の族長になるものだと信じて疑わなかった。それは当然、当事者である翔琉自身もそう信じていたし、伊吹自身もそう思っていた。

 自分の周囲が敵だらけであることは、伊吹自身よく身に染みて分かっていた。

 普通なら問題にならない程のことも自分なら問題になることも、直ぐに責任問題に発展することもよく理解していた。

 針のむしろのような生活ーー。

 それでもやってこれたのは、父に認められた嬉しさと、自分と同じ定めを持って生まれた我が子の未来が、ほんの少しでもましになって欲しいがため。

 今まで何度も窮地に立ったことも、追い込まれたり、められそうになったことも多だあった。先代である錦が隠居し黒劉山を出てからは、直接命を奪いに来るやからも一人や二人じゃなかった。

 だが今回は、自分が族長を継いでから最大級のものだった。最悪、自分が腹をかっさばいたとしても許されないだろう。

 しかし伊吹は自分の身よりも、二人の我が子、そして……主の身を心配する想いが心を占めていた。誰も気付かないが。

 一応、手は打ってある。打てる手は全て打った筈だ。

 たが、絶対はないーー。



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