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リチャードはノーマンに手伝ってもらいまずは風呂に入った。髭を剃り伸びた髪を切ってもらう。
痩せてはしまったていたが、幾らかマシにった。それからギルバートに言われた通り食事を摂った。本当は食べたくなかったが、何とか呑み込んだ。料理人も柔らかく食べやすい物を用意してくれてはいたが、味がしない。まるで砂を噛んでいるようだった。それでも何とか食べきった。
ノーマンに明日からの準備を任せてベッドに横になる。
目を閉じるとルエの顔ばかり思い浮かぶ。
「う、うぅ…ルエ…。」
ここからシエナまでは馬車で丸三日はかかる。途中で休憩を挟めばさらにだ。
リチャードは結局はうとうとしただけで朝を迎え、ベッドから降りて身支度を整えた。
元々が見目麗しく男らしいリチャードだ。ノーマンが用意した一番上等の衣服を身に付けるとそれなりに見えた。
味のしない朝食を摂り玄関に行くとちょうどギルバートが来たようだ。
「準備は良いか?」
「ああ、よろしく頼む。」
ギルバートに頭を下げて二人で家を出た。
そんなリチャードをノーマンやニーナたちは心配そうに見送った。
「一気にシエナまで行くのは無理だ。おまえも本調子ではないからな。途中、コーストで休憩しよう。」
馬車の中で二人はずっと無言だった。リチャードは窓の外をじっと見つめている。コーストの手前の街まで来た時、教会の前で指揮を挙げたばかりの新郎新婦とその友人、親戚たちが目に入った。
皆幸せそうだ。新婦はオメガだろう。純白のタキシードに身を包み淡いブルーのブーケを手にしている。となりのアルファはそんな新婦の腰を抱いて何度も頬にキスを送っていた。
きっとルエもこんな結婚を夢見ていたのだろう。
それが自分のせいで…。そう思うと幸せそうな新郎新婦が涙で滲んで見えた。
「リチャード、過去は変えられない。おまえのしたことも、おまえの父親や兄のことも。どうする事もできないんだ。でも未来は何とでもなる。」
「ああ…。」
二人はほとんど話す事なくシエナを目指して馬車に揺られた。
屋敷を出て四日目、シエナについた。
中心街は人でごった返している。ベータがほとんどだか、アルファやオメガもいる。この街のどこがにルエがいるのだ。
「ルエが働いている食堂はどこだ?」
「ここからすぐだ。ヤドリギという店だ。」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「ルエ、そこはもういいからまかないを食べちゃいな。」
「はい。」
食堂のテーブルを拭いているルエに威勢の良い声がかかる。ヤドリギの女将だ。
ルエがここで働くようになったのはこの女将が拾ってくれたからだった。
辻馬車を乗り継いでシエナまで来たルエだったが持っていたお金は馬車代で底を尽きた。本当はもっと遠くに行きたかったが、お金がないのでシエナで降りることになったのだ。ほとんど飲まず食わずで来たためふらふらと街を歩く。仕事を見つけようといろいろな場所でお願いする側皆断られた。番いのいないオメガなんて厄介なだけだ。
中には娼館を勧めてくる者や、自分の妾にしようとする者もいた。
実家に帰る事もできないし本当に娼館で働くしか無い…。そう思いながら歩いていると大荷物を持った女将にぶつかりルエはそのまま吹っ飛んだ。疲れや腹が減っていたのもありそのまま気を失ってしまったのだ。
ルエの事情を知った女将が、ちょうど住み込みが二人辞めたところで困っていたと言ってルエを雇ってくれた。
口は悪いが気の良い女将だ。ルエは毎日感謝しながら働いた。
最初の頃は失敗ばっかりだったがひと月経つ頃にはできる仕事も増えた。何より可愛くて一生懸命のルエは常連客から人気もあった。
仕事が終わり一息つくと思い出すのはリチャードのことだ。あの匂いを嗅ぎたい。せめてリチャードが捨てたあのシャツだけでも持って来れば良かったと後悔した。急いでいたので巣はそのままにしてきてしまったのだ。大事にしていたぬいぐるみのトーイも置いてきてしまった。
そんなことを思いながらまかないを食べ終わり、夜の開店に向けて準備を始める。
女将が仕入れてきた野菜の下ごしらえを終えてテーブルのセッティングをしていた。
リチャードは教えてもらったヤドリギの前についた。closedの看板が掛かっている。
窓から中を覗いてみると小さな男が一人でテーブルを拭いたり調味料を置いたりしながらせかせかと働いていた。
ルエだ…。
少し痩せて髪も伸びている。伸びた前髪をピンで止め額を出している。不謹慎だがそんな姿も可愛いと思ってしまった。
「ルエ…。」
泣くまいと思っていたが涙が溢れて止まらない。
死ぬほど焦がれたルエが目の前にいるのだ。
大きく深呼吸をし、思い切ってヤドリギの扉を開けた。
「すいません、お店まだなんで…す…」
リチャードが入ってきた扉の方を振り返りながらルエが言ったが、その扉の前に立つリチャードを見て驚き固まった。
「ルエ…」
何か言葉にしようとするが出てこない。リチャードはただポツリとルエの名前を呼んだ。
「リチャード様…。」
ルエは持っていた布巾をポトリと床に落としリチャードを見つめる。するとその瞳から大粒の涙がポロポロこぼれた。
痩せてはしまったていたが、幾らかマシにった。それからギルバートに言われた通り食事を摂った。本当は食べたくなかったが、何とか呑み込んだ。料理人も柔らかく食べやすい物を用意してくれてはいたが、味がしない。まるで砂を噛んでいるようだった。それでも何とか食べきった。
ノーマンに明日からの準備を任せてベッドに横になる。
目を閉じるとルエの顔ばかり思い浮かぶ。
「う、うぅ…ルエ…。」
ここからシエナまでは馬車で丸三日はかかる。途中で休憩を挟めばさらにだ。
リチャードは結局はうとうとしただけで朝を迎え、ベッドから降りて身支度を整えた。
元々が見目麗しく男らしいリチャードだ。ノーマンが用意した一番上等の衣服を身に付けるとそれなりに見えた。
味のしない朝食を摂り玄関に行くとちょうどギルバートが来たようだ。
「準備は良いか?」
「ああ、よろしく頼む。」
ギルバートに頭を下げて二人で家を出た。
そんなリチャードをノーマンやニーナたちは心配そうに見送った。
「一気にシエナまで行くのは無理だ。おまえも本調子ではないからな。途中、コーストで休憩しよう。」
馬車の中で二人はずっと無言だった。リチャードは窓の外をじっと見つめている。コーストの手前の街まで来た時、教会の前で指揮を挙げたばかりの新郎新婦とその友人、親戚たちが目に入った。
皆幸せそうだ。新婦はオメガだろう。純白のタキシードに身を包み淡いブルーのブーケを手にしている。となりのアルファはそんな新婦の腰を抱いて何度も頬にキスを送っていた。
きっとルエもこんな結婚を夢見ていたのだろう。
それが自分のせいで…。そう思うと幸せそうな新郎新婦が涙で滲んで見えた。
「リチャード、過去は変えられない。おまえのしたことも、おまえの父親や兄のことも。どうする事もできないんだ。でも未来は何とでもなる。」
「ああ…。」
二人はほとんど話す事なくシエナを目指して馬車に揺られた。
屋敷を出て四日目、シエナについた。
中心街は人でごった返している。ベータがほとんどだか、アルファやオメガもいる。この街のどこがにルエがいるのだ。
「ルエが働いている食堂はどこだ?」
「ここからすぐだ。ヤドリギという店だ。」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「ルエ、そこはもういいからまかないを食べちゃいな。」
「はい。」
食堂のテーブルを拭いているルエに威勢の良い声がかかる。ヤドリギの女将だ。
ルエがここで働くようになったのはこの女将が拾ってくれたからだった。
辻馬車を乗り継いでシエナまで来たルエだったが持っていたお金は馬車代で底を尽きた。本当はもっと遠くに行きたかったが、お金がないのでシエナで降りることになったのだ。ほとんど飲まず食わずで来たためふらふらと街を歩く。仕事を見つけようといろいろな場所でお願いする側皆断られた。番いのいないオメガなんて厄介なだけだ。
中には娼館を勧めてくる者や、自分の妾にしようとする者もいた。
実家に帰る事もできないし本当に娼館で働くしか無い…。そう思いながら歩いていると大荷物を持った女将にぶつかりルエはそのまま吹っ飛んだ。疲れや腹が減っていたのもありそのまま気を失ってしまったのだ。
ルエの事情を知った女将が、ちょうど住み込みが二人辞めたところで困っていたと言ってルエを雇ってくれた。
口は悪いが気の良い女将だ。ルエは毎日感謝しながら働いた。
最初の頃は失敗ばっかりだったがひと月経つ頃にはできる仕事も増えた。何より可愛くて一生懸命のルエは常連客から人気もあった。
仕事が終わり一息つくと思い出すのはリチャードのことだ。あの匂いを嗅ぎたい。せめてリチャードが捨てたあのシャツだけでも持って来れば良かったと後悔した。急いでいたので巣はそのままにしてきてしまったのだ。大事にしていたぬいぐるみのトーイも置いてきてしまった。
そんなことを思いながらまかないを食べ終わり、夜の開店に向けて準備を始める。
女将が仕入れてきた野菜の下ごしらえを終えてテーブルのセッティングをしていた。
リチャードは教えてもらったヤドリギの前についた。closedの看板が掛かっている。
窓から中を覗いてみると小さな男が一人でテーブルを拭いたり調味料を置いたりしながらせかせかと働いていた。
ルエだ…。
少し痩せて髪も伸びている。伸びた前髪をピンで止め額を出している。不謹慎だがそんな姿も可愛いと思ってしまった。
「ルエ…。」
泣くまいと思っていたが涙が溢れて止まらない。
死ぬほど焦がれたルエが目の前にいるのだ。
大きく深呼吸をし、思い切ってヤドリギの扉を開けた。
「すいません、お店まだなんで…す…」
リチャードが入ってきた扉の方を振り返りながらルエが言ったが、その扉の前に立つリチャードを見て驚き固まった。
「ルエ…」
何か言葉にしようとするが出てこない。リチャードはただポツリとルエの名前を呼んだ。
「リチャード様…。」
ルエは持っていた布巾をポトリと床に落としリチャードを見つめる。するとその瞳から大粒の涙がポロポロこぼれた。
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