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ルエが居なくなってから一ヶ月半が過ぎた。
必死で探しているが見つからない。それとなくルエの実家を探ってみたが帰っていないようだった。
もしかしたら…もうこの世には居ないのかもしれない。
他のアルファの番いになって家に閉じ込められているのかもしれない。
そんなことを考えてしまうとリチャードは絶望の淵に突き落とされたような気持ちになる。
「ルエ、ルエっ!う、うぅ、ルエ…」
ここ半月、リチャードは自室に引きこもったままだ。ルエがいなくなってから徐々に食事が摂れなくなり、眠れなくなった。
リチャードは元々眠るのが苦手だった。それは母を亡くした頃からだ。
寝つきが悪く、さらに眠りも浅い。医者から薬をもらっているがあまり効果がない。
しかしなぜかここ数ヶ月ずっと質の良い睡眠がとれていた。寝つきも良くすっきりと目覚めることが出来ていたのだ。
それがルエが居なくなってからまた不眠症の症状が出てきた。頭も身体も疲れているのに眠れない。
リチャードは心身ともに弱っていった。
「ルエが来てからだ…。」
なぜ急に眠れるようになったのか。特に変わったことはなかった。それなのに急に薬も飲まずに眠れるようになった。
いつからだろうと思い起こしてみると八ヶ月ほど前からかだ。それはちょうどルエがこの屋敷に来た時だ。
発情期を一緒に過ごした時もだった。一日中愛し合っているのだからもちろん身体は疲れている。しかし、今までだってどんなに疲れていてもぐっすり眠れることはなかったのに。
ルエの隣でルエの匂いや温もりを感じながら寝るとぐっすり眠ることが出来た。頭もすっきりとして身体も軽かった。
この屋敷にルエが来て、リチャードのせいで会うことはなかったが彼の身体はルエの存在を感じ取っていたのだ。
だから急に眠ることが出来た…。
それなのに…。
「私はバカだ…。本当に、大バカだ。ルエ、許してくれ、ルエ…ルエ…」
ベッドの上で泣きながらルエに謝った。しかしルエが戻ってくることはなかった。
「ノーマン、リチャードはどうだ?」
ギルバートは数日ぶりにリチャードの屋敷を訪れた。
ルエが居なくなってからリチャードが落ち込み、引きこもっていることは知っている。
「ダメです。昨日は何も口にしませんでした。日に日に弱っています。夜中にふらっとルエ様の部屋に行かれてあの巣を眺めておられます。昨日は巣の前で倒れていました。このままでは旦那様は…」
「そうか。」
ギルバートはぐっと拳を握りしめノックもせずにリチャードの部屋に入った。
「ギル…」
ベッドの上で枕に寄りかかって窓の外を見ていたリチャードがゆっくり振り返りギルバートを見た。手にはあのぬいぐるみが握られている。
その顔を痩けて眼窩は落ち窪み無精髭が生えている。
顔色は青白く本当に病人のようだ。
「酷い顔だな。」
「…そうだな。」
「ルエはまだ見つからないのか?」
「ああ…」
ぼんやりと遠くを見つめ力なく返事をするだけだ。
「もう、この世にいないかもな。それか他のアルファの番いになったか。おまえと違って大事にしてもらってるかもな。」
「……。」
リチャードは俯き涙を流した。
「ギルバート様…これ以上は。」
ノーマンがリチャードを気遣って止めようとする。
しかしギルバートはそれを無視して続けた。
「探しても見つからないんだろ?もう諦めたらどうだ。」
「…それは出来ない。諦めるなんて…私には」
「もし会えたらどうするんだ?」
「会えたら…まず謝りたい。許してくれなくてもいい。それでもここにいて欲しい。」
「本当に自分勝手だな。離婚して追い出すつもりだったんだろ?それなのに急に掌返したってルエがなんて言うか…。ここに帰りたくないって言われたらどうするんだ。」
リチャードは拳を握りしめて声を出さずに泣いている。
「その時は…その時は遠くから見守るだけでも許してもらいたい。元気に暮らしていることさえ分かれば…それだけで…うぅ、うっ、うっ…。」
ギルバートはあ、と大きくため息をついた。そしてリチャードの近くに行きその顔を見据えた。
「ルエを見つけた。」
「……え?」
瞠目したリチャードがギルバートを見て固まる。
何を言われたか理解できないようだ。
「ルエを見つけた。シエナの宿場町にいる。」
「シエナ…」
シエナは大きな宿場町だ。多種多様な人たちが集まっている。隠れるにはもってこいの場所だった。
しかし、宿場には必ずついて回る悪習がある。皆そこで開放的な気分になり羽目を外したがるのだ。
「まさか…。」
宿場の近くの地区にはたくさんの娼館があるのだ。
オメガを専用に置いている娼館もあると聞く。
「おまえの心配しているようなことはない。ルエは宿場の食堂で働いている。」
ほっとしたのと同時にまだ涙が溢れた。ルエは仮にも貴族の息子だ。そんなルエが食堂で働いているなんて。そうさせたのは間違い無くリチャード自身だ。
リチャードはベッドから飛び起きてノーマンに告げた。
「すぐにシエナ行くぞ。準備をしてくれ。」
「おい、ちょっと待て。」
ギルバートはそれを引き止めた。
「何で止めるんだ。」
「おまえ、自分の顔をよく見てみろ。そんな顔でルエを迎えに行く気か?」
そう言われてリチャードは壁にかけてある鏡に映った自分を見た。
げっそりとして青白い顔。無精髭を生やして髪は伸びボサボサだ。
「ちゃんと身なりを整えてから行け。それとしっかり飯も食べて寝ろ。」
「そんなことしている場合じゃ…」
「いやダメだ。リチャード、今なぜこんなことになってるか分かるか?おまえが俺やノーマンの言うことを聞かなかったからだろ。」
「……。」
「明日出発だ。俺も行く。一日くらい待て。たった一日だ。ルエはで半年も一人で待っていたんだ。おまえが自分のところに来てくれるのをな!」
必死で探しているが見つからない。それとなくルエの実家を探ってみたが帰っていないようだった。
もしかしたら…もうこの世には居ないのかもしれない。
他のアルファの番いになって家に閉じ込められているのかもしれない。
そんなことを考えてしまうとリチャードは絶望の淵に突き落とされたような気持ちになる。
「ルエ、ルエっ!う、うぅ、ルエ…」
ここ半月、リチャードは自室に引きこもったままだ。ルエがいなくなってから徐々に食事が摂れなくなり、眠れなくなった。
リチャードは元々眠るのが苦手だった。それは母を亡くした頃からだ。
寝つきが悪く、さらに眠りも浅い。医者から薬をもらっているがあまり効果がない。
しかしなぜかここ数ヶ月ずっと質の良い睡眠がとれていた。寝つきも良くすっきりと目覚めることが出来ていたのだ。
それがルエが居なくなってからまた不眠症の症状が出てきた。頭も身体も疲れているのに眠れない。
リチャードは心身ともに弱っていった。
「ルエが来てからだ…。」
なぜ急に眠れるようになったのか。特に変わったことはなかった。それなのに急に薬も飲まずに眠れるようになった。
いつからだろうと思い起こしてみると八ヶ月ほど前からかだ。それはちょうどルエがこの屋敷に来た時だ。
発情期を一緒に過ごした時もだった。一日中愛し合っているのだからもちろん身体は疲れている。しかし、今までだってどんなに疲れていてもぐっすり眠れることはなかったのに。
ルエの隣でルエの匂いや温もりを感じながら寝るとぐっすり眠ることが出来た。頭もすっきりとして身体も軽かった。
この屋敷にルエが来て、リチャードのせいで会うことはなかったが彼の身体はルエの存在を感じ取っていたのだ。
だから急に眠ることが出来た…。
それなのに…。
「私はバカだ…。本当に、大バカだ。ルエ、許してくれ、ルエ…ルエ…」
ベッドの上で泣きながらルエに謝った。しかしルエが戻ってくることはなかった。
「ノーマン、リチャードはどうだ?」
ギルバートは数日ぶりにリチャードの屋敷を訪れた。
ルエが居なくなってからリチャードが落ち込み、引きこもっていることは知っている。
「ダメです。昨日は何も口にしませんでした。日に日に弱っています。夜中にふらっとルエ様の部屋に行かれてあの巣を眺めておられます。昨日は巣の前で倒れていました。このままでは旦那様は…」
「そうか。」
ギルバートはぐっと拳を握りしめノックもせずにリチャードの部屋に入った。
「ギル…」
ベッドの上で枕に寄りかかって窓の外を見ていたリチャードがゆっくり振り返りギルバートを見た。手にはあのぬいぐるみが握られている。
その顔を痩けて眼窩は落ち窪み無精髭が生えている。
顔色は青白く本当に病人のようだ。
「酷い顔だな。」
「…そうだな。」
「ルエはまだ見つからないのか?」
「ああ…」
ぼんやりと遠くを見つめ力なく返事をするだけだ。
「もう、この世にいないかもな。それか他のアルファの番いになったか。おまえと違って大事にしてもらってるかもな。」
「……。」
リチャードは俯き涙を流した。
「ギルバート様…これ以上は。」
ノーマンがリチャードを気遣って止めようとする。
しかしギルバートはそれを無視して続けた。
「探しても見つからないんだろ?もう諦めたらどうだ。」
「…それは出来ない。諦めるなんて…私には」
「もし会えたらどうするんだ?」
「会えたら…まず謝りたい。許してくれなくてもいい。それでもここにいて欲しい。」
「本当に自分勝手だな。離婚して追い出すつもりだったんだろ?それなのに急に掌返したってルエがなんて言うか…。ここに帰りたくないって言われたらどうするんだ。」
リチャードは拳を握りしめて声を出さずに泣いている。
「その時は…その時は遠くから見守るだけでも許してもらいたい。元気に暮らしていることさえ分かれば…それだけで…うぅ、うっ、うっ…。」
ギルバートはあ、と大きくため息をついた。そしてリチャードの近くに行きその顔を見据えた。
「ルエを見つけた。」
「……え?」
瞠目したリチャードがギルバートを見て固まる。
何を言われたか理解できないようだ。
「ルエを見つけた。シエナの宿場町にいる。」
「シエナ…」
シエナは大きな宿場町だ。多種多様な人たちが集まっている。隠れるにはもってこいの場所だった。
しかし、宿場には必ずついて回る悪習がある。皆そこで開放的な気分になり羽目を外したがるのだ。
「まさか…。」
宿場の近くの地区にはたくさんの娼館があるのだ。
オメガを専用に置いている娼館もあると聞く。
「おまえの心配しているようなことはない。ルエは宿場の食堂で働いている。」
ほっとしたのと同時にまだ涙が溢れた。ルエは仮にも貴族の息子だ。そんなルエが食堂で働いているなんて。そうさせたのは間違い無くリチャード自身だ。
リチャードはベッドから飛び起きてノーマンに告げた。
「すぐにシエナ行くぞ。準備をしてくれ。」
「おい、ちょっと待て。」
ギルバートはそれを引き止めた。
「何で止めるんだ。」
「おまえ、自分の顔をよく見てみろ。そんな顔でルエを迎えに行く気か?」
そう言われてリチャードは壁にかけてある鏡に映った自分を見た。
げっそりとして青白い顔。無精髭を生やして髪は伸びボサボサだ。
「ちゃんと身なりを整えてから行け。それとしっかり飯も食べて寝ろ。」
「そんなことしている場合じゃ…」
「いやダメだ。リチャード、今なぜこんなことになってるか分かるか?おまえが俺やノーマンの言うことを聞かなかったからだろ。」
「……。」
「明日出発だ。俺も行く。一日くらい待て。たった一日だ。ルエはで半年も一人で待っていたんだ。おまえが自分のところに来てくれるのをな!」
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