優しすぎるオメガと嘘

みこと

文字の大きさ
4 / 41

4

しおりを挟む
「ルエ様、お怪我をされたようで。」

「え?はい。ギル様に聞いたんですか?」

「ええ、菌が入ると厄介なので消毒をしましょう。」

「ありがとうございます。」

ノーマンはたらいに湯を張り傷口を綺麗に洗って軟膏とガーゼを当ててくれた。

「ヒタキの巣をお守りになったとか。」

「へへ。でも僕はやられちゃいました。守ったのはギル様です。」

「いえいえ、ルエ様。ヒタキは幸せを運ぶ鳥です。ヒタキが巣を作る家は幸せになると言います。ルエ様はこの家の幸せを守って下さったのですよ。」

この家の幸せ…。それは一体何なのだろうか。
この家の幸せはルエの幸せとイコールなのだろうか。
ルエはノーマンの顔を見ながらぼんやりと考えていた。


その日を境にギルバートと庭で会うことが増えた。
話し相手が出来たルエはギルバートの存在が嬉しかった。
二人で他愛もない話をしたり、ヒタキの巣や庭を訪れる小さな動物を眺めたりして過ごした。

「ルエ、ここの生活は慣れたか?」

「はい。皆さんに良くしてもらってます。ギル様にも。」

「そうか…。ルエは何でリチャードのところに嫁に来る気になったんだ?」

「それは、父が決めてきたことなので…。」

「そうだよな。断れないよな。」

「でもそれだけではありません。僕はリチャード様を知っています。昔、子どもの頃ですけどお会いしたことがあるんです。そのとき、素敵な人だなぁと思いました。オメガだと分かったばかりだったので、こんな素敵なアルファの番いになりたいと思ったんです。」

ギルバートはじっとルエを見つめている。

「ルエ、これはもしもの話だが、もしリチャードが離婚したいと言ったらどうする?」

「離婚ですか…。」

リチャードと離婚。考えなかった訳ではない。
彼はルエに会う気もないのだ。
何故結婚したのかも分からない。

「それは、そうなったら仕方がないですね。僕はそれを受け入れるしかありません。」

十二歳のリチャードを思い出した。優しい笑顔と精悍な顔立ち。芳しい彼の匂い。
あの匂いをルエは忘れたことがなかった。

「そうか…。」

ルエの話を聞いたギルバートは悲しそうに笑った。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「ルエ様、ヒタキの卵が孵ったようですね。」

「うん。良かった。三羽とも無事で。」

「あとは巣立つだけです。」

「楽しみだね。」

ノーマンは優しい笑顔でルエを見た。
ここへ来て二か月が経ち、ルエは少しづつ皆と心を通わせていた。優しく穏やかなルエに屋敷の使用人も好意的だ。
ただやはりリチャードと会うことはなかった。

ルエは庭の散策していると厨房の勝手口から出てきた人とぶつかりそうになった。

「ごめんなさい!」

「こちらこそすいません。」

その男の子は大きな牛乳の入れ物を抱えていた。

「あ!中身、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。空なんで。」

そう言って笑顔で中身を見せてくれた。

「新しい牛乳を運んで空の容器を回収してるんですよ。」

その男の子が指差した方を見ると荷馬車にたくさんの容器が乗っている。

「あれ全部がこの屋敷のですか?」

「いやいや、まさか。私はこの辺り一帯のを回ってるんです。ここが最後なんで後は街まで行くんですよ。」

牛乳配達は三日ごとに朝と夕で決まった時間に来ると言った。遅れると牛乳がダメになってしまうので必ず同じ時間にくるようだ。

「じゃあ、毎度~!」

男の子は元気よく挨拶をして荷馬車を走らせた。
ルエはその荷馬車を眺めていた。



「あの荷馬車に乗れば街に行けるんだ。」

ルエは街に行って見たくなった。ギルバートは毎日来る訳ではないし、ノーマンには仕事がある。
やはり退屈で仕方ない。
一度だけ行ってみても良いかな?夕方に戻れば良い。
そう思うとワクワクしてきた。
次の配達日は三日後だ。
その日にあの荷馬車に乗せてもらって街まで行ってみよう。
退屈だったルエにも楽しみが出来た。





いよいよその日がやって来た。
ルエは出かける準備を整えていた。
配達は朝の十時にやってきて夕方の十七時に頃にはこの屋敷に空の容器を回収にくる。
これは厨房の使用人に聞いたのだ。だから昼さえなんとかなればバレずに行って帰って来られる。
ルエは昨日から具合があまり良くないとノーマンに伝えていた。嘘をつくのは心苦しかったが、一日だけ街に出たかったのだ。
今朝も朝食を食べた後、ノーマンに少し寝るから起こさないで欲しいと頼み部屋に下がった。
部屋に戻ってから小さな肩掛け鞄を出して荷物を詰める。と言っても持っていくものはほとんどない。
ハンカチと小さな巾着、祖母からもらった大事なブローチをしまった。これはルエのお守りで肌身離さず持っている。
お金をほとんど持っていないルエはコイン二枚を巾着に入れた。

「よし、そろそろ時間だ。」

見つからないように裏口からそーっと外に出る。庭をぐるりと回って厨房の入り口に出た。
前に荷馬車が停まっていたところで隠れて待っていると時間通りに荷馬車がやってきた。
大きな牛乳の容器を抱えてルエより少し歳下の男の子が厨房に入っていく。
しばらくすると手ぶらで荷馬車に戻ってきた。

「あ、あの!」

「うわぁ!びっくりした。えっと君はこの間の…。」

「あの、お願いがあるんです。」

ルエは驚いて目を丸くしているその男の子に頭を下げた。



「すごい!たくさんの量だなぁ。」

荷馬車の隅に座ってガタガタと揺れている。
男の子は驚いたようだったが快く了承してくれた。
まさかルエがクロフォード公爵の妻だとは思ってもいないようだ。
途中、ルエも牛乳を運ぶのを手伝ったりしながら街に着いた。

「夕方の鐘が鳴ったらここから出発するからね。遅れてきたら置いてくよ。」

「はい。ありがとう。」

お礼を言って別れる。街は賑わっていてルエは久しぶりにワクワクした。

 
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...