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ルエが屋敷に来てから何日か経ったが、一度もリチャードに会うことはなかった。食事は広い食堂で一人で食べて、部屋に戻りぼーっと過ごす。極たまにメイドやノーマンが話し相手をしてくれる。
それでも皆んなには仕事があるのでずっとルエの話し相手をしていることは出来ない。なのでほとんどの時間を一人で過ごした。
家から持ってきた本は何度読み直したか分からない。
只々何もする事なく過ごしていたのだ。
窓から外を眺めると広い庭が見えた。
庭に出れば少しは時間が潰せるかも。それに何か面白い物が見つけられるかもしれないと思い、庭に出てみたいとノーマンに頼んだ。
しばらく考えていたが、ルエを不憫に思ったのだろう。少しの時間なら構わないと言ってくれた。
一日に数時間だが、庭に出て外の空気を吸う。
それだけで気分が晴れるようだ。
「あ!ヒタキの巣だ!」
庭の端の草むらに小さな巣を見つけた。
可愛い卵が三つ巣の中に並んでいる。
一羽のヒタキが飛んできて卵を温めていた。
可愛いな、と思って見ているともう一羽巣に戻ってきて卵を温めていたヒタキに餌を食べさせていた。
「ヒタキの夫婦かぁ。」
餌を食べさせて一緒に卵を温めている。その仲睦まじい姿を見てルエは切なくなった。
この屋敷来てひと月が経とうとしている。
リチャードには一度も会っていない。ノーマンの様子では屋敷にいることには間違いない。おそらくルエに会う気はないのだろう。
ぼーっとしたルエでも分かる。
こんなに立派な屋敷に住んで、リチャードの妻になったがルエが想像していた生活とはかけ離れていた。
ルエの両親のように仲良く支え合う夫婦を思い描いてここへ来たのに。
ノーマンやメイドたちは冷たくはない。むしろ優しく丁寧に接してくれる。でも必要以上にはルエに関わろうとしない。
ルエは今、寂しくて孤独だ。
「はぁ…。」
泣きそうになる気持ちをぐっと堪えた。
辛いからと言ってルエに他の選択肢はない。ここに居るしかないのだ。
ぼんやりとヒタキの巣を眺めていると親鳥の夫婦が何やらそわそわし出した。
「あ!ヘビだ…。」
ヒタキの巣をヘビが狙っていたのだ。ヒタキではとても太刀打ちできそうもない大きなヘビだった。
「ど、どうしよう…。」
ヘビは体をくねらせながらヒタキの巣へ近づく。親鳥たちは巣の周りで飛び回っていた。
このままでは卵が食べられてしまうだろう。
このヒタキの家族はルエがここに来てから初めて見つけた幸せの形だ。なんとかして助けないと。
ルエは近くに落ちていた木の棒を拾いヘビを追い払おうとした。
「ダメだよ。この家族だけはダメだ!」
何度か木の棒てヘビを突くと急にヘビは鎌首をもたげてルエの方を見た。口を開けて威嚇している。
「ひっ!」
怖くて後ずさるが、負けるわけには行かない。
ルエがさらに棒でヘビに攻撃しようとすると、なんとヘビがルエに襲いかかってきた!
「うわっ!やだ!怖いよ!」
そのまま後ろにひっくり返ったルエの足にヘビの鋭い牙が刺さった。
「あっ!」
痛みと恐怖で声が出ず、ぎゅっと目をつぶって倒れたときだった。
「おい!何してるんだ!」
誰かが走り寄って来る気配を感じたが、恐怖で身体が動かない。
「ヘビか!ちょっと待ってろ!」
その声の主の男はルエの落とした木の棒でヘビを殴りつけた。ヘビはやっと口を離してその場で息絶えたようだった。
「大丈夫か?」
「は、はい。…ありがとうございます。」
「傷を見せて見ろ。大丈夫だ。毒は持っていない。」
その男は傷口を見てハンカチで血を抑えてくれた。
初めてみる顔だ。
ダークブロンドとヘーゼルの瞳の精悍な男だった。
「おまえは誰だ?こんな所で何をしていたんだ?」
「ルエです。ここにお嫁に来た者です。」
驚いた顔でルエを見た男は今度は上から下まで舐めるように見た。
「そうか…。おまえが…俺はリチャードの友人のギルバートだ。」
「ギルバート様。」
「あはは、ギルで良いよ。ところで何でヘビにやられてたんだ?」
「あ、そうだ!ヒタキの家族!」
「ヒタキの家族?」
ルエは立ち上がって巣を見に行った。卵は無事だ。ヒタキの夫婦も巣の周りをゆっくりと飛んでいた。
「良かった…。」
「これか?これを守ろうとしたのか?」
「はい。」
「それで自分がやられた。」
「…はい。」
ルエは恥ずかしさと情けなさで下を向いてしまう。
「大事にならなくて良かったよ。傷はノーマンに消毒でもしてもらえ。あと、このヘビを役所に持って行くと懸賞金を貰えるぞ。最近、家畜や鶏がやられる被害が多くてな。ヘビを捕まえたら金がもらえるんだ。これはデカいから結構良い金になるかもな。」
「で、でも、やられたのは僕です。懸賞金はギル様がもらった方が良いです。」
「あはははは!そうか、そうだな。ルエはやられたもんな。」
「……。」
「まあ、そう落ち込むな。卵も助かったし。良しとしよう。」
「はい。」
ギルバートは明るく人懐っこい性格のようだ。ルエとギルバートはヒタキの巣から少し離れたところに座り話をした。
「リチャードとはどうだ?ルエはオメガだろ?」
「まだ一度もお会いしていないんです。」
「え?ここへ来てひと月経つのにか?そうか、俺も久しぶりにここへ来たからな。」
「はい。リチャード様は何で僕を選んだのでしょうか。」
「うーん、いや、まぁ、リチャードにもいろいろあってな…。ルエが悪いわけじゃないんだ。」
ギルバートは何か知っているのかもしれない。急に口籠もってしまった。
「でも、僕には選ぶ権利はありませんから。それに皆さん親切で何不自由なく暮らせていますし。リチャード様には感謝しています。」
そうなのだ。ここの生活は退屈だけど三度の食事と暖かいベッドがある。贅沢は言えない。それにみんな親切だ。
「そ、そうか。それは良かったな。ルエの部屋はこの屋敷のどこにあるんだ。」
「一番北側の棟です。とても綺麗で良いお部屋を頂いてます。」
ルエが笑顔で答えると何故がギルバートは困ったような顔をした。
それでも皆んなには仕事があるのでずっとルエの話し相手をしていることは出来ない。なのでほとんどの時間を一人で過ごした。
家から持ってきた本は何度読み直したか分からない。
只々何もする事なく過ごしていたのだ。
窓から外を眺めると広い庭が見えた。
庭に出れば少しは時間が潰せるかも。それに何か面白い物が見つけられるかもしれないと思い、庭に出てみたいとノーマンに頼んだ。
しばらく考えていたが、ルエを不憫に思ったのだろう。少しの時間なら構わないと言ってくれた。
一日に数時間だが、庭に出て外の空気を吸う。
それだけで気分が晴れるようだ。
「あ!ヒタキの巣だ!」
庭の端の草むらに小さな巣を見つけた。
可愛い卵が三つ巣の中に並んでいる。
一羽のヒタキが飛んできて卵を温めていた。
可愛いな、と思って見ているともう一羽巣に戻ってきて卵を温めていたヒタキに餌を食べさせていた。
「ヒタキの夫婦かぁ。」
餌を食べさせて一緒に卵を温めている。その仲睦まじい姿を見てルエは切なくなった。
この屋敷来てひと月が経とうとしている。
リチャードには一度も会っていない。ノーマンの様子では屋敷にいることには間違いない。おそらくルエに会う気はないのだろう。
ぼーっとしたルエでも分かる。
こんなに立派な屋敷に住んで、リチャードの妻になったがルエが想像していた生活とはかけ離れていた。
ルエの両親のように仲良く支え合う夫婦を思い描いてここへ来たのに。
ノーマンやメイドたちは冷たくはない。むしろ優しく丁寧に接してくれる。でも必要以上にはルエに関わろうとしない。
ルエは今、寂しくて孤独だ。
「はぁ…。」
泣きそうになる気持ちをぐっと堪えた。
辛いからと言ってルエに他の選択肢はない。ここに居るしかないのだ。
ぼんやりとヒタキの巣を眺めていると親鳥の夫婦が何やらそわそわし出した。
「あ!ヘビだ…。」
ヒタキの巣をヘビが狙っていたのだ。ヒタキではとても太刀打ちできそうもない大きなヘビだった。
「ど、どうしよう…。」
ヘビは体をくねらせながらヒタキの巣へ近づく。親鳥たちは巣の周りで飛び回っていた。
このままでは卵が食べられてしまうだろう。
このヒタキの家族はルエがここに来てから初めて見つけた幸せの形だ。なんとかして助けないと。
ルエは近くに落ちていた木の棒を拾いヘビを追い払おうとした。
「ダメだよ。この家族だけはダメだ!」
何度か木の棒てヘビを突くと急にヘビは鎌首をもたげてルエの方を見た。口を開けて威嚇している。
「ひっ!」
怖くて後ずさるが、負けるわけには行かない。
ルエがさらに棒でヘビに攻撃しようとすると、なんとヘビがルエに襲いかかってきた!
「うわっ!やだ!怖いよ!」
そのまま後ろにひっくり返ったルエの足にヘビの鋭い牙が刺さった。
「あっ!」
痛みと恐怖で声が出ず、ぎゅっと目をつぶって倒れたときだった。
「おい!何してるんだ!」
誰かが走り寄って来る気配を感じたが、恐怖で身体が動かない。
「ヘビか!ちょっと待ってろ!」
その声の主の男はルエの落とした木の棒でヘビを殴りつけた。ヘビはやっと口を離してその場で息絶えたようだった。
「大丈夫か?」
「は、はい。…ありがとうございます。」
「傷を見せて見ろ。大丈夫だ。毒は持っていない。」
その男は傷口を見てハンカチで血を抑えてくれた。
初めてみる顔だ。
ダークブロンドとヘーゼルの瞳の精悍な男だった。
「おまえは誰だ?こんな所で何をしていたんだ?」
「ルエです。ここにお嫁に来た者です。」
驚いた顔でルエを見た男は今度は上から下まで舐めるように見た。
「そうか…。おまえが…俺はリチャードの友人のギルバートだ。」
「ギルバート様。」
「あはは、ギルで良いよ。ところで何でヘビにやられてたんだ?」
「あ、そうだ!ヒタキの家族!」
「ヒタキの家族?」
ルエは立ち上がって巣を見に行った。卵は無事だ。ヒタキの夫婦も巣の周りをゆっくりと飛んでいた。
「良かった…。」
「これか?これを守ろうとしたのか?」
「はい。」
「それで自分がやられた。」
「…はい。」
ルエは恥ずかしさと情けなさで下を向いてしまう。
「大事にならなくて良かったよ。傷はノーマンに消毒でもしてもらえ。あと、このヘビを役所に持って行くと懸賞金を貰えるぞ。最近、家畜や鶏がやられる被害が多くてな。ヘビを捕まえたら金がもらえるんだ。これはデカいから結構良い金になるかもな。」
「で、でも、やられたのは僕です。懸賞金はギル様がもらった方が良いです。」
「あはははは!そうか、そうだな。ルエはやられたもんな。」
「……。」
「まあ、そう落ち込むな。卵も助かったし。良しとしよう。」
「はい。」
ギルバートは明るく人懐っこい性格のようだ。ルエとギルバートはヒタキの巣から少し離れたところに座り話をした。
「リチャードとはどうだ?ルエはオメガだろ?」
「まだ一度もお会いしていないんです。」
「え?ここへ来てひと月経つのにか?そうか、俺も久しぶりにここへ来たからな。」
「はい。リチャード様は何で僕を選んだのでしょうか。」
「うーん、いや、まぁ、リチャードにもいろいろあってな…。ルエが悪いわけじゃないんだ。」
ギルバートは何か知っているのかもしれない。急に口籠もってしまった。
「でも、僕には選ぶ権利はありませんから。それに皆さん親切で何不自由なく暮らせていますし。リチャード様には感謝しています。」
そうなのだ。ここの生活は退屈だけど三度の食事と暖かいベッドがある。贅沢は言えない。それにみんな親切だ。
「そ、そうか。それは良かったな。ルエの部屋はこの屋敷のどこにあるんだ。」
「一番北側の棟です。とても綺麗で良いお部屋を頂いてます。」
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