最高で最強なふたり

麻木香豆

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生き霊編

第一話

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「僧侶様この度はよろしくお願いいたします」
「……」

 とある老夫婦、懇願するのは男、名は近藤。ともう1人は何も発せず、妻であろう女。2人ともに白髪。

 天狗が住むという山の麓にある寺に有名な僧侶が住んでいた。
 大きな鼻をしていかにも天狗のようだった。顔は真っ赤ではない。

「周りにこちらを薦められて参りました。十年近く悩まされております。病院も点々とし、事件の時に受けた傷とは関係ない、ただの加齢によるものだ、それ以外は全くわからんと適当な診察ばかりで……妻も全く言葉も発せず、毎晩夢にうなされております」
「ほぉ、で?」

 僧侶は聞くだけである。どっしりと構えている。

「何か他に原因があるのでは、と思いまして。みていただけないでしょうか」
「ふむ」
 僧侶は2人を見るがすぐ答えを出した。
「2人には生き霊が憑いておる」
「生き霊?! なんですかっ、それは」
「ここに来た時からずっと大きな黒い渦が取り巻いていた。相当な恨みがある生き霊だ。心当たりはあるか」

 近藤はんんん、と考え込む。妻と思える女は放心状態だ。

「……この生き霊を取り除くにはこちらにいきんしゃい」
「な、なんですかいっ。またたらい回しですか! 病院も、役所も!!!」

 近藤は目を大きく開けて僧侶に楯突く。僧侶は動じない。

「わしが若かったらすぐヒョイっといくんだけども今は弟子たちに全部任せておる。わしはこの街の治安を守るだけで精一杯じゃ」

 と僧侶が首をゴキゴキ鳴らすとそれが合図かのように近くにいた中年で袈裟を着た男が名刺らしきものを近藤に渡す。そして僧侶の部屋から2人を出して扉を閉める。

「ここまででございます」
「なんでだ! こないだもここに来た時にお前が受付をして。そうだ、名前は倉田……と言ったな、日を改めて一万払って僧侶に見てもらえると言ってたのに」

 袈裟を着た男、倉田は背が高く近藤を見下ろしニコッと笑った。
「あくまでも、みてもらう、ですから。この名刺に書いてある場所に。多分行っても大丈夫でしょう、営業時間内ですからそこのマスターに『僧侶からの紹介で』といえばオッケーでしょう」

 近藤は名刺を受け取るが老眼で見づらそうに目を細める。なんとか文字はわかった。

『真津珈琲店』

「寺の次は喫茶店か?! こんちきしょう……」

 ブツブツと言いながら夫婦は寺を去る。妻らしき女は近藤の後ろをゆっくりついていく。
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