最高で最強なふたり

麻木香豆

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生き霊編

第二話

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 2人が乗った塗装の剥がれた古い高級車は真津珈琲店に着く。近藤老夫婦は普通の小洒落た喫茶店か、と落胆する。

「いらっしゃい」

 と背の高い白髪のマスターに、今時珍しい割烹着を着た若いメガネのかけたウエイトレス、カウンターには常連客であろう男とランドセルを椅子に置き座ってご飯を食べてる小学生がいる。
 奥にも数人客はいるが、老夫婦を小学生の男の子がじっと見る。

「いらっしゃいませ、まずはあちらに」

 特になんの用事かとも伝えてないのだがウエイトレスが奥の先に老夫婦を通す。そして水とおしぼりを置き

「コーヒー、紅茶、烏龍茶、麦茶、各種ホットをご用意しております」

 と伝える。

「まだここで飲むとは決めてはいないのだが、あそこの山の寺にいる僧侶に言われてここに来たのだが」

 近藤は他の客がいることを遠慮しつつも少し荒々しくウエイトレスに言うと彼女は微笑み

「はい、お待ちいただくのでお代はいただきません。お選びください」

 と。近藤はすぐさま答えた。

「ホットと妻は麦茶で、ああ温かいので頼む」
「かしこまりました」

 ウエイトレスが去るが、カウンターから小学生の男の子が相変わらず近藤夫婦を見ている。

「なんだあのガキは。しかも夕方というのに学校帰りに喫茶店でご飯……」

 ブツブツと言っているとカウンターの奥からグツグツと音が聞こえてきた。どうやら本格的なコーヒーを淹れているようで、いつもは安いインスタントコーヒーでコーヒーを飲んでいた近藤にとっては贅沢にしか思えなかったが、タダということもあって大人しく待つことにした。

 隣にいる妻の髪からはふけが落ちる。肩はふけだらけ、わざと鼠色の服を着て誤魔化してはいる。風呂は3日に一回、シャンプーは一週間に一回、髪の毛は染めることもなく真っ白である。
 その頭の一部には大きな傷がある。匂いもきついが他の客から離れてはいる。近藤はずっとそばにいるから慣れているのであろう。店は巷のウイルス感染の予防として換気をするように言われており匂いは蔓延することはない。
 そんなことを気にしながらも飲み物が来るのでさえ遅くて近藤はイライラいてきた。

 そんな夫婦の元にウエイトレスがようやくやってきてコーヒー、麦茶が置かれ豆がたくさん入った小袋を置く。サービスでつくようなものである。

「これがあの機械で淹れたコーヒー……確かに匂いが違う」
「はい、マスターがこだわり抜いたままを使用しております、機械も昔から使ってるもので日本では数台しかないモノなんです」

 と解説をして去ったウエイトレスとすれ違うかのように1人のネイビーのスーツを着たブラウンのボブヘアの女性が夫婦の前に座った。コーヒーをすすった近藤はコーヒーの苦味に顔を歪めた。

 かなり時間を待たされ、何がこだわりの豆、機械だ……と思いながらも、妻に出された麦茶でさえも疑ってしまう。

「初めまして、来てくださってありがとうございます。私、真津探偵事務所所長の菅原美帆子と申します。この度は僧侶からのご依頼、とのことですね」
「……はい、私たちは複数の病院、役所、寺とたらい回しにされてへとへとなんです。ここまで辿り着くまでに」
「それはそれはご足労おかけしました……まずはこちらの用紙に記入をお書きください」 

 と美帆子から書類を渡されて近藤はうんざりする。待たされた挙句に書類を書くのか、名前、住所、電話番号、症状、家族構成……どの場に行っても書かされた。そして話をした。もうそれの繰り返しである。全部自分の話が伝わってないのかと憤りを通り越していると近藤は震えるが、目の前で優しく微笑む美人な所長を目の前にすると怒りを出すことはできなかった。

 近藤が書き終わる頃にはコーヒーも冷め切っていた。美帆子はコーヒーを飲みながら手帳を開き何かを確認してるかのようであった。
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