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二章
背丈のいい男子生徒もこれを着るんだろうか
しおりを挟む「よく似合っているよ、シャノン君」
「えへへ……」
春になり十三にもなって、俺は学園の中等部に通うことになった。もちろん魔術科である。
義兄は貴族科らしいけど、そもそも彼は高等部の最高学年なので俺が貴族科に通っていたとしてもなかなか会わないだろう。
魔術科の制服だというローブを着て、鏡の前でくるくると回った。
学園共通の制服の上に真っ黒のローブ。
一見味気ないように見えても手触りはいいし、裾にはさりげなくフリルがついているし、なにより首元にある大きなリボンがめちゃくちゃ可愛い。
似合うなあ、俺! 暖色系の髪色との差がすごく良い。
「シャノン」
「はいっ」
「忘れもの」
リアムに名を呼ばれて振り向くと、思いの外近いところに顔があって固まってしまった。
その隙に胸元のリボンに透明な……角度によって金が見える宝石がついたブローチが飾られる。
「えっ、でもこれ、失くすと嫌だなって……」
これは俺の誕生日にリアムが贈ってくれたものだ。
どうやら中に光魔法を込めているらしく、以前見た魔石よりも数段効果が高いらしい。
曰く、店で売られている魔石は前にも言った通りお守り程度の効能だけど、これは危険があると自動で結界が張られるだとか多少の傷なら治るとか云々……。
もはや国家機密ものじゃないのか?
効能はさておいたとしても、リアムから貰った大事なものだからあまりこうやって見えるところにつけたくないのが本音だ。盗られそうだし。
「つけてないと意味がないだろう? ……大事にしてくれているのは分かってるよ、ありがとう」
リアムはそう言って俺の頬を指先で撫でた。
俺も伊達に義兄のこの甘ったるい空気を食らいまくっていたわけではない。頬や頭を撫でられたくらいでいちいち顔を真っ赤にしていた頃の俺じゃない!
……顔に出なくても脈のはやさはすぐバグってしまうけど。
そんな俺たちを父も母も何だか妙に生暖かい目で見ていて、居た堪れない。
精霊案件のためにリアムとちゅっちゅしていたあの日、もう必要ないと分かってからは当たり前だがキスなんてしていない。しかし一緒には寝ていた。
副作用が切れたら適度な距離に……ともだもだ思っていたのはなんだったのか、リアムは同じように、いや前以上に俺に対して甘々になってしまった。
隙あらば手を繋がれているし顔を触られているし腰を抱かれているし、え? 隙間って何ですか? ってくらい物理的な距離が近い。
自分の恋心を自覚している俺は嬉し恥ずかしでもう心臓が大変である。
……まあ、好きとか言われてないし俺も好きなんて言う勇気は相変わらずないけど!
だってこの世界には原作があるんだ。
リアムの婚約者は未だ音沙汰がないし、俺が好き好き言った後にそんな人ができましたとか報告されたら俺はその場で倒れて死んでしまう。
だから俺は、この甘酸っぱい空気を吸うだけで満足だと自分に言い聞かせると決めている。間違っても堂々とこの人の横に立ちたいなんて思わないように……思わな……。
リアムと視線を合わせるとゆっくり口元が緩んで微笑まれた。
義兄は、自分で言うのもアレだが、俺に対してだけ高頻度でこういう優しい笑みを見せる。
(…………かっこいい~…………)
こんな美形が俺とちゅーする時はあんな熱の篭った目を向けてくるんだよな……。
…………じゃなくて!!!
すぐお花畑になる頭をどうにかしたい。砂糖でも詰まっているのかもしれない。もはや土に埋まって消えたい!
「おい、だからすぐそうやって魔法使おうとするのやめろって! あんなに特訓したろ……。ほんとに学園行って大丈夫か?」
途端に耳元でテディの声が聞こえてハッとした。危ない。
ちゃんとテディが見れるようになったあの日から、俺はとにかく闇魔法の制御を猛特訓したのだ。
転生したからか、闇と言われて色々なことがイメージしやすいこの脳みそは闇魔法との親和性が凄く良いらしく、教えられたことをすぐ習得することができた。
ただその分無意識で発動してしまうことが多くて、それを抑えるための訓練の方が大変だった……。
大丈夫、俺がコレに関してポンコツになるのはリアムに対してだけだから!
小さく頷くとテディは呆れたように半目でこっちを見てきたけど気にしない。
この国では、魔力があるものは学園に通うのが基本だ。どの学科でも基礎の魔法は習うからね。その中でさらに魔法を極めたい層が魔法科に通う。
殆どの人は過程で魔力操作だけ覚えて、実際の魔法は学園で教わる。俺たちみたいに精霊に直に教わるなんてことはない。
そう、俺たちは闇と光を教わるついでと言わんばかりに他属性の魔法についてもちょっとだけ教えてもらったのだ。
加護がないから姿は見えないけど、めちゃくちゃ気安い感覚で風の精霊や水の精霊を呼んでくるからこっちが肝を冷やした。テディはコミュ強だから友達が多いらしい。
「……やっぱり心配だ。シャノン、君の才や君自身を狙う家は多いだろう。魔法科は身分差別が少ない分、それこそいろいろなところから。何かあれば……いや、何か起こる前に必ず相談してくれ」
……義兄の過保護が発動している!
嬉しいと思っちゃう俺は大概だ。にやにやが抑えられない。
「大丈夫ですっ。家の恥になることはしません。しっかり通って、あわよくば就職先もゲットしてきます!」
本当はリアムのそばにいたいけど、そんな甘えたことは言っていられない。将来義兄に嫁が出来たら俺が闇堕ちしてしまうかもしれないし。
せめて拾ってもらったお返しになるように、良いツテでも拾おう。
よし、俺は学園でも基本的には真面目に、でもちょっとあざとく生きていくのだ!
「ええと、就職先は……。父上、やはり通わせないとダメでしょうか?」
「うむ、お前の懸念はもっともだが……。口さがない者に何か言われるのはリアムもシャノン君も嫌だろう」
リアムがちょっと困ったように眉尻を下げて父を見る。いつも飄々として見える義兄ではなく、少し年相応に見えた。
……何だその顔は! あんまり可愛い顔をされると俺の心臓が危ないんだが!?
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