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二章
背丈のいい生徒はフリルもリボンもついてなかったです
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リアムは正門まで一緒に登校してくれたけど、中等部と高等部は入学式の会場が違うのでそこでお別れになった。寂しい。
俺が犬なら耳が垂れ下がってクーンと鳴いていたことだろう。
ヤバい上級生に絡まれるイベントなど発生して欲しくないので、微妙に気配を薄めて会場まで急ぐ。
そうしてついた館の中には、俺と同じ魔法科と思わしき人や、ドレスを着ている御令嬢(きっと貴族科だ)、おそらくは騎士科と思われる人物等々色々な影が所狭しと並んでいた。
受付の生徒に席を教えてもらい、ちょっとビビりながらそこに進む。
席に座るとやっと一息つくことができた。孤児院でも伯爵家でも、身内の中でぬくぬくと生きてきていたからこういう初対面だらけの空気感は落ち着かない。
引き取られた時の俺は一方的にリアム達のことを知っていたし。
それに貴族同士なら元より関わりがあることも多いんじゃなかろうか。
俺みたいな平民上がりくらいしかマジの初対面っていないのでは?
やばい、なんか胃が痛くなってきた。
俺は甘えた世界で生きていたんだな……と思っていると、隣からやけに明るい声が聞こえてきた。
「えっ、かわ……。ゔうんっ。ねえ君、ここは男子生徒の席だよ。間違えてない?」
柔らかい藍色の髪に金の目をした青年が心配そうに俺を見ている。
……ん? 俺、女の子だと思われてるのか?
確かに、確かに俺はウルトラプリティーフェイスではあるけど! 女の子に間違えられたことは今まで一度もなかったので軽く衝撃を受ける。髪も長くないのに!
「いえ、僕、男なので合って……ます。」
「え! ご、ごめん。すごく可愛いから、じゃなくてええと……。あ、お、私も魔法科なんだ! 私は侯爵家で、えーと、えーと……、あ、アルロって呼んで。……名前、聞いても良い?」
魔法科なのは見たらわかる。ローブ着てるしな。
やけに顔を赤くしてちらちらと俺を見る彼……アルロに居た堪れない気持ちになった。申し訳なさすら感じる。
え? 俺この人のハートに弓矢突き刺しちゃった感じなのか? 気まずいな普通に。
「僕はシャノンって言います。その、ガルシア伯爵に引き取っていただいた元平民で……。貴方のような身分の方にそのように接していただくのは……」
とはいえ、俺は俺のために彼の友人ポジションを手に入れることに決めた。いくら魔法科が実力重視で身分差別が少ないと言っても、俺が元平民なことには変わりないし。味方は多い方がいい。
どの辺が女の子に見えるんだよ! と聞きたい気持ちを抑え込んで、ちょっと俯いてそう言う。
実際、侯爵家の子息なんかにこんなフレンドリーに話しかけられるのは本音として怖いし!
「ああ、君が! そんなこと気にしないで、それに私は別に長男じゃないし。今年の魔法科は私の知り合いも多いけど、みんな気のいいやつだから。そもそも入学試験を二位で突破してきたし、し、シャノンに喧嘩なんて売れないだろ」
「でも……」
「それにガルシア伯爵って言ったら国内の流通の鍵とまで言われているお家だろう。大丈夫だよ」
そうなのだ。俺は学園の入学試験……という名の、零点でも入学自体はできるためただの実力テストでめでたく二位を掻っ攫った。
一位になるとそれはそれで悪目立ちしそうだったから若干手を抜いたところもあるけど、噂によると一位は満点だったらしいので俺が手を抜かなくても首席だっただろう。
学力を見るだけでなく、試験の一環で魔力量も測ったので、喧嘩を売れないとはこれのことだ。
自分より魔力量が多い奴に絡んで返り討ちにされたらそれこそ恥である。
なんか、そう言うとイキっているみたいで恥ずかしいけど……。
「……ありがとうございます、アルロ様」
彼に向かって恥ずかしげに微笑む。伯爵家のことも褒めてくれて気分が良いので出血大サービスだ。
アルロは赤い顔をさらに真っ赤にして壊れたようにこくこくと頷いている。
……身分の高い貴族って小さい頃から御令嬢と関わる機会が多いんじゃないのか? 俺より可愛い(というか俺は男だし)女の子と触れ合ったことなんて勿論あるだろう。免疫無さすぎないか? 大丈夫か?
その後、見るからに賢そうな顔をした主席の挨拶があったり先輩方からの出し物があったり、中等部に通っているらしいやたらキラッキラしている第二王子殿下からのありがたい言葉があったりと色々あったが、昨日緊張であまり寝付けなかった俺は眠気を噛み殺すので必死であった。
「し、し、シャノン。私たち同じクラスみたいだ」
「本当ですか? 心強いです」
入学式後、クラス分けを見て教室に移動する。
アルロは同クラみたいだ。彼ともさっき初めて会ったとはいえ、友好的な人がそばにいるのはメンタル的にもすごく良い。
なんなら席も前後だった。運が良すぎる。
成績順でクラス分けがされているらしいので、主席くんも同クラだ。学級委員とかあるならそれは彼にやってもらおう。俺は爆速で家に帰ってリアムにひっつく生活を送りたいので。
「ねえねえねえ、シャノンって言った? 君が元平民の子?」
不意に隣の席に座っていた少年から声がかかる。やわらかそうな栗色の長い髪を後ろで一つにまとめて、小豆色の瞳を猫みたいに細めている。
まさか平民上がりがなんとかとか言われるのか!?
拳をきゅっと握りしめて、緊張しながら口を開いた。
「そうで「うわ、こんなすぐ会えるなんてついてる! 俺も魔力があるからって引き取られた元平民なんだよ。俺のことはザックって呼んで、あ、もちろん敬語とかいらないし!」……ん?」
がたん、と音を出しながら勢いよく立ち上がり俺の握り込まれていた手に触れてぶんぶんと振り出した。
思わずぽかんとしてしまうが、なるほど、俺と同じような立場らしい。
「はい、あ、うんっ。僕はシャノンだよ、よろしくね」
人懐っこい笑みを浮かべるザックは八重歯が特徴的な、成長すれば美青年に育ちそうな顔つきをしていた。
手を握られたままにこにこと彼を見ていると、アルロがやたら大きい咳払いをする。
「君が五大属性を操る天才と名高いザック殿か。宮廷魔術師団長の息子になったという」
「そうだよ~。ていっても、俺より兄貴のほうが天才だと思うけどね。俺は昔から冒険者に混じって魔法ぶっ放してたからそりゃあ人より魔法は使えるけど、人を率いるとか無理無理っ。ひらの魔術師が合ってんだよね」
五大属性!?
つまり、火風土水雷ってことだ。
しかも宮廷魔術師団長ってたしか身分は侯爵じゃないか? 四大侯爵のうちのふたつがこんな近い距離にいていいのか?
友人ポジション云々とか思っていたことを撤回したくなったきた。俺もそれはそれは立派な伯爵家だけど、根が庶民だから権力のある家の子息にこんな立て続けに会うと縮み上がってしまう。しかもザックは天才らしいし。既に色々使えるみたいだし!
「ザック、すごいね。もう色々な魔法が使えるの?」
「そうでもないよ、同世代と比べてってだけ。それに純粋な魔力量ならシャノンのほうがあるだろ? じゃなきゃ二位になんてならない」
魔力量は俺の実力じゃないから、曖昧な反応しかできない。
それに俺は魔法を精霊に直接教わるとかいうチートをしているが、話を聞く限りザックはきっと経験で身につけてきたんだろう。
すごいな、俺は戦闘とか絶対無理だから魔道具作りで手に職つけようとか考えてるのに……。
「……シャノン、その、私にも別に敬語は……」
「みんな揃ってるな~? 今日は自己紹介と明日からの説明だけして解散だから、さっさと済ますぞ~」
アルロが何か言いかけた時、教室のドアが開いて気だるげな長身の男性が姿を表す。担任だろう。名をアドルフと言うらしい。
先生に指名された生徒が次々に自己紹介をする。全体的にこのクラスは男子が多くて、女の子は一握りみたいだ。
俺もどうにか無難に自己紹介を終える。
興味深そうな視線が四方から向けられてちょっと居心地が悪かった。
「あはっ、みんなシャノンの顔見てて面白いね。かわいいって大変だな」
「え? いや……え、そうかな……」
闇の精霊の加護持ちで、由緒正しい伯爵家の次男で、魔力量も多くて……ならそりゃ注目されるだろうとは思うけど、ここにきて顔?
俺の顔が可愛いのは事実だけどそれ以上でもそれ以下でもないっていうか……。ただの事実というか。というか別に傾国の美人とかじゃないし。
まあ、ザックに揶揄われているだけだろう。そもそも顔の良さでいうならこの人だって綺麗な顔じゃないか。アルロもだ。
「僕が加護持ちだから珍しいんじゃ……。あ、でもザックみたいに優秀な人が近くにいたらそんなの目立たないかな。ね、一緒にいてくれる? 僕と一緒にいたらきっとザックも変に目立ったりしないでしょ」
とはいえ好きで目立ちたいわけでもないので、お互い隠れ蓑にしようという魂胆を滲ませてそう言ってみる。
「……わあ、なるほど、天然? あんまりそういうことホイホイ言わない方がいいと思うけど……。まあ、俺はいいよ! 仲良くしようね」
先生の目を盗んでこうやってヒソヒソ話してるの、なんだかすごい友達っぽい。
侯爵家に囲まれてるの怖いなとか思ってたことをすっかり忘れて、俺は入学早々友達ができたことでとてもご機嫌になった。
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