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一章
その頃俺くんはスヤスヤであった
しおりを挟む(リアム視点)
ぼんやりとした灯が眠りに落ちた義弟の顔を薄く照らす。
涙の跡が残る頬に指を添えてゆっくりとそれを滑らせると、くすぐったいのか眉を寄せながらもぞもぞと動いた。
――それまで、こう……。お互いに感じてる感情がちょーっと、過剰になるって言うか……。
闇の精霊が言っていた科白が頭の中で反芻する。
俺がシャノンに欲を煽られるのは、これのせいなんだろう。
彼のことは可愛いし、彼と他人の未来を想像すると無性に苦しくなる。
しかしまだまだ幼いシャノンにハッキリと性を感じるなど、自分はどうかしてしまったのかとかなり困惑した。
それが、副作用のせいならば……。
(……ただ、根底に思っている気持ち自体は正しく自分が生み出したものであると)
いくらそういった作用があるとしても、結局のところ俺が彼を義弟以外の目で見ているのは事実ということだ。
まあ、ただ、これがなければ俺はずっとシャノンのことをただの可愛い義弟だとしか認められなかったかもしれない。
他人の感情にそこまで鋭くなく己の感情を表に出す機会もほぼなかった俺では、自分の恋愛事の心の動きなど分からなかった可能性が高い。
そこまで考えが至って思ったのは、「良かった」だった。
捉えようによっては気持ちを操作されてるとも思えるし本心を無理やり引き摺り出されたようにも見えるが、俺はチャンスを与えられたように感じた。
俺の可愛い義弟が成長しきる前に、世の中に触れる前に、俺が俺の気持ちに気づけて良かった、と。
自分の心さえ分かっているならば、あとは。
今なら少しわかる。母上が俺にシャノンのことが好きかと聞いたのは、ただ単に兄弟仲を確認するだけじゃないだろう。
いくら俺が生涯独身でも後継がどうにでもなると言えども妻役はいた方がいい。
地頭が良く特に数字に強くて、人当たりも良く愛くるしい人。かつ魔力も多い。
俺が好意的で父上も母上も気に入っている人物なんてそうそう現れない。
――兄上に対してなんかちょっとおかしくなっちゃうって、
シャノンが大慌てで闇の精霊に詰め寄っていたシーンが蘇る。
意識せずとも口元が緩んだ。
さすがに俺でも分かる。シャノンは素直だ。貴族としては褒められたことでないとしても、それでも彼の美点になる。
シャノンは元々俺に懐いてくれていたし、あの反応を見るに彼は俺を憎からず思っているのだろう。……シャノン自身が認めているかは置いておいて。
それでも、もし今日俺が迫って彼が全力で拒否でもするならと思っていたけど。
蕩けた顔で俺を見つめるシャノンを思い出す。
思わず喉が鳴って、眠っている義弟にそっと唇を寄せた。抑えきれない自分に自嘲する。
(こんなことまでできるなら、……なら、いいんじゃないだろうか)
気持ちを操作されてるとか、無遠慮に本心を暴かれているとかじゃなくて、これはきっと素直になりすぎるんだ。少なくとも俺はそう感じた。
力が安定してこれが消えたら、俺も彼も一見ただ仲のいい義兄弟に戻るのかもしれない。
でも、シャノンは本当は俺に甘えるのが大好きな寂しがりで、俺はこの子を本心では手に入れたいと思っている。それをお互い知っている。
確信した自分の気持ちも、シャノンに口付けた事実も消えない。
恋愛なんてしたことがないからセオリーなど分からないが、とにかく可愛いこの子の手を離さないようにしなければ。
闇の精霊と軽い口調で話していたシャノンが脳裏に浮かび、喉に何か詰まったかのような感覚を覚える。
……俺はどうやら、本当は嫉妬しいらしい。
この口付けの必要がなくなったら、きっと少しは適切な距離を保てるようになるから。
今だけは欲に素直になることを許して欲しいと、この日何度目かになる口付けを落とした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リアムが吹っ切れた理由でした。
彼は元々根底ではまあまあ独占欲があって、こと恋愛においては気づいたら一直線のつもりではありましたが、思ったより重くなりそうで、大丈夫か? まあ……いいか……になっています。(まあ……いいか……)
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