義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

縫(ぬい)

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一章

天使(俺)「ごめん寝てた」※(微)

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 背後注意マークをどの程度でつけるか迷ったのですが念のためつけておきました。今後タイトルに※が入る回はなにかしらの接触があります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんか大事なことを忘れてる気がするなーと思いながら、夜。
 のこのこ義兄の部屋まで行っておやすみなさーいとベッドに倒れようとすると、手首を優しく掴まれリアムのほうに身体を預ける形になる。
 精霊たちの前で散々スキンシップされていた俺はもうこれしきで赤くならないぞ! ……などという虚勢虚しく、視線が泳ぐ。

「あ、兄上?」

「覚えていない?」

 顎に指をかけられてリアムの顔を向かされた。
 ちかちかと揺らめく光が見える瞳がじっと俺を射抜いて、なにをと問う前に彼の形の良い唇が言葉を紡ぐ。

「口付けしようか、シャノン」

 口付け?
 ああ口付けね、はいはい……。


 口付け!?!?!?!?!


 ぼんっと顔に熱が宿った。元々宿ってたけど。もっと熱くなった。
 あ、なんかマシュが言ってたなあ~。衝撃的すぎて頭が勝手に理解を拒否してたわ~、いや~防衛本能かなあ~? ハハ。ハハ……。

 これが漫画なら、俺の目にはぐるぐる渦巻くマークが描かれているに違いない。

 言葉を返さない俺を肯定と取ったのか、リアムの綺麗すぎる顔が徐々に近づく。


「まっ、ま、ま、ま、ま、ま待ってください」

「……うん?」

 俺たちの隙間に手を入れて慌てて止める。
 結果俺の指にリアムの熱を帯びた唇が触れ、もう失神してしまいたかった。

「マシュはああ言ってましたけど、あの、えーと、そこまで兄上身を削る必要は無いと思います! 僕、義弟ですし男ですよ」

 そうだ。俺の顔は確かにめちゃくちゃ可愛いがそもそも男だ。
 いや俺自身は同性である義兄になんかちょっとよろしくない感じになってるけど、感情増幅作用のせいだし多分寂しさとかが変な感じに拗れてそうなっちゃってるだけだと思う。

 必死にリアムの目に訴えかけるも、再度手首を掴まれて今度は恭しく指先に口付けされた。

「そうだな、問題が?」

 大ありだろうが!!!?

 なんて言えず、目の前の男をどう止めたら良いのか思考を巡らす。
 巡らせたところで妙案なんて浮かばないけど、頭の中で「嫌じゃないし何なら嬉しいし良くない? 流されようよ~」と囁いてくる悪魔(俺)をどうにか押さえ込む。
 天使(俺)!! どこ行った!! 仕事の時間だぞ!!

「視る力を安定させるのに、早ければ早いほうがいいだろう。闇の精霊も随分君を心配しているようだ。……いや、」

 リアムはそこで一度言葉を区切り、逡巡するように視線を下げた後もう一度俺を見る。

「義務のような言い方はよくないな。君に触れる権利を得て俺は嬉しく思った。シャノン、大丈夫。これは……親愛の口付けだ」

 何を言われているのか脳が理解しようとするよりも先に視界がいっぱいになって、唇に柔らかな感触が触れた。





 キスしてる。
 キスをしてるなあ、この人と。

 現実逃避に五七五を詠む残念な脳味噌を放棄し、ぴしーんと固まった。
 感触を楽しむかのように角度を変えてちゅ、ちゅと啄まれる。魔力も何も感じない。

 ファーストキスってレモンじゃなくて紅茶の味がするんだなあとか、時折リアムの長いまつ毛が触れてくすぐったいとか、俺の手の甲の上に重ねられた義兄の指があついとか、ぼんやりとした感想が頭に浮かんではすぐ消える。

 なぜなら俺の素直すぎる部分が「嬉しい!」と大喜びで飛び跳ねていて、そっちの感情に割り当てる脳のスペースの方が多かったから。

「んぅ、」

 これは親愛のキス親愛のキス親愛のキス家族のキス家族のキス……と呪文のように唱えてみるけど心臓は早すぎる鼓動を刻んでいるし、頬は沸騰したみたいに熱い。
 首まで赤くなってる俺をどう見たのか、リアムは目を細めて先ほどまで重なっていた唇を舐めた。

 思わずびくりと肩が跳ねて、強く抱きしめられる。

 宥めるみたいに長く口付けされて酸素が足りなくなった俺は彼の胸板を叩くも解放されず、空気を得ようと口を開いた隙に一際熱いものが侵入してきた。

「ん!? あにうっ」

 それが舌だと気づいた時、尾骶骨がしびれるみたいな感覚が迫り上がる。


 リアムとべろちゅーしてる、べ、べべ、べろちゅーしてる。べ、べべべべ……。


 壊れたおもちゃに成り下がる思考回路。俺は再度失神を願うはめになる。
 彼の熱が直接口内に入り込んできて、頭がおかしくなりそうだ。失神できないならせめて俺の中にある冷静な部分を切り刻んで流れに身を任せたかった。

 最初少し遠慮がちに動いていたはずのそれは、俺が上顎を舐められた時に一層反応することに気付いてからは遠慮くんが休業してしまったらしい。
 舌を絡ませ、歯茎をなぞり、口内の至るところを舐められる。
 重なっていただけだった手はいつの間にするりと指の隙間が指で埋められていて、まるで恋人みたいな雰囲気に俺の気持ちがめちゃくちゃになった。


 ――うう、喉まで熱い。気持ち良い。俺はどうしたら良いんだ?


 たしかにリアムのことを思うと心臓がお祭り騒ぎになったり、触れられると真っ赤になってしまったり、離れたくなかったり。
 一応俺の心には「家族の情を知って恋しくなってるだけ」と言い訳することができた。
 でもこれは、まるで……。



 その途端、どっと何かが流れ込んでくる。



 その衝撃に目を見開いた瞬間、瞳に溜まっていた涙が頬を伝った。

 あ、これ多分魔力だ。

 なんだか頭がふわふわとする。リアムの唾液と共に流し込まれた魔力は熱くて甘くて、受け止めるとぼーっとしてきた。

「シャノン、シャノン……」

 何度も俺の名を呼ぶリアムの声に心臓がぎゅっとする。柔らかな部分を素手で掴まれたみたいな気持ちになる。
 さっきまで色々考えてたのにバカになったみたいに頭が白くなって、気づくと俺からも舌を絡めていた。


 本当に気持ちいい、なにこれ、おかしくなりそう……。


 瞳も脳も溶けていることだろう。無我夢中で彼の魔力を受け入れて、俺の魔力も譲り渡す。

「はっ、ん、ふ……、きもちい……」

 バカになってしまった思考はそのまま思った言葉を口に流す。
 ぽろぽろと涙が溢れるのも気にせず、もっと、もっととリアムの袖にしがみついた。

 ゆっくりとベッドに押し倒されて、彼の長い髪が顔の横に垂れている様が視界に入る。
 ああこれ、髪カーテンってやつだ……と他人事のように思いながら、俺たちの隙間がなくなるように義兄の背中に腕を回す。

 壊れそうな俺の鼓動とリアムの心臓の音が重なって、このままひとつになっちゃえばいいのにとおかしなことを思う。



 しばらく魔力交換をしていたけど、段々と瞼が重くなってきて睡魔が俺を夢へと誘った。
 瞳が閉じ切る直前、「おやすみ」といつ優しい声が聞こえた……気がした。

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