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前編
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「…………」
「レイラ様?」
「…………」
「おーい、レイラ様ー」
「……はぁ」
ずどーんと落ち込んだ空気を纏わせて、宿泊予定の宿へと向かう馬車の中で抜け殻のようになっているのは、俺だ。
「なぁ、デリス……」
「はい、レイラ様」
「俺、そんなに男らしく見えない?」
男と結婚しろと言われた時のショックも大きいが、何よりもお前は女側だって断定されたことの方が衝撃が大きかった。俺的には、レイラの身体は最高に男らしいと思うのだけど……。
「レイラ様は、女性を虜にする程の美男子ではありませんか。今日のパーティでも女性たちの注目の的でしたよ」
「違う、そうじゃない。俺は、その……男から見て、男らしいと思うか?お前は、俺に抱かれたいと思うか?」
「はい?」
凸拍子もないことを言い出した主人に、流石のデリスも驚きが隠せないようだ。それもそうだろう。「俺に抱かれたいと思うか」なんて、セクハラもいいところだ。
「……悪い。こんなセクハラ染みたこと聞いて。でも姉上が、俺は抱かれる側だろうと決めつけてきたから、つい」
「ちょっと待ってください。なぜそのような会話に?」
デリスの真剣な目を見て、俺はハッと冷静になった。ついで、顔が熱くなる。
な、なんて恥ずかしいことを言おうとしてたんだ!
「無理にとは言いませんが、なぜそのような話になったのか教えていただけませんか?」
デリスはそう言うが、言外にせめて少しは話せという圧を感じる。これは言わなかったら言わなかったで、後から理不尽なことを要求されかねない。それか地味に嫌な意地悪。
どちらも過去の経験から嫌だった俺は、結局全てを話すことになってしまった。口を割るのが早まっただけだと思おう……。
「姉上が、貴族としての義務だから結婚して血筋を残せって言うから、女性との結婚は無理だって言ったんだ。精神的に、女性をそういう風に見ると体調が悪くなって受け付けないって。そしたら、何を思ったのか、だったら男と結婚しろって」
「なるほど。流石にユリウス様を跡継ぎにするのは認めていただけませんでしたか」
「あぁ。水の精霊王の寵愛を受けた子だから大丈夫だと思ったんだけど、国王陛下にいただいたばかりの爵位に誇りを持てってさ」
流石に二代目から養子が当主とか笑えないかもだけど、一考の余地があったと思うんだ。けど、フィリア姉上があそこまで頑なだと、父上と母上も同じ意見だろう。恐らく、俺自身のためではなく、パトリック家のためだろうけど
「……フィリアお嬢様は、婚約者候補にどなたかのお名前を言っていらっしゃいましたか?」
「いや、とりあえず保留ってことにして逃げたから。はぁ……後で見合い資料がたくさん送られてくるんだろうなぁ。会ったこともない男と婚約なんて考えられないんだけど。しかも俺、未婚なのに養子の息子が二人もいるんだぞ?不良物件すぎだろ」
「まさか!レイラ様はとてもお美しい方です。女性だけでなく、男性ですらも魅了します。パーティで、女性だけでなく、幾人かの男性の視線も奪っていたことに気がつかれていらっしゃらなかったのですか?」
「知るかそんなの」
まったく気づかなかったし、なんなら俺は女性の機嫌取りと尿意との戦いで忙しかったからな。そんなこと気にする余裕はなかったんだけど。あ、そういえば。
「そういえば、お前パーティでなんか企んでなかったか?絶交の機会だった言ってたじゃないか」
「あぁ……それは七割成功ですかね。レイラ様が大人しく壁に咲く花になってくださらなかったお陰で三割失敗ですが」
「いや、だってそれはしょうがないだろ?彼女たちは上位の階級の貴族だし……」
「失敗しかけた分をジェイス・ローレン様に助けられたのも正直腹立たしいです。はぁ……本当は今日でレイラ様の立ち位置を確立するつもりだったのです。気軽に手が出せないような、高みに行ったレイラ様の姿を見せつけることで、昔、貴方を下に見ていた方々は、その高いプライドのために下手に出て話しかけることはできなくなる。貴方が誰も相手にしなければ、かつて受けた屈辱を忘れていないという効果的なアピールになったのです」
「それなのに貴方は……」などと言われても困るんだけど。でも、俺の心は今ぽかぽかだ。デリスは、俺以上に俺を見下していた奴らのことを怒っていたらしい。それが分かって、俺は今、とても心がぽかぽかしてるんだ。
デリスが俺に話しかけてきたご令嬢たちに毒餌を撒いたことを知らない俺は、そんな呑気な感情を抱いていた。もし知っていたら、ヤンデレ要素は不要!って叫んでたかもしれない。
「レイラ様?」
「…………」
「おーい、レイラ様ー」
「……はぁ」
ずどーんと落ち込んだ空気を纏わせて、宿泊予定の宿へと向かう馬車の中で抜け殻のようになっているのは、俺だ。
「なぁ、デリス……」
「はい、レイラ様」
「俺、そんなに男らしく見えない?」
男と結婚しろと言われた時のショックも大きいが、何よりもお前は女側だって断定されたことの方が衝撃が大きかった。俺的には、レイラの身体は最高に男らしいと思うのだけど……。
「レイラ様は、女性を虜にする程の美男子ではありませんか。今日のパーティでも女性たちの注目の的でしたよ」
「違う、そうじゃない。俺は、その……男から見て、男らしいと思うか?お前は、俺に抱かれたいと思うか?」
「はい?」
凸拍子もないことを言い出した主人に、流石のデリスも驚きが隠せないようだ。それもそうだろう。「俺に抱かれたいと思うか」なんて、セクハラもいいところだ。
「……悪い。こんなセクハラ染みたこと聞いて。でも姉上が、俺は抱かれる側だろうと決めつけてきたから、つい」
「ちょっと待ってください。なぜそのような会話に?」
デリスの真剣な目を見て、俺はハッと冷静になった。ついで、顔が熱くなる。
な、なんて恥ずかしいことを言おうとしてたんだ!
「無理にとは言いませんが、なぜそのような話になったのか教えていただけませんか?」
デリスはそう言うが、言外にせめて少しは話せという圧を感じる。これは言わなかったら言わなかったで、後から理不尽なことを要求されかねない。それか地味に嫌な意地悪。
どちらも過去の経験から嫌だった俺は、結局全てを話すことになってしまった。口を割るのが早まっただけだと思おう……。
「姉上が、貴族としての義務だから結婚して血筋を残せって言うから、女性との結婚は無理だって言ったんだ。精神的に、女性をそういう風に見ると体調が悪くなって受け付けないって。そしたら、何を思ったのか、だったら男と結婚しろって」
「なるほど。流石にユリウス様を跡継ぎにするのは認めていただけませんでしたか」
「あぁ。水の精霊王の寵愛を受けた子だから大丈夫だと思ったんだけど、国王陛下にいただいたばかりの爵位に誇りを持てってさ」
流石に二代目から養子が当主とか笑えないかもだけど、一考の余地があったと思うんだ。けど、フィリア姉上があそこまで頑なだと、父上と母上も同じ意見だろう。恐らく、俺自身のためではなく、パトリック家のためだろうけど
「……フィリアお嬢様は、婚約者候補にどなたかのお名前を言っていらっしゃいましたか?」
「いや、とりあえず保留ってことにして逃げたから。はぁ……後で見合い資料がたくさん送られてくるんだろうなぁ。会ったこともない男と婚約なんて考えられないんだけど。しかも俺、未婚なのに養子の息子が二人もいるんだぞ?不良物件すぎだろ」
「まさか!レイラ様はとてもお美しい方です。女性だけでなく、男性ですらも魅了します。パーティで、女性だけでなく、幾人かの男性の視線も奪っていたことに気がつかれていらっしゃらなかったのですか?」
「知るかそんなの」
まったく気づかなかったし、なんなら俺は女性の機嫌取りと尿意との戦いで忙しかったからな。そんなこと気にする余裕はなかったんだけど。あ、そういえば。
「そういえば、お前パーティでなんか企んでなかったか?絶交の機会だった言ってたじゃないか」
「あぁ……それは七割成功ですかね。レイラ様が大人しく壁に咲く花になってくださらなかったお陰で三割失敗ですが」
「いや、だってそれはしょうがないだろ?彼女たちは上位の階級の貴族だし……」
「失敗しかけた分をジェイス・ローレン様に助けられたのも正直腹立たしいです。はぁ……本当は今日でレイラ様の立ち位置を確立するつもりだったのです。気軽に手が出せないような、高みに行ったレイラ様の姿を見せつけることで、昔、貴方を下に見ていた方々は、その高いプライドのために下手に出て話しかけることはできなくなる。貴方が誰も相手にしなければ、かつて受けた屈辱を忘れていないという効果的なアピールになったのです」
「それなのに貴方は……」などと言われても困るんだけど。でも、俺の心は今ぽかぽかだ。デリスは、俺以上に俺を見下していた奴らのことを怒っていたらしい。それが分かって、俺は今、とても心がぽかぽかしてるんだ。
デリスが俺に話しかけてきたご令嬢たちに毒餌を撒いたことを知らない俺は、そんな呑気な感情を抱いていた。もし知っていたら、ヤンデレ要素は不要!って叫んでたかもしれない。
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