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前編

22 SIDE デリス

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「レイラ様、急に会場からいなくならないでください。探しましたよ」

彼が会場にいないと気づいた時の焦りを、このどこかのほほんとした鈍感な主は絶対に知ることはないだろう。パーティーから抜け出して逢瀬をするスポットとして密かに人気になっている中庭に男と二人きりでいるのを見つけた時の、心臓が暴れ狂いそうな程の嫉妬にも。

「悪い。ちょっと水飲みすぎてトイレに行ってたんだ」
「トイレならこちらとは逆方向では?それにレイラ様、本邸内のことは分からないでしょう。呼んでくださればよかったのに」
「だってデリス、父上と話してただろ。流石に父上に捕まってるときには呼べないって」
「言ったでしょう?私はレイラ様のものです。いかなる時もレイラ様を優先します。私がそうしたいから」
「……なんか照れる」

抜けるように白い頬をほんのりと赤く染めるレイラ様のなんと美しいことか。常のレイラ様は、汚してはならない高貴な存在のような方だ。しかしそんな存在に自分の存在を刻み付けて汚したいと思うのも事実。今のレイラ様は決して手が届かない清らかな存在が地に落ちて欲に染まるかのように禁断な気配の色気を纏っている。本人は単純に照れているだけなのだろう。それでも、これは危険だ。

「レイラ様……」
「あのー、俺のこと忘れてない?」
「……チッ」

おっと失礼。私としたことが。
文字通り私とレイラ様の間に割り込んで来た間男に目を向けると、彼の眼にも嫉妬の火が揺れていた。あぁ、まったく。レイラ様は目を離すと誘蛾灯のように虫を集めてしまう。私の手で磨いた宝石だが、これほどまでに光り輝くとは思わなかった。見せびらかしたいと思うと同時に、誰にも見せたくないとも思う。

「貴方は、騎士団長の椅子が約束されている、国王陛下の覚えもめでたいジェイス・ローレン様ですね。レイラ様のおもりありがとうございました」
「おい、おもりってなんだ!」
「ふーん?俺のこと知ってんだ」
「もちろんですとも。レイラ様とはアカデミーで同級生だったかと。思い出話に花でも咲かせていたのでしょうか。お邪魔してしまったのでしたら申し訳ございません」
「うん。邪魔」
「……えっと」

お互い表面上は笑顔で和やかな表情。しかし口から飛び出るのは嫌味の応酬。レイラ様のことだ。私たちの眼が笑っていないことくらい気づいている。しかしどうしてこのような状況になったのか分からないからどうしようもない。そんな心情が手に取るように分かる。オロオロとしているレイラ様も愛らしいが、これほどまでに素に近い姿を再会したばかりのローレン様にも見せるだなんて。お二人はアカデミー時代にもこれといって接触はなかったと記憶している。これほどまでに急に打ち解けるものだろうか。

どす黒い感情が胸を占める前に、ここを離れることにしよう。パトリック家の屋敷で問題を起こすわけにはいかない。

「レイラ様、伝え忘れていましたが、フィリア様がお呼びです」
「え、ちょっ、なんでそれ伝え忘れるんだよ!マズいじゃんそれぇ‼」

レイラ様の焦りに満ちた声が綺麗な夜空に消えていった。
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