来世で独身貴族ライフ楽しんでたら突然子持ちになりました〜息子は主人公と悪役令息〜

こざかな

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前編

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「ううっ……俺、もうお婿に行けねぇ」
「じゃあ俺が嫁にもらってやるよ」
「お断りだ!」

思わずくわっと食い気味に言い返すも、ジェイスは軽く笑うだけ。こっちは恥ずかしすぎて涙目なのに、余裕な態度がイラっとくる。

俺の社会的尊厳がギリギリで守られたあと、律儀にも俺が出てくるのを待っていたジェイスに連れられて広間の近くにある中庭に来た。美しく枝先が揃えられた垣根が迷路のように入り組んでいる。流石はパトリック家の庭だ。

「にしてもお前、自分の家の間取り分かってねぇのはヤバいんじゃないか?」
「仕方ないだろ。俺、ずっと別邸で過ごしてたんだ」

確かに自分の家の間取りが分からないとかありえないのは分かるけど、俺にだって理由がある。引きこもっていたからという理由がな!

「別に追い出されたとかじゃなくて、自分から閉じこもってたから知らないだけ。というか本邸に入ったのもビレッド地区に行く挨拶で三年ぶりだったから、かれこれ五年くらいまともにこっちには来てないかも」
「三年も引きこもってたのかよ。道理でお前を社交界で見かけないわけだ」
「なに。俺のこと探してたのか?」
「おう!」

にかっと笑顔で指を立てて頷くジェイスが信じられなくて、マジマジと見てしまう。

未来の騎士団長様である彼は、王子の護衛騎士として学園に赴き主人公と出会う。そして主人である王子が恋心を寄せる相手と知りながら、自身の恋心に蓋をして主人の恋路を応援するという涙が止まらないと話題のルートが、ジェイス・ローレンのルートだ。

しかし彼のルートは王子を一度攻略した後にリセットすると開かれる特殊ルート。この世界はゲームの世界でありながらも現実だ。リセットなどということは当然できない。つまり、彼を今の段階で危険視する必要はないだろう。

正直複雑な気分だ。ゲームの中でのジェイスはレイラのことを嫌っていた。粛清の時には、彼自らレイラの首を刎ねたほどだ。そしてレイラもジェイスのことが嫌いだった。お互い学生だった頃から嫌い合っていた関係だったはずなのに、今ジェイスは俺に笑顔を向けている。まぁこれは、俺が学生時代できる限り人と接触しないようにしていたことで軋轢が起こることもなかったからだろうけど。

「俺は君とそれほど仲が良いわけではなかったと記憶してるけど」
「お前、いつも隠れるように過ごしてたからな。誰とも関わりたくないって感じで。でも俺はお前とずっと話したいと思ってたんだぜ」
「なんで?」
「お前は覚えてないかもしれないけど、昔お前の社交界デビューの日に会ったことがある。あの時からもう一度お前と話したいと思ってたのに、こんなにも時間がかかるとは思わなかったよ」

俺が社交界デビューしたのって、もう10年近く前だと思うんだけど⁉ 流石にそんなに前のことは覚えてない……。

「他の家で開かれるパーティーには行かないだろうなと思って、パトリック家で開かれるものにだけ参加してたんだけど、粘ったかいがあったな」
「二年前までならまだしも、俺が家を出てビレッド地区に行ったことは知ってたんだろ?俺がこっちに戻ってこないことは考えなかったのか?」
「それも考えたさ。けど、お前の家族がそれを許さないだろうなと思って」

ジェイスの予想は的中したわけだ。俺としては、もう社交界に戻ってくるつもりもなかったから、まだ家族は俺の結婚を諦めてなかったのかって驚いたくらいなんだけど。

「そこまでして俺と話したかったって、なんか怖いんだけど」
「そういうなよ。俺は長年の努力が実って嬉しいぜ」
「よかったな。けど、そろそろ会場に戻らないとフィリア姉上が怖い。ただでさえこの後憂鬱なことが決まってるってのに」

正直戻りたくはない。またあの中に入っていくのかと考えただけで胃が痛くなりそうだ。

「なぁ、今度お前の屋敷に行ってもいいか?」
「俺のって、ビレッド地区の?」
「あぁ。もっとお前と話したい。こんな少しの時間じゃ足りねぇよ」
「まぁ、いいけど……」

ジェイスの家柄は悪くないどころかトップクラスだ。別に断る理由もない。なぜ俺とそんなに話したいのかは理解できないけど、トップクラスの家柄の彼との出会いはカーディアスやユリウスたちにもいい刺激になるだろう。うん。これはあくまで、息子たちのためだ。

「突撃訪問はやめろよ?こっちにだってローレン家の将来が明るいお坊ちゃまをおもてなしする準備は必要なんだから」
「別に堅苦しいのなんていらない。俺はお前の友人として招かれたいんだよ」
「……友人」

友人という言葉を発することが、こんなにも不自然に感じるとは思わなった。この世界で俺に友人と呼べるのはデリスくらいだ。でもデリスは使用人。俺とは対等の立場にはなれない。本当の意味での友人はいない。別に悲しくはないけれど、俺の口は勝手に肯定の言葉を吐き出していた。

「いいよ。友人、ね」
「恋人でもいいぜ」
「嫌だよ。息子たちになんて説明すればいいのさ」
「……息子?」
「レイラ様‼」
「あ、デリス」

珍しく少し焦った表情で駆け寄ってきたデリスに意識を向けていた俺は、ジェイスが固まったことに気づくことはなかった。俺に養子として迎えた息子がいるという話は、あまり公にはなっていないのだということを知らなかったからだと言い訳はさせて欲しい。
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