あまりものの神子《完結》

トキ

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番外編「初恋」3【オーバン視点】

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 王立学園での生活は最悪としか言いようがない。男性からはそう言った目で見られて襲われそうになるし、女性からは身分もないのに顔が綺麗すぎると陰湿な嫌がらせを受けた。成績は優秀な方なのに、身分が低いせいで教師からも疎まれている。

「パーティー?」
「はい。ですが、今回のパーティーは何時もと違います。聖女様と神子様を歓迎する盛大なパーティーです」
「聖女と神子、か」

 話は聞いたことがある。この世界では年に一度、女神様の力によって転生した異世界人を迎え入れる儀式が行われる。異世界人の魂は不安定な状態で、この世界の誰かに深く愛されなければ消えてしまうと本に書いてあった気がする。女神様に選ばれた特別な存在。女性であれば聖女、男性であれば神子と言う。でも、それがどうしたと正直思う。私にはなんの関係もない。

「聖女様と神子様は、この世界にはない価値観をお持ちで、身分も気にせず、平等に接してくれると聞いたことがあります。どうですか? オーバン様」
「……パーティーは、嫌いです」
「分かっております」

 何度かパーティーに参加したが、王立学園と何も変わらない。身分を隠しているから仕方ないとしても、あの場所は居心地が悪い。頭の先から足の爪先までねっとりと舐めるように眺める男達、嫌悪感を隠しもせずひそひそと陰口を叩く女達。部屋に連れ込まれそうになったこともあったし、バルコニーから突き落とされそうになったこともある。私の顔が美しいから。まるで女の子のようだ。その顔で相手を誘っている。陰口も視線も、王立学園に通う生徒達と同じ。年齢が違うだけで、私の立場は変わらない。でも……

「聖女様や神子様とは、話して、みたい、です」
「かしこまりました。衣装を用意しましょう。パーティーに相応しい、特別な衣装を」
「うん」

 パーティーは嫌いだし、とても怖い。でも、聖女様や神子様なら、こんな私でも受け入れてくれるかもしれない。普通に接してくれるかもしれない。でも、拒絶される可能性だってある。もし、彼女達にも受け入れられなかったら? もし、彼女達からも奴らと同じ視線を向けられたら?

「……期待、しない方がいいのかな」

 両親を失ってから、私は暗くなった気がする。何を言われても言い返す勇気はなく、襲われても自分の力ではどうすることもできない。何時も何時もボーモンに助けられてばかり。このままではダメだと分かっているのに、ボーモンに頼りきりでは立派な大人になれないと分かっているのに。無力な自分が嫌いだ。守られてばかりの自分が嫌いだ。奴らに立ち向かえない自分が嫌いだ。そして何より、その原因となったこの顔が、この世で一番、大っ嫌いだ。

「オーバン様?」
「なんでもないよ。ボーモン」

 こんなこと、ボーモンには絶対に言えない。ボーモンは、私のことを大切に思っているから。両親が亡くなった後、ボーモンが私の親代わりをしてくれたから。
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