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25、今は考えたくなかった

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 この状況は、何なんだ?

「……耕平じゃない」

 魔法少女は青をチラリと見るとそう呟いて、深いため息を吐いた。耕平って誰だろう。
 一方怜央は敵意剥き出しの目で魔法少女を睨みつけている。

「一応聞いておくけど、合意?」
「へ」

 唐突に魔法少女に聞かれ、自分の格好を思い出す。胸元まで捲りあげられたシャツに、無数にちりばめられたキスマーク。子供に見せていいような姿ではなく、慌てて隠す。

「別に僕としては、耕平が無事ならあとはどうでもいいんだけど」

 正義の味方としてそれで大丈夫なのだろうか。
 どうやら魔法少女は『耕平』という人物が襲われていると勘違いしてここに来たが、この場にその人物がいなかったので働く気を無くしている……ようだ。
 でも、正義の味方が出動するようなことはこの部屋では起きていないはずなのに。

「そいつらの星、一夫多妻制らしいよ」

 魔法少女が言うと、何かが爆ぜた。
 魔法少女の姿はもうどこにもなくて、ただ魔法少女が立っていた場所が少し焦げ付いていた。

 ……一夫多妻制の、星?

 怜央の右手は魔法少女が立っていた場所に向けられていて、まるで、怜央が右手から何か魔法のようなものを出したみたいで。

 ふと思い出す。魔法少女が対峙していた大ダコと、それを操っていた謎の少年。
 もし魔法少女の敵があれなのだとしたら……ここに敵がいたから、魔法少女が現れたのだとしたら。

 敵なんて、青じゃないなら一人しかいない。



「怜央」
「……はい」
「お前の故郷ってどこ」
「…………ここからはちょっとだけ遠いですね」

 バツが悪そうに答える怜央を、殴ってやりたいと思うが、堪える。

「お前、俺の事騙してたのか」
「僕が青さんを好きなのは本当です!たしかに僕の星は一夫多妻制ですけど、僕は青さんとだけ結婚したいんです!」
「……そうか」

 あの嘘を吐けなくなるキャンディの効果はとっくに切れているし、そもそも宇宙人にあれが本当に効いていたのかも疑問だ。怜央はずっと青を騙して、もしかしたら何かに利用しようとしていたのかもしれない。


「…………帰る」

 少しだけ、怜央といるのが楽しいと思っていたのに。

 今はすごく腹が立って、それから、少しだけ悲しい。
 それがどうしてなのか、今は考えたくなかった。
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