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26、「仲直りしたら?」(灰田視点)

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 灰田湊は久しぶりに友人の室田青に呼び出されたかと思えば、長くカオスな物語を聞かされていた。ファンの男に絆されたような気がしたものの、そいつは自分とは別のヒーローの敵で、ついでに一夫多妻制の星の出身だったとかそんな話だ。
 自分がヒーローだったから騙して利用しようとしていたのだろう、と。いつも脳天気な室田にしてはどうも落ち込んだ様子で……。

 謎の自白キャンディが出てきたり、どうも現実離れした内容の話だ。宇宙人とか魔法少女とか、ファンタジーなのかSFなのかジャンルをハッキリして欲しい。
 設定を盛り込みすぎなのでもう少しシンプルにした方がいいのではないかと思う。

 あとは何でもかんでも喋る室田にしては珍しく言い淀んだ箇所……どうもそのファンの男と体の関係を持ったような雰囲気である。あの室田にそんなことが起こり得るのかと叫びそうになってしまったくらいだ。

 あの室田が。
 高校時代、明らかに気がある女子生徒からのフラグを無自覚に折りまくり、精神年齢がおそらく小学生で止まっているのだろうと言われていたあの室田が、そんな難しい感情を手に入れたなんて。

 ……大人になったなあ。

「それで、室田はそのファンにしばらく会ってないのか」
「……まあ、一週間くらい」
「連絡先とかは聞いてないのか?」
「別に会いたくはない」

 本当にそうだったらそのまま会わずにいればそれでいいのに、室田はそわそわしているし、おそらくその男が会いに来るのを待っているのだろう。
 湊としては、『彼氏と喧嘩した』と久しぶりに帰ってきた娘からの愚痴を聞いているような気分になる。しかもその娘と来たら彼氏が迎えに来るのを待っているわけで。

「その変なキャンディがそいつに効いたかはわからないが、室田はそいつが嘘を吐いてないと思ったんだろ」
「……わからない」
「それに、その宇宙人の敵は魔法少女だから室田とは敵対してない」
「たぶん」
「お前がそいつを信じたいと思うんだったら信じたらいい。普通は相手が何考えてるかなんてわからないんだし」

 それに、室田の顔にはどう見てもその宇宙人を信じたいと書いてある。もしかしたら後で悲しいことになるのかもしれないけど、どうせ選択しなければそれはそれで後悔するのだから何かを選んだ方がマシだ。

 室田は謎の宇宙人に対して怒りがよみがえったのか、唇を尖らせている。

「仲直りしたら?」
「……怜央が悪い」

 拗ねた子供のように言う。
 まあ、宇宙人なのを隠していたのは悪かったかもしれないけど……いや、そもそもヒーローと宇宙人と魔法少女なんて現実なのだろうか?
 かなりヤバいやつに好かれてるとかじゃないといいけど……まあ、愛があれば何とかなるのか。
 湊はそれ以上考えることが面倒になってやめた。

「あ、仕事入った」
「えっ」

 憧れの雇い主からの呼び出しは最優先だ。たとえ、就業時間が過ぎていても。

「悪いな、室田。また」

 そうしていつもの公園に室田を残して、指定された場所へ向かう。心配でもあったが、どうせ湊に解決することはできそうにないし。


 湊自身には室田のような熱い夢は無かったが、ボスの夢を叶えたかった。最早それが湊の夢だと言ってもいいと思う。ボスが叶えたいというものなら内容なんてどうでもいい。あの人が成し遂げたいことであれば全て正しいのだから。
 まだ新入りではあるけれど、成功を重ね、いつかブリザードの右腕になってみせる。

「――変身」

 それが、エタニティ期待の新人・アッシュの野望だった。





「……それで、どうしたらブルーさんと仲直りできますかね」

 何だかついさっきもこんな事があったような気がしたがたぶん気のせいだろう。

 アッシュがブリザードからの命令で仕事をしていると、ブルーの粘着ファンが現れた。近頃エタニティの邪魔をしているのはブルーでもフレイムでもなくこの一般人なのではないかと思う。さりげなく他の人間を逃がしてしまうし、じゃあアッシュも引き上げようかと思うのに何故か長々と男の話を聞かされている。

 この男が言うにはブルーと付き合うことができたしブルーも満更ではなさそうだったのに、ブルーに黙っていたとあることがバレて怒らせてしまいそれ以来会えずにいる、みたいな……付き合っていると思っていたのがこの男の妄想のような気もするが。
 それかあまりにしつこくてブルーが観念したけどやっぱり無理だったのか。
   
「黙っていたことも、秘密にしてた訳じゃなくて……ちゃんと言うつもりだったんです。それを横から急にバラされて! せっかくいい感じだったのに……」

 何がバレて怒られたんだろうか。やはりストーカー行為か?

 それにしても何で悪の組織の人間に恋愛相談なんてするのだろう。それ以前に恋愛なんて感情自体、アッシュにはいまいち理解できないというのに。

「……そろそろ帰っていい?」
「怒ったブルーさんも可愛いんですけど、でも会えないのは辛いんですよね」

 こいつ、人の話全然聞いてないな……。

 これだったら室田の話を聞いていた方がマシだったのかもしれない。
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