憧れていたヒーローになったけど熱烈なファンに猛アタックされる俺の話

多崎リクト

文字の大きさ
上 下
26 / 33

26、「仲直りしたら?」(灰田視点)

しおりを挟む
 
 灰田湊は久しぶりに友人の室田青に呼び出されたかと思えば、長くカオスな物語を聞かされていた。ファンの男に絆されたような気がしたものの、そいつは自分とは別のヒーローの敵で、ついでに一夫多妻制の星の出身だったとかそんな話だ。
 自分がヒーローだったから騙して利用しようとしていたのだろう、と。いつも脳天気な室田にしてはどうも落ち込んだ様子で……。

 謎の自白キャンディが出てきたり、どうも現実離れした内容の話だ。宇宙人とか魔法少女とか、ファンタジーなのかSFなのかジャンルをハッキリして欲しい。
 設定を盛り込みすぎなのでもう少しシンプルにした方がいいのではないかと思う。

 あとは何でもかんでも喋る室田にしては珍しく言い淀んだ箇所……どうもそのファンの男と体の関係を持ったような雰囲気である。あの室田にそんなことが起こり得るのかと叫びそうになってしまったくらいだ。

 あの室田が。
 高校時代、明らかに気がある女子生徒からのフラグを無自覚に折りまくり、精神年齢がおそらく小学生で止まっているのだろうと言われていたあの室田が、そんな難しい感情を手に入れたなんて。

 ……大人になったなあ。

「それで、室田はそのファンにしばらく会ってないのか」
「……まあ、一週間くらい」
「連絡先とかは聞いてないのか?」
「別に会いたくはない」

 本当にそうだったらそのまま会わずにいればそれでいいのに、室田はそわそわしているし、おそらくその男が会いに来るのを待っているのだろう。
 湊としては、『彼氏と喧嘩した』と久しぶりに帰ってきた娘からの愚痴を聞いているような気分になる。しかもその娘と来たら彼氏が迎えに来るのを待っているわけで。

「その変なキャンディがそいつに効いたかはわからないが、室田はそいつが嘘を吐いてないと思ったんだろ」
「……わからない」
「それに、その宇宙人の敵は魔法少女だから室田とは敵対してない」
「たぶん」
「お前がそいつを信じたいと思うんだったら信じたらいい。普通は相手が何考えてるかなんてわからないんだし」

 それに、室田の顔にはどう見てもその宇宙人を信じたいと書いてある。もしかしたら後で悲しいことになるのかもしれないけど、どうせ選択しなければそれはそれで後悔するのだから何かを選んだ方がマシだ。

 室田は謎の宇宙人に対して怒りがよみがえったのか、唇を尖らせている。

「仲直りしたら?」
「……怜央が悪い」

 拗ねた子供のように言う。
 まあ、宇宙人なのを隠していたのは悪かったかもしれないけど……いや、そもそもヒーローと宇宙人と魔法少女なんて現実なのだろうか?
 かなりヤバいやつに好かれてるとかじゃないといいけど……まあ、愛があれば何とかなるのか。
 湊はそれ以上考えることが面倒になってやめた。

「あ、仕事入った」
「えっ」

 憧れの雇い主からの呼び出しは最優先だ。たとえ、就業時間が過ぎていても。

「悪いな、室田。また」

 そうしていつもの公園に室田を残して、指定された場所へ向かう。心配でもあったが、どうせ湊に解決することはできそうにないし。


 湊自身には室田のような熱い夢は無かったが、ボスの夢を叶えたかった。最早それが湊の夢だと言ってもいいと思う。ボスが叶えたいというものなら内容なんてどうでもいい。あの人が成し遂げたいことであれば全て正しいのだから。
 まだ新入りではあるけれど、成功を重ね、いつかブリザードの右腕になってみせる。

「――変身」

 それが、エタニティ期待の新人・アッシュの野望だった。





「……それで、どうしたらブルーさんと仲直りできますかね」

 何だかついさっきもこんな事があったような気がしたがたぶん気のせいだろう。

 アッシュがブリザードからの命令で仕事をしていると、ブルーの粘着ファンが現れた。近頃エタニティの邪魔をしているのはブルーでもフレイムでもなくこの一般人なのではないかと思う。さりげなく他の人間を逃がしてしまうし、じゃあアッシュも引き上げようかと思うのに何故か長々と男の話を聞かされている。

 この男が言うにはブルーと付き合うことができたしブルーも満更ではなさそうだったのに、ブルーに黙っていたとあることがバレて怒らせてしまいそれ以来会えずにいる、みたいな……付き合っていると思っていたのがこの男の妄想のような気もするが。
 それかあまりにしつこくてブルーが観念したけどやっぱり無理だったのか。
   
「黙っていたことも、秘密にしてた訳じゃなくて……ちゃんと言うつもりだったんです。それを横から急にバラされて! せっかくいい感じだったのに……」

 何がバレて怒られたんだろうか。やはりストーカー行為か?

 それにしても何で悪の組織の人間に恋愛相談なんてするのだろう。それ以前に恋愛なんて感情自体、アッシュにはいまいち理解できないというのに。

「……そろそろ帰っていい?」
「怒ったブルーさんも可愛いんですけど、でも会えないのは辛いんですよね」

 こいつ、人の話全然聞いてないな……。

 これだったら室田の話を聞いていた方がマシだったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...