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「ねえねえ聞いた? ハルスト侯爵家の話っ。違法に奴隷を売り捌いてたんですって」
「知ってるー。その息子がこの学園に通ってたけど退学したらしいわ」
「怖いわね……」
 どうやら何処かの貴族が奴隷売買で逮捕されたみたい。ハルスト侯爵家って確か……
 小説に出てきてたような気がする……
 確か人身売買の現場を目撃したシャルル様がクロウ様に報告して一緒に突き止めるみたいな話があった気がする。もしかしてクロウ様はずっと彼女と一緒にいたのかな……
 だから、帰ってこなかったのかな……
 沈んでいるわたしの頭をクロウ様が撫でてくれた。そして「何もないから」ってよくわからないことを言ってた。


「クロウ様ぁっ。私達のおかげで一つ事件が解決できましたねっ」
 嬉々として彼の腕にすがるシャルル様。
 ああ、やっぱりそうなんだ……わたしといない間に、あのこと一緒だったんだね。
 いや、いやだ……なんて心の狭い人間なんだろう。好きな人には幸せになってもらいたい。たとえその相手がわたしじゃなくてもなんて思っていたのに……
 ああ、いやだ。
「行こう」
 ミーシャ様に声をかけて手を握って歩き出す。そんなわたしの様子にミーシャ様もレオン様も困惑したような表情で見ていた。




 そして学園は長期の休みとなる。休みの間は寮が閉鎖されてしまうので、全生徒が各々の自宅へと帰るのだ。わたしも例に漏れず、帰宅することになった。帰宅といってもわたしには家がないから、クロウ様と一緒のところに戻るのだけれど。それからミーシャ様と遊ぶ約束をしている。二人で遊ぶ予定だったのにクロウ様とレオン様に猛反対されて、結局四人で遊ぶことになった。たまには女の子同士で遊びたい……
 身支度を済ませて二人、馬車に乗り込んだ。
 着いたのは久々の森の奥の屋敷ではなく、王都にある屋敷みたい。
 クロウ様に連れられて屋敷の門をくぐった。そのさきにいたのはクロウ様そっくりの男性と、レオン様にちょっとにている女性。
 もしかして……クロウ様のご両親?
「いやぁ、よくきてくれたね。待ってたよ」
「あらぁ! とっても可愛いお嬢さんねっ。さすが我が息子。見る目あるわぁ」
 困惑しているわたしにクロウ様は教えてくれた。男の人はクロウ様のお父様で同じく吸血鬼だそうだ。そして女性はなんと今の国王陛下の妹なのだとか。クロウ様のお父様が王女を見初めての結婚だったようで。とても仲睦まじそうだ。そしてレオン様は従兄弟に当たるから昔から交流はあったらしい。
 驚いているうちにクロウ様のお母様に連れられて湯浴みをさせてもらった。ウィッグやコンタクト、メガネを外したまま浴室を出るとそこにはお母様が待っていて目をキラキラ輝かせている。
「まあぁぁ!クロウったらお父様に似てかなりの面食いね。だから今まで隠してたのねぇ」
 わたしからすれば、お母様の方が羨ましいくらいお美しいのですが……
「あ、あのっ、クロウ様のお母様……」
「嫌だわっ。アメリアちゃんたら。私のことはお母様と呼んでいいのよ。私の娘も同然なんだものっ。ああ、女の子っていいわぁ。無愛想な男の子より飾りがいがあるものっ」
 そしてわたしはお母様に連れられてクローゼットの前、たくさんのドレスを着せられて、プチファッションショーをさせられた。
 ちょっと疲れちゃった……



 
 結局ヒラヒラのピンクのドレスを着せられて、食堂へ案内された。そこには既に制服から着替えているクロウ様とクロウ様のお父様。
 そして豪華な食事が並べられていた。
「さあ、アメリアちゃん。遠慮せず食べてね。そっち二人は食べないみたいだからたくさん食べていいのよ」
 にっこり笑ってお母様が料理を取り分けてくれる。フォークで口に運ぶととても美味しくて、夢中になって食べてしまった。
 そんなわたしを男性陣はニコニコして眺めている。本当にお腹空かないのかな……
 食事が終わってでザートが運ばれてくる。デザートはちゃんと四人分で、お父様もクロウ様も普通に食べていて、なんだかおかしかった。
「ねえ、アメリアちゃんっ。明日二人でお茶しましょう! お庭すごく綺麗なのよっ。ぜひ見て欲しいわ」
「はい、喜んで」
 元王族とは思えないほど親しみやすくてホッとする。お父様もにこにことわたしを受け入れてくれて、とっても暖かかった。



 次の日、またファッションショーが開催され、今日はクリーム色のヒラヒラしたドレス。ちょっと疲れるけど、なんだかお母様が嬉しそうでその疲れも吹き飛んでしまう。
「さあ、座ってっ。お菓子は何がいいかしら。いっぱい用意してもらっちゃった」
 こ、こんなにたくさん……
 食べきれないと思うのですが……
「ふふっ。余ったらあの人たちが食べてくれるから問題ないわ。吸血鬼なのにお菓子だけは食べるのよあの二人」
 くすくすおかしそうに笑うお母様に釣られて笑ってしまう。
「あ、そうだっ。アメリアちゃんは好きな花、何かある?」
「お花、はあまりわからないんです。でも、四葉のクローバーは、好き、です」
「まぁまぁっ。アメリアちゃんたら、なかなか情熱的ねぇ」
 小首を傾げるわたしにお母様は教えてくれた。四葉のクローバーの花言葉は幸運、それから……
「わたしのものになってだなんてっ。きっとそれを送ったらあの子喜ぶわよぉ」
 一気に顔が真っ赤になる。学園に通い始めた頃、ミーシャ様と作った押し花の栞、そういえばまだ渡してなくて。
 あの時渡さなくて、よかった……
「あらあらぁ。あの子も幸せになれるわねぇ」
 なんていうお母様の言葉はわたしの耳には届いていなかった。
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