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「ご飯ちょうだい」
 ベッドに連れられ、押し倒される。そのまま頬に唇を落とされる。これは、食事に必要なのだろうか。今まではそのまま首筋に噛みつかれていたけれど。
 ご主人様は唇を離し、わたしをじっと見つめる。その綺麗な赤い瞳は吸い込まれそうで目が離せない。
 わたしの唇に彼の唇が触れた感触がする。驚いて目を見開いているわたしをおかしそうに笑う。
「いやだった?」
「いえ、びっくりしてっ……」
「そう」
 ご主人様はそう言ってほくそ笑んだ。その後はいつも通り首筋にガブリと歯を立てられ、血を啜られる。最近妙に気持ち良すぎて頭が真っ白になる。なんだかもっと欲しくなってしまって。これは一体なんだろう。
「もっと欲しい?」
 頭が真っ白なわたしはその言葉だけ鮮明に聞き取っていて。欲しい、もっと。もっと触れて。
「ふっ。そんな物欲しそうな顔して、かわいい」
 頭をたくさん撫でてくれる大きな手。いつの間にか当たり前になっていて、素直に受け入れている。食事だって、頬へのキスだって、習慣のようになっているけど、これで良いのかな……
 こんな関係、おかしいんじゃないかって思い始めていた。



 
「テスト?」
 あの日からしばらく経った頃、ご主人様からあるテストを受けるように言われた。テストってどこまで習得できているかを試すやつだよね……?
「そう。明日からだけど、普段から勉強してるんだから大丈夫だよ」
「受けろというのであれば受けますが……なんのために?」
 にっと口角を上げて「俺とアメリアの将来のため」ってご主人様はいった。どういう意味だろうか。
 こうしてわたしは、テストというものを受けたのであった。
 以外にもすらすらとけて、自分でもびっくりした。
 後日結果が届けられ、ご主人様は満面の笑み。どうやら大丈夫だったみたい。
「さ、出かけるよ」
 そう言ったご主人様に手渡されたのは、かつら? と色のついたメガネ。
 首を傾げているわたしの髪をさっと整えてかつらをかぶせられ、メガネをかける。それから手わたされた服を着て、馬車に乗った。
 ここにきてから日中外に出ることなんてなかったから、ワクワクしてしまう。馬車の窓から外を眺めてはみたことのない景色を楽しむ。
 いろいろな建物が並んでいる。一体なんの建物だろう……
「ほら、ついた」
 ご主人様に手を引かれて馬車を降りるとそこはドレスショップと制服が飾ってあった。
 あれ、この制服……どこかでみたことあるような。
「今日はアメリアの制服を頼む」
「かしこまりました、サーバント侯爵様」
 ん? 制服って……
 そのままお店の女性に連れられていくと、服を脱がされて採寸された。
「まぁ、スタイルがよろしいことで。ちょっと腰の辺りが余ってしまいますね」
「え、あの……」
 再び服を着せられ、ご主人様の元へ連れられる。
「サーバント侯爵様、少しサイズがありませんで……お時間いただければオーダーメイドで作れますがいかが致しますか?」
「合うものを作ってくれる?」
「かしこまりました」
 そこでそのお店での用事は終わったようだ。再び手を繋がれて店を出る。
「あの……あの制服は」
「ああ、来年からアメリアにも学園へ通ってもらおうと思って」
「え、ええ⁈   わたしがですか? 無理ですっ」
「試験は合格してるし特別枠で平民でも通えるよ」
 口をあんぐり開けているわたしをくすくす笑うご主人様。
「ちなみに飛び級使ってるから俺と同じ学年だな」
 うっ、どうしてこんなことに……? なぜ平民の侍女が貴族の通う学園なんかに行くのか、わからない。
「暇なんでしょう? 試しに通ってみたらいいよ」
 こうしてわたしは、なぜか学園へ通うことになったのだった。
 というかなんでわたしはカツラとメガネをかけさせられているのかな。
「他のやつに見せたくないから」
 それって、隣にわたしがいることが嫌ってこと……? そうよね。わたしは別に特別可愛いわけでもないし、体もやせ細っていて女性らしいとは程遠い。
「……わたしの存在が恥ずかしいならそう言ってくだされば」
 ぎゅっとご主人様に抱きしめられて動揺してしまう。
「どうしてそうなるの? こんなに可愛いアメリアを他に見せたくないだけだよ。可愛いアメリアは俺だけ知ってればいい」
 その言葉に顔が真っ赤になる。それってどういうこと? 妹みたいな存在だからってことかな。そういえば小説でもシスコンなんて言葉もよくあったけど、それなのかな。
「なんか、全く伝わってない気がするけど。まあいいか。あの店行こう」
 そして二人で入ったのはオシャレなカフェ。
 さっさと注文してしまったご主人様にこっそり聞いてみる。
「ご主人様、甘いものを召し上がるのですか?」
 そう気になっていた。吸血鬼のご飯は人間の血液。人間の食事を食べるなんて聞いたことがない。というかご主人様が何か食べているところなんて……
「食事は特に取ろうとは思わないけど甘いものくらい食べるよ」
 意外だ。甘いもの好きなんだね。ちょっとそれが面白かった。
 普段はあまり自分のことを話さないし、わたしもご主人様にあまり話しかけることもないから、知らないことがいっぱいだ。
 ご主人様の新しい一面が知れてちょっと嬉しかった。



  
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