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 その後連れられたのは、カツラがいっぱい売っているところだった。
「ここで何を……?」
「君のウィッグだよ。何色がいい?」
 ウィッグというのか。これをつけることは決定事項なのかな……
 確かにわたしの髪色は薄ピンクでこの世界では珍しいらしい。目立つのは避けたほうがいいのかな。
 とはいえ、何色がいいと言われても……
「ご主人様と同じ色でいいです」
 選べなかったわたしは彼と同じ黒色を選んでみた。他の人の髪色なんて、サヨさんの茶色しか知らないし……
「そう。わかった」
 ご主人様は満面の笑みでわたしを見つめる。その笑顔で周りにいたお客様がバタバタ倒れている気がするのですが……
 黒髪のウェーブがかかったものを選んでご満悦な様子のご主人様。
 そのまま連れられて、今度はメガネ屋さんへ入る。
 いろいろな色のレンズが入ったメガネ。こんなのがあるんだ……
 ご主人様はさまざまな色のメガネをわたしにかけては首を捻り、また次をかける。
 大体かけ終わった後で納得いかなかったのか店の店主へ声をかけた。
「赤に見えるメガネはないのかな」
 ……流石にメガネのレンズで赤色に見えるものなんてない気がするんだけれど。
「メガネはございませんね。ああ、ただ最近開発された目に直接つけて色を変えるものならございます。慣れるまでは大変でしょうが、慣れたらすぐにつけていられると思いますよ」
「それをもらおう。それとこのメガネを」
 目に直接つけるってコンタクトレンズのことかしら。この世界にもあるのねぇ……
 その後わたしはコンタクトの付け方を教えてもらって、なんとかつけることができたのである。




 数日後、買ったものが全て揃ってご主人様の命令で全てつけてみることにした。
 う、この制服スカート短くない……? よく小説で読む貴族の淑女は足首すら見せるのをはしたないという。でも、ここの制服は膝上だ。貴族はいるけど、前世と近いのかしら……
 次にウィッグとコンタクトをつける。鏡を見るとご主人様と似ている気がする。兄妹のようだ。
「メガネは絶対かけて」
 すっかり忘れていた。メガネもあるのか……
 メガネをかけると一瞬で雰囲気が変わる。おお、こんなに印象が変わるんだ……
「それから学園に通う際の約束事、守ってね」
「約束事……?」
「じゃあ、今から言うからちゃんと覚えてね。一つ、人前ではウィッグ、コンタクト、メガネは外さないこと。一つ、俺のことはお兄様と呼ぶこと。一つ、俺の食事は昼と夜にすること。一つ、学園にいるときは誰かしらと一緒にいること」
 ……ウィッグとメガネとコンタクトはわかったけど、お兄様ってなんだろう。それに食事の時間は……
「君には俺の妹として通ってもらうよ。だからお兄様。それから朝に食事したらアメリア遅刻するだろう?」
 あ、そうなんだ……
 それもそうだ。食事の後は少し動けなくなる。回数が増えるごとに寝ている時間は短くなっているけど、朝はかなり早く起きないといけなくなる。
「誰かしらって……?」
「学園に行ったら教えるよ。基本的に自由にしていいけど、何かあったら俺に必ず報告すること。いい?」
「はい、ご主人様。けれどいいのですか……? 食事の時間を変えても」
「問題ないよ」
 ご主人様がいいと言うのならいいのだろう。それよりも初めて通う学園にドキドキしていて。
 友達できるかなぁ……なんて考えていた。



 ドキドキしながら先生についていく。もう一人、女の人が後ろをついてきていた。ちらりと様子を見ると、なんか、怒ってる……?
 グレーの髪を靡かせて緑色の目を細めてこちらをみている。小首を傾げながらも先生に続いて教室に入る。
「今日からこのクラスの仲間になる。皆仲良くするように。では自己紹介を」
 促されてわたしは自己紹介をする。
「アメリア・サーバントです。よろしくお願いします」
「シャルル・ソーイングと申します。よろしくお願いしますわっ」
 彼女、シャルル・ソーイングの名前を聞いた時、思い出してしまった。ある小説の物語を。
 そのままわたしは気を失ってしまった。


 目を覚ますとわたしは知らないベッドに寝ていた。あれ、なんで……
「起きた? 大丈夫?」
 ベッドのそばにいたのはご主人様、あ、今はお兄様。
「大丈夫です。あの……ごめんなさい。なんだか急にふらっとして……」
「今日は食事やめておくよ」
 え、食事ってやめられるものなの? そんなわけないよね……?
「大丈夫だよ。それよりアメリアの体が心配だ」
 もう一人わたしの近くに寄ってきていて、あちこち調べられた。どうやらお医者様のようで、白衣を着ていた。
「大丈夫そうですよ。普段通りの生活をしていただいても」
 どうやらお墨付きをいただいたようだ。
「ほら、お兄様。大丈夫って言ってたし、食事は取らないと……」
「そう? なら、今から行こうか」
 彼に手をとられ、あるところに連れていかれる。
 そこには二人の生徒が既にきていた。
「クロウ、妹さん大丈夫?」
「まぁ、やっぱり可愛いわぁ」
「お前らなぁ、先に挨拶しろ」
 今まで聞いたことのない言葉を発するお兄様にびっくりしてしまう。思わずギョッとしてみていると優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
「……本当大事にしてるんだねぇ。あ、僕はレオン・オースティン。この国の王太子をしているよ。まぁレオンと呼んでくれ」
「わたくしはミーシャ・アルバロです。公爵家長女でレオンの婚約者ですわ。わたくしのことはぜひミーシャと。よろしくね、アメリア」
「あ、アメリアです。よろしくお願いします」
 ペコリと頭を下げる。この人たち、あの小説に出てくる人たちだ。
 レオン様はこの国の王太子殿下でミーシャ様の婚約者。その婚約者のミーシャ様とは幼い頃からの仲だと書いてあったはずだ。
 そして、多分、小説の通りだと……
 
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