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16歳
564 私も
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「で? ブランシェとはどうなった」
「ブランシェとは別になにも」
結局はそれを聞き出したいらしいユリスに、苦笑する。ブランシェとは本当になにもない。俺がヴィアン家のルイスだとバレてしまってちょっぴり騒ぎになったくらいである。
「ブランシェとは? 他の誰かとなにかあったのか?」
素早く食いついてくるユリスに、うーんと唸ってしまう。綿毛ちゃんは階段に座り込んだまま『ブルースくんの荷物持って行かなくていいの?』と首を傾げている。
要するに俺は伯爵との取引について、ユリスに知られたくないのだ。なんか揶揄われそうな気がするから。
アロンとのことをどうにかしなければならない。こうやってずっと悩んでいるのだが、先程アロンと顔を合わせた際には、意外といつも通りに会話できてしまった。なんでだろう。アロンがなにも考えていないような顔してるからだろうか。俺だけ悩んでいるのが馬鹿みたいだ。
「なぜ言えない」
「別に言えないってわけじゃないけど」
「じゃあなんだ」
ちょっぴり不機嫌な声を出すユリスに、首をすくめる。このままあやふやに誤魔化すと、なんだかユリスがキレそうな気がする。それはそれで面倒だな。
「……教えてもいいけど、馬鹿にしない?」
「それは話の内容による」
あっさり言ってのけたユリスに、半眼となる。
「そこは絶対に馬鹿にしないって約束するところだろ」
「無茶な約束はしない主義だ」
「ちょっと」
なんて嫌な奴。ペシッと肩を叩いてやれば、ふんと鼻で笑われてしまう。
「揶揄わないって約束するなら教えてあげてもいいよ」
「話の内容による」
「だからぁ」
澄ました顔で腕を組むユリスにムシャクシャして、綿毛ちゃんの頭をわしゃわしゃしてやる。
『やめてよぉ』
ボサボサになっちゃうと情けない顔する綿毛ちゃんは『ブルースくんの荷物持って行かないの?』とどうでもいいことを気にしている。
「兄様たちには内緒にしてね?」
「あぁ」
ここは素直に頷いたユリス。もういいやと伯爵との取引を教えてみた。
「あのね。アロンのお父さんが、アロンのこと返してほしいって」
「返してやればいいだろ」
あっさり言い放つユリスは「あれは普段仕事してるのか?」と真顔で尋ねてきた。それは知らないけど、真面目にはやってないだろうな。つい先程も明らかな嘘をついて逃げていったし。
ブランシェの代わりに俺が伯爵と取引したと知ったユリスは「は?」と顔を顰める。
「それでどうしてルイスが悩むのかわからない。あんな子爵家、放っておけばいいだろ」
「そんな冷たいこと言うなよ」
元はと言えば、俺が勝手にヴィアン家の人間であることを隠してスピネット子爵家を訪れたのが始まりなのだ。ブランシェは完全なる被害者。ここで見捨てるのはあまりにも酷いだろ。
「俺はアロンと違ってクソ野郎じゃないから」
息を吐けば、綿毛ちゃんがケラケラ笑う。なにが面白いんだ。
「ブランシェに迷惑はかけたくないから。俺がアロンのことどうにかしないといけない」
伯爵は、アロンと付き合うのかどうかはっきりさせろと言っていた。すごく簡単そうに言っていたけど、俺にとっては全然簡単じゃない。
「付き合えばいいだろ。アロンのこと好きなんだろ?」
「うーん」
ユリスから見ると、俺ってアロンが好きなのか?
よくわからない。
難しい顔で考え込んでいれば、「つまり」とユリスが俺の横顔を見つめてきた。
「とりあえず付き合って、伯爵には付き合うことにしたと報告すれば全部解決だろ。あとは頃合いを見て別れてもいいし」
「なんか卑怯だな」
それはありなの?
さすがユリス。俺には思い付かない提案をしてくる。
でもそれはちょっと。アロンは、伯爵との取引のために形だけ一回付き合ってと言っても納得しないと思う。俺としても、そういう場当たり的な解決を望んでいるわけではない。
「ユリス。どうにかして」
「どうにかって」
面食らったように前を向くユリスは「僕に言われても」と素っ気ない。代わりに綿毛ちゃんが『オレが応援するよ! がんばれー』と雑な応援をしてきた。毛玉に応援されてもな。
はぁとため息を吐いていると、二階から誰かが降りてくる足音が聞こえた。
「あれ? ふたりして何してるんですか?」
私も混ぜてくださいと無邪気に俺の隣に腰掛けてきたのはアリアだ。綺麗なワンピースを着ている。
「服汚れちゃうよ?」
「気にしませんよ、そんなの」
にこっと笑うアリアは、「それで? 階段なんかに座り込んでどうしたんですか?」と俺とユリスを見比べている。
「今ね、ユリスにお悩み相談してたの」
「へぇ」
目を丸くするアリアは、「じゃあ私もお悩み相談いいですか」と手をあげた。ユリスが「は? 嫌に決まっているだろ」と舌打ちする。
「そんなこと言わずに聞いてくださいよ。ブルース様のことなんですけど」
「いいだろう。聞かせろ」
ブルース兄様の名前が出た途端に、ユリスがやる気を見せた。こいつ。単にアリアの口からブルース兄様に対する文句が聞きたいだけだろ。
『オレも聞く!』
なぜか尻尾を振る綿毛ちゃんは『オレ、お悩み相談得意だよ!』と大嘘を吐いた。
「ブランシェとは別になにも」
結局はそれを聞き出したいらしいユリスに、苦笑する。ブランシェとは本当になにもない。俺がヴィアン家のルイスだとバレてしまってちょっぴり騒ぎになったくらいである。
「ブランシェとは? 他の誰かとなにかあったのか?」
素早く食いついてくるユリスに、うーんと唸ってしまう。綿毛ちゃんは階段に座り込んだまま『ブルースくんの荷物持って行かなくていいの?』と首を傾げている。
要するに俺は伯爵との取引について、ユリスに知られたくないのだ。なんか揶揄われそうな気がするから。
アロンとのことをどうにかしなければならない。こうやってずっと悩んでいるのだが、先程アロンと顔を合わせた際には、意外といつも通りに会話できてしまった。なんでだろう。アロンがなにも考えていないような顔してるからだろうか。俺だけ悩んでいるのが馬鹿みたいだ。
「なぜ言えない」
「別に言えないってわけじゃないけど」
「じゃあなんだ」
ちょっぴり不機嫌な声を出すユリスに、首をすくめる。このままあやふやに誤魔化すと、なんだかユリスがキレそうな気がする。それはそれで面倒だな。
「……教えてもいいけど、馬鹿にしない?」
「それは話の内容による」
あっさり言ってのけたユリスに、半眼となる。
「そこは絶対に馬鹿にしないって約束するところだろ」
「無茶な約束はしない主義だ」
「ちょっと」
なんて嫌な奴。ペシッと肩を叩いてやれば、ふんと鼻で笑われてしまう。
「揶揄わないって約束するなら教えてあげてもいいよ」
「話の内容による」
「だからぁ」
澄ました顔で腕を組むユリスにムシャクシャして、綿毛ちゃんの頭をわしゃわしゃしてやる。
『やめてよぉ』
ボサボサになっちゃうと情けない顔する綿毛ちゃんは『ブルースくんの荷物持って行かないの?』とどうでもいいことを気にしている。
「兄様たちには内緒にしてね?」
「あぁ」
ここは素直に頷いたユリス。もういいやと伯爵との取引を教えてみた。
「あのね。アロンのお父さんが、アロンのこと返してほしいって」
「返してやればいいだろ」
あっさり言い放つユリスは「あれは普段仕事してるのか?」と真顔で尋ねてきた。それは知らないけど、真面目にはやってないだろうな。つい先程も明らかな嘘をついて逃げていったし。
ブランシェの代わりに俺が伯爵と取引したと知ったユリスは「は?」と顔を顰める。
「それでどうしてルイスが悩むのかわからない。あんな子爵家、放っておけばいいだろ」
「そんな冷たいこと言うなよ」
元はと言えば、俺が勝手にヴィアン家の人間であることを隠してスピネット子爵家を訪れたのが始まりなのだ。ブランシェは完全なる被害者。ここで見捨てるのはあまりにも酷いだろ。
「俺はアロンと違ってクソ野郎じゃないから」
息を吐けば、綿毛ちゃんがケラケラ笑う。なにが面白いんだ。
「ブランシェに迷惑はかけたくないから。俺がアロンのことどうにかしないといけない」
伯爵は、アロンと付き合うのかどうかはっきりさせろと言っていた。すごく簡単そうに言っていたけど、俺にとっては全然簡単じゃない。
「付き合えばいいだろ。アロンのこと好きなんだろ?」
「うーん」
ユリスから見ると、俺ってアロンが好きなのか?
よくわからない。
難しい顔で考え込んでいれば、「つまり」とユリスが俺の横顔を見つめてきた。
「とりあえず付き合って、伯爵には付き合うことにしたと報告すれば全部解決だろ。あとは頃合いを見て別れてもいいし」
「なんか卑怯だな」
それはありなの?
さすがユリス。俺には思い付かない提案をしてくる。
でもそれはちょっと。アロンは、伯爵との取引のために形だけ一回付き合ってと言っても納得しないと思う。俺としても、そういう場当たり的な解決を望んでいるわけではない。
「ユリス。どうにかして」
「どうにかって」
面食らったように前を向くユリスは「僕に言われても」と素っ気ない。代わりに綿毛ちゃんが『オレが応援するよ! がんばれー』と雑な応援をしてきた。毛玉に応援されてもな。
はぁとため息を吐いていると、二階から誰かが降りてくる足音が聞こえた。
「あれ? ふたりして何してるんですか?」
私も混ぜてくださいと無邪気に俺の隣に腰掛けてきたのはアリアだ。綺麗なワンピースを着ている。
「服汚れちゃうよ?」
「気にしませんよ、そんなの」
にこっと笑うアリアは、「それで? 階段なんかに座り込んでどうしたんですか?」と俺とユリスを見比べている。
「今ね、ユリスにお悩み相談してたの」
「へぇ」
目を丸くするアリアは、「じゃあ私もお悩み相談いいですか」と手をあげた。ユリスが「は? 嫌に決まっているだろ」と舌打ちする。
「そんなこと言わずに聞いてくださいよ。ブルース様のことなんですけど」
「いいだろう。聞かせろ」
ブルース兄様の名前が出た途端に、ユリスがやる気を見せた。こいつ。単にアリアの口からブルース兄様に対する文句が聞きたいだけだろ。
『オレも聞く!』
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