607 / 637
16歳
563 心配
しおりを挟む
「ほら。片付けの邪魔だからあっちに行ってろ」
アロンから必死に視線を逸らしていれば、空気を読まないブルース兄様が割り込んでくる。正直助かった。
ほっと息を吐いて、綿毛ちゃんに「帰るよ」と声をかける。無邪気な毛玉は『ブルースくんの反抗期、オレも見たい』と無茶なことを言っている。それをきれいに無視したブルース兄様は「俺の荷物はどこだ」とアロンに問いかけている。
「玄関に置いてあるんじゃないですか?」
「持ってこいよ」
「なんで俺が」
嫌そうな顔をするアロンは「あ。俺急ぎの仕事が」と、わかりやすく逃げた。相変わらずのクソ野郎である。ブルース兄様が舌打ちしていた。
「荷物なら俺が取ってきてあげる」
「自分で取りに行くからいい」
「遠慮せずに。どうせ暇だから」
俺の分の荷物は、今頃ジャンとティアンが片付けてくれているだろう。アロンに見捨てられたブルース兄様が可哀想なので、お手伝いしてあげようと思う。
「お礼は美味しいお菓子でいいよ」
「自分でやるからいい」
まぁまぁとブルース兄様を宥めて、玄関に向かう。綿毛ちゃんも『お手伝いする!』と言いながらついてきた。
玄関には、ブルース兄様のカバンが無造作に置かれていた。きっとアロンが置いたんだと思う。なんで最後まで片付けないのだろうか。
ちょっと大きめのカバンをよいしょと持ち上げて、足元をうろうろする毛玉を見下ろした。この毛玉は、お手伝いすると張り切っていた。そのやる気を無下にするのは可哀想な気がする。
「……綿毛ちゃん」
『なにぃ?』
間延びした返事をする綿毛ちゃんの背中に、そっとカバンを乗せてみた。なんか心配だったので、持ち手は俺が掴んだままだけど。
『重い。潰れる』
「頑張れ!」
『やめてぇ? 手離さないでね?』
助けてぇ! と情けない声を発する綿毛ちゃん。お手伝いするって言ったのはそっちだろ。
仕方がないので、俺ひとりで持つことにする。
「役に立たない毛玉だな」
『ごめんね。役に立たなくて』
たいして悪いと思っていない綿毛ちゃんは、『坊ちゃん、頑張れ!』と雑に応援してくる。
そうして階段に向かって歩いていたところ。怠そうにポケットに手を突っ込んだユリスが寄ってきた。
「なにをしている」
「これ運ぶの。手伝って」
あまり期待せずに言うだけ言ってみれば、ユリスが横から引ったくるようにしてカバンを奪ってきた。
え、持ってくれんの? マジで?
ユリスは面倒くさがりだし意地悪でもある。てっきり嫌だと突っぱねられると思っていたのに。綿毛ちゃんも『ユリス坊ちゃん、優しいねぇ』とニマニマしている。
「ありがと」
「……」
お礼を言うが、ユリスはそっぽを向いてしまう。そのまま俺の部屋へと足を向けたユリスを慌てて引き止める。
「あ、二階に運ぶんだよ」
「なぜ」
「それブルース兄様の荷物」
その瞬間、ユリスがバッグから手を離した。どさっと床に落ちる音が響いた。
「落とすなよ」
「なぜ僕がブルースの荷物を運ばなければならない。自分で運ばせればいいだろ」
「そんなにキレなくても」
肩をすくめて、バッグを拾う。
廊下に放置するのはブルース兄様が可哀想だ。再び二階に向かう俺をユリスが追いかけてくる。
「……仕方ないから持ってやる」
「いいよ。俺がブルース兄様に頼まれたんだし」
また途中で放置されても面倒だ。
やんわり断るが、ユリスは再びバッグを奪ってくる。
「中身はなんだ」
「さぁ? 旅行の荷物だから着替えとかじゃない?」
「開けてみるか」
「え」
言うなり階段の途中に腰を下ろしたユリスは、いそいそとバッグを漁り始める。せめて二階に上がってからにしろよ。でも綿毛ちゃんも興味津々に『美味しいものある?』とユリスの手元を覗いているので、まぁいいやと俺も腰を下ろした。
バッグの中は、特に面白いものは入っていなかった。
使わなかったらしい着替えやよくわからない書類など。実に普通。俺はお出かけの時にはジャンに荷物を用意してもらうけど、ブルース兄様は自分で用意しているらしい。人に任せると必要な時にどこにあるのかわからないから嫌だと言っていた。几帳面な性格だからな。
散々中身を漁った後に「つまらない」と吐き捨てるユリスは、じっと俺の横顔を見つめてくる。「なに?」と首を傾げれば、ユリスはすぐに顔を背けてしまったけど。
「なに。気になるじゃん。なにか言いたいことでもあるの?」
えいっとユリスを小突けば、顔を顰められてしまう。
「……ブランシェと絶対になにかあっただろう」
絞り出すような声に、笑顔を引っ込めた。
またその話? なにもないって言ってるのに。
黙り込んだ俺に、ユリスが「僕には言えないことか?」と拗ねてしまう。言えないっていうか。言いたくないっていうか。
『ユリス坊ちゃんは、ルイス坊ちゃんのことが心配なんだよね』
わかったような顔で口を挟んでくる綿毛ちゃん。「そうなの?」とユリスを見る。ユリスは揉め事が大好きなだけだと思うけど。だが、俺の予想に反して、ユリスは「心配くらいするだろう」と前を向いたまま呟いた。
「いつもうるさいのに。急に静かになったら心配くらいする」
「……そうなの?」
俺っていつもそんなにうるさいか?
いや、そんなことより。本当に心配してくれてんの?
ユリスが俺のフリしてブランシェを振ったから。その後の様子について知りたいだけかと。そう言えば、ユリスが俺の代わりにブランシェを振ったのだって、流されやすい俺を心配してのことだった。
「……ありがとね」
隣に座るユリスに笑顔を向ければ、「感謝されるようなことはしていない」と照れたような早口が返ってきた。
アロンから必死に視線を逸らしていれば、空気を読まないブルース兄様が割り込んでくる。正直助かった。
ほっと息を吐いて、綿毛ちゃんに「帰るよ」と声をかける。無邪気な毛玉は『ブルースくんの反抗期、オレも見たい』と無茶なことを言っている。それをきれいに無視したブルース兄様は「俺の荷物はどこだ」とアロンに問いかけている。
「玄関に置いてあるんじゃないですか?」
「持ってこいよ」
「なんで俺が」
嫌そうな顔をするアロンは「あ。俺急ぎの仕事が」と、わかりやすく逃げた。相変わらずのクソ野郎である。ブルース兄様が舌打ちしていた。
「荷物なら俺が取ってきてあげる」
「自分で取りに行くからいい」
「遠慮せずに。どうせ暇だから」
俺の分の荷物は、今頃ジャンとティアンが片付けてくれているだろう。アロンに見捨てられたブルース兄様が可哀想なので、お手伝いしてあげようと思う。
「お礼は美味しいお菓子でいいよ」
「自分でやるからいい」
まぁまぁとブルース兄様を宥めて、玄関に向かう。綿毛ちゃんも『お手伝いする!』と言いながらついてきた。
玄関には、ブルース兄様のカバンが無造作に置かれていた。きっとアロンが置いたんだと思う。なんで最後まで片付けないのだろうか。
ちょっと大きめのカバンをよいしょと持ち上げて、足元をうろうろする毛玉を見下ろした。この毛玉は、お手伝いすると張り切っていた。そのやる気を無下にするのは可哀想な気がする。
「……綿毛ちゃん」
『なにぃ?』
間延びした返事をする綿毛ちゃんの背中に、そっとカバンを乗せてみた。なんか心配だったので、持ち手は俺が掴んだままだけど。
『重い。潰れる』
「頑張れ!」
『やめてぇ? 手離さないでね?』
助けてぇ! と情けない声を発する綿毛ちゃん。お手伝いするって言ったのはそっちだろ。
仕方がないので、俺ひとりで持つことにする。
「役に立たない毛玉だな」
『ごめんね。役に立たなくて』
たいして悪いと思っていない綿毛ちゃんは、『坊ちゃん、頑張れ!』と雑に応援してくる。
そうして階段に向かって歩いていたところ。怠そうにポケットに手を突っ込んだユリスが寄ってきた。
「なにをしている」
「これ運ぶの。手伝って」
あまり期待せずに言うだけ言ってみれば、ユリスが横から引ったくるようにしてカバンを奪ってきた。
え、持ってくれんの? マジで?
ユリスは面倒くさがりだし意地悪でもある。てっきり嫌だと突っぱねられると思っていたのに。綿毛ちゃんも『ユリス坊ちゃん、優しいねぇ』とニマニマしている。
「ありがと」
「……」
お礼を言うが、ユリスはそっぽを向いてしまう。そのまま俺の部屋へと足を向けたユリスを慌てて引き止める。
「あ、二階に運ぶんだよ」
「なぜ」
「それブルース兄様の荷物」
その瞬間、ユリスがバッグから手を離した。どさっと床に落ちる音が響いた。
「落とすなよ」
「なぜ僕がブルースの荷物を運ばなければならない。自分で運ばせればいいだろ」
「そんなにキレなくても」
肩をすくめて、バッグを拾う。
廊下に放置するのはブルース兄様が可哀想だ。再び二階に向かう俺をユリスが追いかけてくる。
「……仕方ないから持ってやる」
「いいよ。俺がブルース兄様に頼まれたんだし」
また途中で放置されても面倒だ。
やんわり断るが、ユリスは再びバッグを奪ってくる。
「中身はなんだ」
「さぁ? 旅行の荷物だから着替えとかじゃない?」
「開けてみるか」
「え」
言うなり階段の途中に腰を下ろしたユリスは、いそいそとバッグを漁り始める。せめて二階に上がってからにしろよ。でも綿毛ちゃんも興味津々に『美味しいものある?』とユリスの手元を覗いているので、まぁいいやと俺も腰を下ろした。
バッグの中は、特に面白いものは入っていなかった。
使わなかったらしい着替えやよくわからない書類など。実に普通。俺はお出かけの時にはジャンに荷物を用意してもらうけど、ブルース兄様は自分で用意しているらしい。人に任せると必要な時にどこにあるのかわからないから嫌だと言っていた。几帳面な性格だからな。
散々中身を漁った後に「つまらない」と吐き捨てるユリスは、じっと俺の横顔を見つめてくる。「なに?」と首を傾げれば、ユリスはすぐに顔を背けてしまったけど。
「なに。気になるじゃん。なにか言いたいことでもあるの?」
えいっとユリスを小突けば、顔を顰められてしまう。
「……ブランシェと絶対になにかあっただろう」
絞り出すような声に、笑顔を引っ込めた。
またその話? なにもないって言ってるのに。
黙り込んだ俺に、ユリスが「僕には言えないことか?」と拗ねてしまう。言えないっていうか。言いたくないっていうか。
『ユリス坊ちゃんは、ルイス坊ちゃんのことが心配なんだよね』
わかったような顔で口を挟んでくる綿毛ちゃん。「そうなの?」とユリスを見る。ユリスは揉め事が大好きなだけだと思うけど。だが、俺の予想に反して、ユリスは「心配くらいするだろう」と前を向いたまま呟いた。
「いつもうるさいのに。急に静かになったら心配くらいする」
「……そうなの?」
俺っていつもそんなにうるさいか?
いや、そんなことより。本当に心配してくれてんの?
ユリスが俺のフリしてブランシェを振ったから。その後の様子について知りたいだけかと。そう言えば、ユリスが俺の代わりにブランシェを振ったのだって、流されやすい俺を心配してのことだった。
「……ありがとね」
隣に座るユリスに笑顔を向ければ、「感謝されるようなことはしていない」と照れたような早口が返ってきた。
911
お気に入りに追加
3,136
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる