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16歳
529 居場所
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「僕は、ルイスがいなかったらここにはいなかったと思う」
「どういうこと?」
突然の宣言に、首を捻る。
足元で丸くなっているエリスちゃんを持ち上げて、テーブルの上にのせておく。ユリスが少しだけ鬱陶しそうに片眉を持ち上げたが、気が付かなかったことにしておく。
「僕はここを出て行くつもりだった」
「なに? 一人暮らしするってこと?」
俺の質問を無視して、ユリスは窓の外に視線をやる。
「ここに僕の居場所はなかったから。早々に家を出ようと思っていた」
「ふーん?」
そういえば、俺がユリスに成り代わった直後は兄様たちとギクシャクしていた気がする。使用人や騎士たちとの距離感も妙だったし、ニックに至ってはわかりやすくユリスを嫌っていた。オーガス兄様の部屋に近寄れば、ニックが俺を追い払うかのように冷たい態度をとっていたことを思い出す。
お母様とお父様は普通に接してくれていたけど。それでもユリスが自分の居場所がなかったと思うのは仕方がない。ユリスだけが屋敷内でなんだか浮いていたのは俺も実感していた。でもそもそもの原因はユリスの横暴な態度だと思うけどな。十歳のユリスのことをみんなが怖がっていた。
「俺が頑張ってみんなとの仲を改善したからね」
オーガス兄様と仲良くなるのは苦労した。最初は視線も合わなかったもん。ブルース兄様だって文句ばっかりだった。常にこちらを睨みつけるような鋭い目線で、会うたびに怖い人だなぁと思っていた。今のブルース兄様は怖いとは思わない。眉間に皺が寄っていることは多いが、それだけだ。
昔を思い出して懐かしむ俺。ユリスも何かを思い出すように遠くを見つめている。
「ジャンのことも。近々クビにしようと思っていた」
「ひどい。ジャンが可哀想だよ」
でも確かに。なんかそんな話をジャンやブルース兄様とした記憶がある。
「あいつはあまり役に立たないだろ」
いまだにそんな酷いことを言うユリスに、俺はムッと頬を膨らませる。
「そんなことないもん。ジャンは綿毛ちゃんの角隠すの上手いから」
「これだけ一緒に居て見つけた長所がそれなのか?」
ちょっぴり引いているユリスに、慌てて「それだけじゃないもん」と付け足しておく。ジャンは優しいし、いつも俺の味方をしてくれる。
ユリスは昔、気に入らないことがあるとすぐに使用人をクビにしていたらしい。その件に関して、ブルース兄様がすごく怒っていた。
「だからその。ルイスがいなかったら、多分僕はひとりで家を出ていたと思う」
ひとりで家出してどうするつもりだったのだろうか。正直、ユリスがひとりで生きていけるとは思えない。だってユリスは生活能力が皆無だ。自分のことが自分でできないタイプの正真正銘のお坊ちゃん育ちである。なんでそんな無謀なことを計画していたのだろうか。ちょっとびっくり。子供ってたまに大胆なことをするよな。
「なんで出て行くのやめたの?」
猫をなでなでしながら尋ねれば、ユリスが「は?」と低い声を出した。なんで不機嫌になるんだよ。
エリスちゃんを触らせてあげようとするが、ユリスは興味なさそうに一瞥するだけ。やがて一度腰を上げて座り直したユリスは、「それは、その」と珍しく歯切れの悪さをみせる。
「ルイスがいるから」
「俺がぁ?」
思わず自分の顔を指差せば、ユリスが俺から顔を背ける。なんだその態度は。
えいっとテーブルの下でユリスの足を蹴れば、「やめろ」と返ってくる。
「ユリスは一人暮らしやめたほうがいいよ。向いてないと思う。毎朝ひとりで起きられないだろ」
「うるさい」
「本当のことだろ」
寝起きの悪いユリスである。毎朝タイラーが苦労している。
「家出したいならさ。俺も一緒に行ってあげる」
「……は?」
目を見開くユリスは、面白いくらいに固まっている。
「だってユリスひとりだと変なことするだろ」
「いや、そもそも家出の予定なんてないが」
それはわかってる。
これはもしもの話だ。
勝手にユリスがいなくなったらみんなすごく心配するだろう。でもユリスは自分が心配されるなんてことはあまり考えていない。だからふらっとどこかへ行ってしまいそうでちょっぴり心配なのだ。
「だから家出するときは教えてね。勝手に出て行ったらダメだよ」
黙り込むユリスを横目に、猫を撫でる。
「綿毛ちゃんとエリスちゃんも連れて行こう。あとティアンとタイラーもね。アロンも誘う?」
「それはもはや家出じゃないだろ」
真面目につっこんでくるユリスに、思わず笑ってしまう。
「いいじゃん。楽しそうで。裏の湖のところに泊まろうよ!」
「意味がわからない」
敷地内じゃないかと吐き捨てるユリスは、気が抜けたと猫に手を伸ばす。そうして遠慮気味に猫を触ったユリスは、「家出の予定はないから安心しろ」とすんごい小さい声で言った。
だよね。だって今のユリスにはちゃんとここに居場所があるからね。出て行く理由がないもん。
「どういうこと?」
突然の宣言に、首を捻る。
足元で丸くなっているエリスちゃんを持ち上げて、テーブルの上にのせておく。ユリスが少しだけ鬱陶しそうに片眉を持ち上げたが、気が付かなかったことにしておく。
「僕はここを出て行くつもりだった」
「なに? 一人暮らしするってこと?」
俺の質問を無視して、ユリスは窓の外に視線をやる。
「ここに僕の居場所はなかったから。早々に家を出ようと思っていた」
「ふーん?」
そういえば、俺がユリスに成り代わった直後は兄様たちとギクシャクしていた気がする。使用人や騎士たちとの距離感も妙だったし、ニックに至ってはわかりやすくユリスを嫌っていた。オーガス兄様の部屋に近寄れば、ニックが俺を追い払うかのように冷たい態度をとっていたことを思い出す。
お母様とお父様は普通に接してくれていたけど。それでもユリスが自分の居場所がなかったと思うのは仕方がない。ユリスだけが屋敷内でなんだか浮いていたのは俺も実感していた。でもそもそもの原因はユリスの横暴な態度だと思うけどな。十歳のユリスのことをみんなが怖がっていた。
「俺が頑張ってみんなとの仲を改善したからね」
オーガス兄様と仲良くなるのは苦労した。最初は視線も合わなかったもん。ブルース兄様だって文句ばっかりだった。常にこちらを睨みつけるような鋭い目線で、会うたびに怖い人だなぁと思っていた。今のブルース兄様は怖いとは思わない。眉間に皺が寄っていることは多いが、それだけだ。
昔を思い出して懐かしむ俺。ユリスも何かを思い出すように遠くを見つめている。
「ジャンのことも。近々クビにしようと思っていた」
「ひどい。ジャンが可哀想だよ」
でも確かに。なんかそんな話をジャンやブルース兄様とした記憶がある。
「あいつはあまり役に立たないだろ」
いまだにそんな酷いことを言うユリスに、俺はムッと頬を膨らませる。
「そんなことないもん。ジャンは綿毛ちゃんの角隠すの上手いから」
「これだけ一緒に居て見つけた長所がそれなのか?」
ちょっぴり引いているユリスに、慌てて「それだけじゃないもん」と付け足しておく。ジャンは優しいし、いつも俺の味方をしてくれる。
ユリスは昔、気に入らないことがあるとすぐに使用人をクビにしていたらしい。その件に関して、ブルース兄様がすごく怒っていた。
「だからその。ルイスがいなかったら、多分僕はひとりで家を出ていたと思う」
ひとりで家出してどうするつもりだったのだろうか。正直、ユリスがひとりで生きていけるとは思えない。だってユリスは生活能力が皆無だ。自分のことが自分でできないタイプの正真正銘のお坊ちゃん育ちである。なんでそんな無謀なことを計画していたのだろうか。ちょっとびっくり。子供ってたまに大胆なことをするよな。
「なんで出て行くのやめたの?」
猫をなでなでしながら尋ねれば、ユリスが「は?」と低い声を出した。なんで不機嫌になるんだよ。
エリスちゃんを触らせてあげようとするが、ユリスは興味なさそうに一瞥するだけ。やがて一度腰を上げて座り直したユリスは、「それは、その」と珍しく歯切れの悪さをみせる。
「ルイスがいるから」
「俺がぁ?」
思わず自分の顔を指差せば、ユリスが俺から顔を背ける。なんだその態度は。
えいっとテーブルの下でユリスの足を蹴れば、「やめろ」と返ってくる。
「ユリスは一人暮らしやめたほうがいいよ。向いてないと思う。毎朝ひとりで起きられないだろ」
「うるさい」
「本当のことだろ」
寝起きの悪いユリスである。毎朝タイラーが苦労している。
「家出したいならさ。俺も一緒に行ってあげる」
「……は?」
目を見開くユリスは、面白いくらいに固まっている。
「だってユリスひとりだと変なことするだろ」
「いや、そもそも家出の予定なんてないが」
それはわかってる。
これはもしもの話だ。
勝手にユリスがいなくなったらみんなすごく心配するだろう。でもユリスは自分が心配されるなんてことはあまり考えていない。だからふらっとどこかへ行ってしまいそうでちょっぴり心配なのだ。
「だから家出するときは教えてね。勝手に出て行ったらダメだよ」
黙り込むユリスを横目に、猫を撫でる。
「綿毛ちゃんとエリスちゃんも連れて行こう。あとティアンとタイラーもね。アロンも誘う?」
「それはもはや家出じゃないだろ」
真面目につっこんでくるユリスに、思わず笑ってしまう。
「いいじゃん。楽しそうで。裏の湖のところに泊まろうよ!」
「意味がわからない」
敷地内じゃないかと吐き捨てるユリスは、気が抜けたと猫に手を伸ばす。そうして遠慮気味に猫を触ったユリスは、「家出の予定はないから安心しろ」とすんごい小さい声で言った。
だよね。だって今のユリスにはちゃんとここに居場所があるからね。出て行く理由がないもん。
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