冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
553 / 656
16歳

515 告白?(sideブランシェ)

しおりを挟む
 カル先生が来たとの連絡を受けて、仕事の手を止めた。今日もルイスさんは一緒だろうか。はやる気持ちを抑えて出迎えに行こうとしたのだが、ふと思いついて上着を手に取った。鏡を覗き込んで、己の眉間に皺が寄っていることを認めて気持ちを落ち着ける。

 先日、妹であるシャノンに顔が怖いと言われたことが何度も頭をよぎってしまう。シャノン本人はほんの冗談のつもりで言ったのだろうが、まさか可愛い妹にそんなことを思われていたなんて。

 これまで何度も指摘されたことではあるはずなのに、今更ながら気になってしまう。

 眉間を揉んで、大きく息を吐いた。
 大丈夫だ。ルイスさんが私を怖がっているような素振りを見せたことはない。大人びた振る舞いの目立つルイスさんであるが、意外と素直だ。時折思ったことが顔に出ている。私に声をかけられて、けれどもはやく帰りたい時などはちらちらと玄関の方角を気にしていたりする。

 そんな時は、名残惜しくはあるが話を切り上げることにしている。

 己の顔としばらく格闘して、服装を整えた。唐突に、はやくしないと他の人にとられてしまうというシャノンの言葉を思い出した。

 まあ、あれだけ綺麗な人だったらな。
 むしろ今現在、恋人はいないという発言を疑ってしまう。あれは女性にだってモテるだろう。うちのシャノンも、ルイスさんにはやけに懐いている。

 今は勉強が忙しいから恋人を作るつもりはないという意味だろうか。それなら納得はするが。

 頭を振って、妙な考えを追い出そうと努力する。

 今はルイスさんだ。
 あまり待たせるわけにはいかない。

 早足にルイスさんが向かうであろうシャノンの部屋を目指す。しかし、予想に反してルイスさんはまだ玄関にいた。

 そのまま通り過ぎる勢いだった私は、慌てて足を止める。カル先生も一緒だ。一応はシャノンの部屋へと案内を申し出たのであろう。困った顔をした使用人が、私の姿を見るなり安堵の息を吐いていた。

「どうかしましたか?」

 カル先生に問い掛ければ、ルイスさんが私を見据えた。黒い瞳が、真っ直ぐにこちらへと向けられている。

 なぜか黙り込むカル先生の代わりに、ルイスさんが前に出てきた。なんとなく場に緊張が走る。

 普段の無邪気な笑みを消し去ったルイスさんは、いつになく真面目な表情だ。

「話がある」

 抑揚のない声で言われて、咄嗟に「はい」と応じる。いつもとは異なる雰囲気に内心で戸惑うが、誰も何も指摘をしない。

 カル先生でさえ一歩下がったところで佇んでいるのみ。

 それにしても話とはなんだろうか。
 ルイスさんが私にというのは想像できない。いつも大事なことはカル先生が伝えてくる。ルイスさんは、その隣でにこにこしているのが常だ。

「……おまえ、僕に気があるらしいな」
「……え?」

 気怠そうに発せられた言葉の意味を理解するのに、少々時間を要した。

 というか、おまえって言ったのか?
 ルイスさんが?

 彼はいつも私のことをブランシェ様と呼んでいたと記憶している。

 いや、そんなことよりも。

 なんと答えていいのか逡巡しているうちに、ルイスさんが軽快な足音と共に寄ってきた。そのまま真正面までやって来られて肩が跳ねる。

 だが、そこに宿る苛烈な色に気が付いて息を呑んだ。

「僕はおまえになんてこれっぽっちも興味がない」
「え」
「僕のことは諦めるんだな。正直どう見ても釣り合わないだろう。特に顔とか」

 また顔だ。
 私の顔が怖いところころ笑いながら指摘するシャノンの顔が浮かんだ。そんなに怖いのか?

 グッと眉間に皺が寄って、慌ててこういう仕草が怖がられるのかと力を抜いた。

「ということだから。僕のことは諦めろ。いいな?」

 仁王立ちでどこか偉そうに告げられた言葉に、ハッと我に返る。いやいや。意味がわからない。なんで私が振られたみたいな形になっているのだ。

 空気に飲まれて呆然としていたが、まったくもって意味不明である。それに今日のルイスさんは変だ。

 優しい笑顔はすっかり消えて、どこか冷たい雰囲気。すっと目を細めて、まるでこちらを値踏みするかのような不躾な視線を感じる。

 儚げというより気怠いという表現が似合う。

 どこかやる気なさそうな佇まいで、けれどもこちらを見据える冷たい目。

「あの、なにかお気に触るようなことでも」

 知らないうちに失礼なことをしただろうかと尋ねるが、ルイスさんは動じない。それどころか鼻で笑ってくる。その背後では、カル先生が静かに頭を抱えていた。

「僕はおまえに興味がない。きっぱり諦めるんだな」

 色々と疑問はあるが、なんだろう。告白してもいないのに振られているこの状況は。
しおりを挟む
感想 474

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません

めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。 家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。 しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。 調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。 だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。 煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!? /////////////////////////////// ※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。 ///////////////////////////////

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...