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16歳
514 気になる人(sideブランシェ)
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今日も王立騎士団での勤務を終えて帰宅した時のことである。
妹のシャノンがくすくすと忍び笑いで近寄ってきた。その悪戯っぽい表情に、一瞬だけ身構える。可愛い妹ではあるが、まだ十四歳。時折、兄である私でも予測不可能なことをする。
「どうした」
「お兄様。ルイス様っていつまでうちにいらっしゃるのかしら?」
「え?」
唐突な問いに面食らってしまう。
家庭教師であるカル先生のお弟子さんだというルイスさん。華奢な体付きに人懐こい笑顔。シャノンとも早々に打ち解けているらしい。
「それはわからないが」
カル先生からいつまでという話は聞いていない。
なんとなくずっと通ってくるものだと思っていたが、よく考えればそんな保証はどこにもない。ある日突然姿を見せなくなっても不思議ではない。
そんなことを考えていれば、シャノンが楽しそうに顔の前で両手を合わせた。きらきらと輝く瞳は、私とは似ても似つかない。
顔が怖いと言われる私とは異なり、シャノンは優しい顔立ちをしている。
「ルイス様。素敵な方ですよね」
「あぁ」
意味深な視線を向けられて、居心地の悪さに上着を脱いで左手にかける。すかさず使用人が手を差し出してきたので預けておく。
自室に早足で向かえば、シャノンもついてくる。小さい頃からシャノンは私の後を追うのが常だった。昔は小さい体で一生懸命に追ってきていたというのに、最近ではくすくす笑いながら余裕の表情で追ってくる。そんなシャノンのことが可愛くて堪らないと思うのは今でも変わらない。
ちらりと肩越しに後ろを確認すれば、「お兄様!」と小走りにシャノンが追ってくる。部屋にまでついてきたシャノンは、なにやら意味深に口角を上げた。
「ルイス様。恋人はいないそうですよ」
「っ」
なんだそれは。なんでそんなことを知っている。
思わず妹の顔をまじまじと見つめれば、彼女は誇らしげな様子で「よかったですね」と目を輝かせる。その期待に満ちた瞳に、少々肩に力が入ってしまう。
鋭いシャノンは、私の気持ちなんてお見通しらしい。今更ながら妹に変なことを知られたという羞恥心のようなものが湧き上がってきた。
「いや、私は別に」
「あんなに素敵な方ですもの。ぼけっとしていたら他の方にとられてしまいますよ」
「……」
真面目に語るシャノンに、眉を寄せる。だが確かに。
頭をよぎったのは、先日のこと。たまたまうちに遊びに来ていたフランシス様を追いかけるように出て行ったルイスさんの背中。
詳しくは聞けなかったが、知り合いなのだろう。カル先生はここらでは有名な家庭教師である。当然ながらフランシス様とも付き合いがある。そんなカル先生のお弟子さんであるルイスさんが、フランシス様と顔見知りでも何もおかしくはない。
もしや、うちだけではなく他所の屋敷にもカル先生と共に出入りしているのだろうか。
にこにこと愛想の良いルイスさんを思い浮かべる。黙っている時などは頼りなさげに見えてしまうが、口を開けば案外人懐こいと知った。
私以外にも、ああやって笑顔でにこやかに接している姿が容易に想像できてしまう。
「お兄様! このままだと後悔する羽目になりますよ。騎士として、そんな情けない選択をするつもり?」
腰に手を当てて説教口調で焚き付けてくるシャノンは、兄の苦悩を楽しんでいるのではないかと不安になる。
普段以上に饒舌なシャノンは、ルイスさんがいかに素晴らしいかを語り始めた。その内容には同意するが、いささか前のめりで心配になる。もしやシャノンもルイスさんのことが好きなのかと思えるほどの熱のこもり具合だ。
だがそんな想像に反して、シャノンは「はやく気持ちを伝えないと」と私の背中を押すような発言ばかりしている。
そもそも男同士だという部分は気にならないのか?
純粋なシャノンの言葉に、首を捻る。そんな私の困惑を嗅ぎとったのだろう。シャノンが「だって」と両手を後ろで組んで悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私、ああいう優しいお兄様がほしかったの」
「優しくなくて悪かったな」
可愛い妹からのまさかの発言に半眼となれば、シャノンは「いやね、お兄様」ところころ笑う。
「お兄様は十分私に優しいじゃない。そうじゃなくて。ああいう優しいお顔をしたお兄様がほしかったって話よ」
「悪かったな。怖い顔で」
どちらにせよあまり嬉しい発言ではない。
グッと眉間に力が入る。すぐにシャノンが「ほらぁ。また怖い顔」と楽しそうに指摘してきた。
妹のシャノンがくすくすと忍び笑いで近寄ってきた。その悪戯っぽい表情に、一瞬だけ身構える。可愛い妹ではあるが、まだ十四歳。時折、兄である私でも予測不可能なことをする。
「どうした」
「お兄様。ルイス様っていつまでうちにいらっしゃるのかしら?」
「え?」
唐突な問いに面食らってしまう。
家庭教師であるカル先生のお弟子さんだというルイスさん。華奢な体付きに人懐こい笑顔。シャノンとも早々に打ち解けているらしい。
「それはわからないが」
カル先生からいつまでという話は聞いていない。
なんとなくずっと通ってくるものだと思っていたが、よく考えればそんな保証はどこにもない。ある日突然姿を見せなくなっても不思議ではない。
そんなことを考えていれば、シャノンが楽しそうに顔の前で両手を合わせた。きらきらと輝く瞳は、私とは似ても似つかない。
顔が怖いと言われる私とは異なり、シャノンは優しい顔立ちをしている。
「ルイス様。素敵な方ですよね」
「あぁ」
意味深な視線を向けられて、居心地の悪さに上着を脱いで左手にかける。すかさず使用人が手を差し出してきたので預けておく。
自室に早足で向かえば、シャノンもついてくる。小さい頃からシャノンは私の後を追うのが常だった。昔は小さい体で一生懸命に追ってきていたというのに、最近ではくすくす笑いながら余裕の表情で追ってくる。そんなシャノンのことが可愛くて堪らないと思うのは今でも変わらない。
ちらりと肩越しに後ろを確認すれば、「お兄様!」と小走りにシャノンが追ってくる。部屋にまでついてきたシャノンは、なにやら意味深に口角を上げた。
「ルイス様。恋人はいないそうですよ」
「っ」
なんだそれは。なんでそんなことを知っている。
思わず妹の顔をまじまじと見つめれば、彼女は誇らしげな様子で「よかったですね」と目を輝かせる。その期待に満ちた瞳に、少々肩に力が入ってしまう。
鋭いシャノンは、私の気持ちなんてお見通しらしい。今更ながら妹に変なことを知られたという羞恥心のようなものが湧き上がってきた。
「いや、私は別に」
「あんなに素敵な方ですもの。ぼけっとしていたら他の方にとられてしまいますよ」
「……」
真面目に語るシャノンに、眉を寄せる。だが確かに。
頭をよぎったのは、先日のこと。たまたまうちに遊びに来ていたフランシス様を追いかけるように出て行ったルイスさんの背中。
詳しくは聞けなかったが、知り合いなのだろう。カル先生はここらでは有名な家庭教師である。当然ながらフランシス様とも付き合いがある。そんなカル先生のお弟子さんであるルイスさんが、フランシス様と顔見知りでも何もおかしくはない。
もしや、うちだけではなく他所の屋敷にもカル先生と共に出入りしているのだろうか。
にこにこと愛想の良いルイスさんを思い浮かべる。黙っている時などは頼りなさげに見えてしまうが、口を開けば案外人懐こいと知った。
私以外にも、ああやって笑顔でにこやかに接している姿が容易に想像できてしまう。
「お兄様! このままだと後悔する羽目になりますよ。騎士として、そんな情けない選択をするつもり?」
腰に手を当てて説教口調で焚き付けてくるシャノンは、兄の苦悩を楽しんでいるのではないかと不安になる。
普段以上に饒舌なシャノンは、ルイスさんがいかに素晴らしいかを語り始めた。その内容には同意するが、いささか前のめりで心配になる。もしやシャノンもルイスさんのことが好きなのかと思えるほどの熱のこもり具合だ。
だがそんな想像に反して、シャノンは「はやく気持ちを伝えないと」と私の背中を押すような発言ばかりしている。
そもそも男同士だという部分は気にならないのか?
純粋なシャノンの言葉に、首を捻る。そんな私の困惑を嗅ぎとったのだろう。シャノンが「だって」と両手を後ろで組んで悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私、ああいう優しいお兄様がほしかったの」
「優しくなくて悪かったな」
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「お兄様は十分私に優しいじゃない。そうじゃなくて。ああいう優しいお顔をしたお兄様がほしかったって話よ」
「悪かったな。怖い顔で」
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