冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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16歳

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「ブランシェを振るのか。僕も立ち会う」
「なんでだよ」

 相変わらずおかしな事を言うユリスは、読んでいた本を閉じておもむろに立ち上がった。

 フランシスと仲直りできたことが嬉しかった俺は、帰宅するなり事の顛末をユリスに語って聞かせた。適当に聞き流していたユリスは、ブランシェが俺のことを好きかもという話になった途端に表情を明るくした。そこからは頬杖をついて前のめりに耳を傾けていたのだが、ついには立ち上がって部屋の中をうろうろし始める。落ち着けよ。

 俺がヴィアン家のルイスであることは内緒なのだ。ユリスを連れて行くわけにはいかないだろう。

『ルイス坊ちゃんって性格の割にはモテるよねぇ』
「それって俺の悪口?」

 余計な口を挟む綿毛ちゃんを捕まえてわしゃわしゃしておく。

「綿毛ちゃんは犬なのに。恋愛とかわかるのか?」
『犬じゃないでーす。それくらいわかりますぅ』

 終始ニヤニヤしている綿毛ちゃんは楽しそうだ。
 一方でティアンは面倒くさいとでも言いたそうにしきりに首を触っていた。なんだかそわそわしている。

「どうしたの、ティアン」
「いえ、なんでも」

 小さく首を振るティアンは、「ユリス様はダメですよ。全部バレてしまうじゃないですか」と話を戻して俺の味方をしてくれた。それにタイラーも大きく頷いている。

 みんなに反対されたユリスが、小さく舌打ちした。仕方がないだろう。俺の正体がバレると本当にややこしい事になる。

 途端に不機嫌になったユリスは、「ブランシェはダメだな。子爵家だろ。それに真面目だけが取り柄な男のどこがいいんだ」とブランシェのことを貶してしまう。誰もブランシェと付き合いたいなんて言っていない。勝手に判断するんじゃない。

 さっさと振ってしまえと、ユリスは吐き捨てた。いや振れと言われても。なんでみんな同じことを言うのか。

 アロンとユリスが言っただけであれば、俺はここまで真剣に悩まなかっただろう。このふたりは、いつも面白さを優先しているような奴らである。自分に害が及ばなければ、積極的に揉め事を起こしに行くような性格なのだ。そんなふたりが口を揃えたところで、あまり真剣に捉える必要はなかっただろう。

 だが、今回はフランシスも同意見なのだ。これが実に厄介。俺の知るフランシスは、そんなに変なことはしない。むしろ常識ある部類だと思う。そんなフランシスが、ブランシェに妙な期待を抱かせるべきではないと主張している。

「……ブランシェって本当に俺のこと好きなの?」

 問題はそこである。
 そこに間違いがなければ、まあ先手を打っても構わないと思える。最悪なのは、何もかも勘違いだった時だ。俺が大恥をかいてしまう。

 だが、ティアンは「そうなんじゃないですか」と適当な相槌を打ってくる。

「そういう噂があるのは僕も知ってます。相手は時期的に考えてルイス様で間違いないと思いますけどね。ルイス様が儚げかどうかはさておいて」
「なんでさておくの?」

 ねぇ! とティアンに詰め寄るのだが、彼はふいと顔を背けて答えてくれない。

「俺は儚い美少年だもん! そうだよね!?」

 黙って猫を抱えていたジャンが、弾かれたように「はい!」と頷いた。ジャンが言うなら間違いはない。ふふんと胸を張れば、ティアンが「なんでわざわざ猫を連れてくるんですか」と露骨に話題を変えにくる。

 みんなでユリスの部屋に集まっているのに、エリスちゃんだけ仲間外れは可哀想でしょうが。だがエリスちゃんは気が強いので。放しておくとすぐに綿毛ちゃんを追いかけ回すのだ。結構長く一緒にいるのに、エリスちゃんが綿毛ちゃんに優しくすることはない。お喋りする変な犬のことが気に入らないのだろう。

 ジャンから猫を受け取って、目についた綿毛ちゃんを追いかけ回しておく。

「猫と仲良くしろ! 猫が可哀想だろ!」
『いやいやいやいや。どう見てもいつもオレがいじめられてるんですけどぉ? やめて! 追いかけないで! 助けて、ティアンさぁん!』

 素早い毛玉は、室内をくるくると逃げ回る。「やめろよ。人の部屋で暴れるな」と、ユリスが眉根を寄せていた。

 やれやれと偉そうに肩をすくめたユリスは、仕方がないと言わんばかりに腕を組んだ。

「おまえが嫌だと言うんだったら、僕が代わりにブランシェのことを振ってやる」
「意味がわからないんだけど」

 そんなの嫌に決まっているだろう。
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