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16歳
綿毛ちゃんの日常14
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ぽかぽかと気持ちの良い昼間。
窓際の涼しいところで、うとうとするオレ。とってもいい気分。
だが、そんな心地の良い時間もすぐに終わりを迎える。バタバタと豪快な足音が聞こえてきて、ドアが勢いよく開け放たれる。
「綿毛ちゃん!!」
『なに?』
飛び込んできたのは、ルイス坊ちゃんだ。
床で丸くなっていた猫ちゃんが、素早く立ち上がって坊ちゃんの足に戯れついている。そんな猫ちゃんの背中をわしゃわしゃ撫でて、ルイス坊ちゃんは顔を上げる。
「綿毛ちゃん!」
『うん。なにぃ?』
オレの問いかけを無視して、坊ちゃんは猫ちゃんを抱え上げる。「肉球肉球」と、執拗に猫ちゃんの前足を握る坊ちゃんは、相変わらずのマイペース。オレの質問に全然答えてくれない。
「綿毛ちゃん!」
『うんうん。なんだい?』
これいつまで続くのだろうか。どういう反応を返すのが正解なんだろう。難しいなぁ。
ひとりで悩んでいると、坊ちゃんが突然オレの頭を乱暴に撫でてくる。床におろされた猫ちゃんが、鋭い目つきでオレを睨んでいる。ひぇ。
「この角、はやくどうにかしないとな」
『どうもしなくていいよぉ?』
ぼそっと呟かれた言葉に、小さく震える。
ここの兄弟くんたちは、揃いも揃ってオレの角を抜こうとしてくる。油断ならない。
「ねぇ! 綿毛ちゃん! なんでさっきから俺のこと無視するの!?」
『無視してるのは坊ちゃんだよ?』
ひどい言いがかりだ。
オレはちゃんと返事をしていたのに。まぁいいや。坊ちゃんの横暴は今に始まったことではない。のんびり伸びをしながら見上げると、腰に手を当てて偉そうに仁王立ちする坊ちゃんと視線が合ってしまう。なにその態度。嫌な予感がする。一応尋ねてみれば、「ブルース兄様の真似」というシンプルな答えが返ってきた。相変わらずお兄ちゃんのことが好きだねぇ。
微笑ましい気分になるオレであったが、次に発せられた坊ちゃんの言葉にピシッと固まることになる。
「黒い犬がほしい!」
『……ん?』
なにその宣言。えっと、うん。そうかい。
目を瞬くオレに、坊ちゃんはさらに大きな声で「黒い犬がほしい!」と重ねてくる。
「黒い犬は、黒くてかっこいい」
『え、うん』
「黒い犬は、えっと。かっこいい!」
『う、うん』
要するに、黒色がかっこいいのね。わかったわかった。
「綿毛ちゃんは、真っ白じゃないけど。白色」
『白っていうか、灰色ね』
「ほこりと一緒の色。汚い白色」
『汚くないよ!?』
坊ちゃんが失礼なのは、いつものことだ。へらっと笑って話を終わらせようとするが、坊ちゃんは誤魔化されてくれない。黒い犬がほしいと繰り返している。
「ブルース兄様にお願いしたけどダメって」
『残念だったね』
ブルースくんに「黒い犬ほしぃい!!」と絡むルイス坊ちゃんの姿が容易に想像できてしまう。それに対して、「ダメに決まってるだろ!」と負けじと言い返すブルースくんの姿も簡単に想像できてしまった。
だが、それで諦める坊ちゃんではない。
ブルースくんには追い返されたが、まだなにか企んでいるらしい。
「自分でどうにかすることにした!」
自分で?
ブルースくんにダメと言われたので、自力で解決するつもりらしい。もしや黒い犬を探しに行くと言うつもりだろうか。頑張れと応援しようとしたオレだが、その前に坊ちゃんがニヤッと笑った。悪戯を思いついた時の悪い顔だ。
ちょっぴり不安を抱えるオレに、坊ちゃんは得意げに腕を組んだ。これもブルースくんの真似だろうか。似てるとは思う。ブルースくんは、無意識なのかたまにこういう仕草をする。
「自分で黒い犬を作る!」
『作る?』
ぽかんとするオレ。え、作るってなに。
ぬいぐるみでも作るつもりだろうか。だったら応援するけど。
だが、坊ちゃんのニヤニヤ顔を見るに、そういう平和的な方法ではなさそうだ。もしや魔法で作るつもりだろうか。無理だと思う。確かにオレは魔法で生み出されたけど、それはオレのご主人様の強大な魔力あっての話だ。ほとんど魔力が残っていない坊ちゃんには無理だろう。どう説明しようか迷っていると、坊ちゃんが「いい方法あるよ」と楽しそうに言う。
『魔法は無理だよ?』
「魔法はいらないよ」
そうなの? だったらいいけど、と思ったのも束の間。次に続いた無邪気な言葉に、オレは絶句する。
「綿毛ちゃんを黒くする!」
『……え?』
あ、オレ?
楽しそうにしている坊ちゃんには悪いが、それはちょっと。念の為、『インクでは無理だと思うよ』と伝えてみるが、坊ちゃんは「大丈夫」と自信たっぷり。
「アロンにどうにかしてもらう」
『アロンさんも万能ではないと思うけど』
言うなり、坊ちゃんは部屋を飛び出す。オレも心配になって慌てて追いかける。そうしてブルースくんの部屋にいたアロンさんを捕まえた坊ちゃんは、早速本題に入る。やめて、オレの毛がピンチ。
幸いなのは、同じ部屋にブルースくんがいることだろう。どうにか坊ちゃんの暴走を止めてほしい。
「毛を黒くするやつがほしい」
「ルイス様、黒いじゃないですか」
不思議そうな顔をするアロンさんの横で、ブルースくんが苦い顔をしている。おそらく坊ちゃんの企みに気がついたのだろう。直前まで黒い犬欲しいと散々騒いでいたみたいだから。
「その犬を染めるのはダメだからな」
先回りして制止してくれたブルースくんには感謝だ。オレの命の恩人と言っても過言ではない。
「ダメじゃない!」
「ダメだ! 変な我儘言うんじゃない!」
突如始まった言い争いに、アロンさんが「ブルース様。弟には優しくしないと」と、いらん口を挟んでいる。
頑張れ、ブルースくん。オレの毛を守って。
窓際の涼しいところで、うとうとするオレ。とってもいい気分。
だが、そんな心地の良い時間もすぐに終わりを迎える。バタバタと豪快な足音が聞こえてきて、ドアが勢いよく開け放たれる。
「綿毛ちゃん!!」
『なに?』
飛び込んできたのは、ルイス坊ちゃんだ。
床で丸くなっていた猫ちゃんが、素早く立ち上がって坊ちゃんの足に戯れついている。そんな猫ちゃんの背中をわしゃわしゃ撫でて、ルイス坊ちゃんは顔を上げる。
「綿毛ちゃん!」
『うん。なにぃ?』
オレの問いかけを無視して、坊ちゃんは猫ちゃんを抱え上げる。「肉球肉球」と、執拗に猫ちゃんの前足を握る坊ちゃんは、相変わらずのマイペース。オレの質問に全然答えてくれない。
「綿毛ちゃん!」
『うんうん。なんだい?』
これいつまで続くのだろうか。どういう反応を返すのが正解なんだろう。難しいなぁ。
ひとりで悩んでいると、坊ちゃんが突然オレの頭を乱暴に撫でてくる。床におろされた猫ちゃんが、鋭い目つきでオレを睨んでいる。ひぇ。
「この角、はやくどうにかしないとな」
『どうもしなくていいよぉ?』
ぼそっと呟かれた言葉に、小さく震える。
ここの兄弟くんたちは、揃いも揃ってオレの角を抜こうとしてくる。油断ならない。
「ねぇ! 綿毛ちゃん! なんでさっきから俺のこと無視するの!?」
『無視してるのは坊ちゃんだよ?』
ひどい言いがかりだ。
オレはちゃんと返事をしていたのに。まぁいいや。坊ちゃんの横暴は今に始まったことではない。のんびり伸びをしながら見上げると、腰に手を当てて偉そうに仁王立ちする坊ちゃんと視線が合ってしまう。なにその態度。嫌な予感がする。一応尋ねてみれば、「ブルース兄様の真似」というシンプルな答えが返ってきた。相変わらずお兄ちゃんのことが好きだねぇ。
微笑ましい気分になるオレであったが、次に発せられた坊ちゃんの言葉にピシッと固まることになる。
「黒い犬がほしい!」
『……ん?』
なにその宣言。えっと、うん。そうかい。
目を瞬くオレに、坊ちゃんはさらに大きな声で「黒い犬がほしい!」と重ねてくる。
「黒い犬は、黒くてかっこいい」
『え、うん』
「黒い犬は、えっと。かっこいい!」
『う、うん』
要するに、黒色がかっこいいのね。わかったわかった。
「綿毛ちゃんは、真っ白じゃないけど。白色」
『白っていうか、灰色ね』
「ほこりと一緒の色。汚い白色」
『汚くないよ!?』
坊ちゃんが失礼なのは、いつものことだ。へらっと笑って話を終わらせようとするが、坊ちゃんは誤魔化されてくれない。黒い犬がほしいと繰り返している。
「ブルース兄様にお願いしたけどダメって」
『残念だったね』
ブルースくんに「黒い犬ほしぃい!!」と絡むルイス坊ちゃんの姿が容易に想像できてしまう。それに対して、「ダメに決まってるだろ!」と負けじと言い返すブルースくんの姿も簡単に想像できてしまった。
だが、それで諦める坊ちゃんではない。
ブルースくんには追い返されたが、まだなにか企んでいるらしい。
「自分でどうにかすることにした!」
自分で?
ブルースくんにダメと言われたので、自力で解決するつもりらしい。もしや黒い犬を探しに行くと言うつもりだろうか。頑張れと応援しようとしたオレだが、その前に坊ちゃんがニヤッと笑った。悪戯を思いついた時の悪い顔だ。
ちょっぴり不安を抱えるオレに、坊ちゃんは得意げに腕を組んだ。これもブルースくんの真似だろうか。似てるとは思う。ブルースくんは、無意識なのかたまにこういう仕草をする。
「自分で黒い犬を作る!」
『作る?』
ぽかんとするオレ。え、作るってなに。
ぬいぐるみでも作るつもりだろうか。だったら応援するけど。
だが、坊ちゃんのニヤニヤ顔を見るに、そういう平和的な方法ではなさそうだ。もしや魔法で作るつもりだろうか。無理だと思う。確かにオレは魔法で生み出されたけど、それはオレのご主人様の強大な魔力あっての話だ。ほとんど魔力が残っていない坊ちゃんには無理だろう。どう説明しようか迷っていると、坊ちゃんが「いい方法あるよ」と楽しそうに言う。
『魔法は無理だよ?』
「魔法はいらないよ」
そうなの? だったらいいけど、と思ったのも束の間。次に続いた無邪気な言葉に、オレは絶句する。
「綿毛ちゃんを黒くする!」
『……え?』
あ、オレ?
楽しそうにしている坊ちゃんには悪いが、それはちょっと。念の為、『インクでは無理だと思うよ』と伝えてみるが、坊ちゃんは「大丈夫」と自信たっぷり。
「アロンにどうにかしてもらう」
『アロンさんも万能ではないと思うけど』
言うなり、坊ちゃんは部屋を飛び出す。オレも心配になって慌てて追いかける。そうしてブルースくんの部屋にいたアロンさんを捕まえた坊ちゃんは、早速本題に入る。やめて、オレの毛がピンチ。
幸いなのは、同じ部屋にブルースくんがいることだろう。どうにか坊ちゃんの暴走を止めてほしい。
「毛を黒くするやつがほしい」
「ルイス様、黒いじゃないですか」
不思議そうな顔をするアロンさんの横で、ブルースくんが苦い顔をしている。おそらく坊ちゃんの企みに気がついたのだろう。直前まで黒い犬欲しいと散々騒いでいたみたいだから。
「その犬を染めるのはダメだからな」
先回りして制止してくれたブルースくんには感謝だ。オレの命の恩人と言っても過言ではない。
「ダメじゃない!」
「ダメだ! 変な我儘言うんじゃない!」
突如始まった言い争いに、アロンさんが「ブルース様。弟には優しくしないと」と、いらん口を挟んでいる。
頑張れ、ブルースくん。オレの毛を守って。
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