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16歳
441 小さい子
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「ジェフリーから手紙きた。今度遊びに来るって」
「へー、よかったな」
ジェフリーから届いた手紙を広げて、ユリスにも見せてあげる。丁寧な文字で綴られたそれを何度も読み返して、ユリスに突きつける。
「真面目に見て!」
「見ただろ。わかったから。よかったな」
適当にあしらってくるユリスは、鬱陶しそうに己の前髪を横に撫でつけている。
ジェフリーの屋敷に遊びに行ってから数日後。早速届いた手紙に、俺はわくわくと心を躍らせる。ジェフリーと遊ぶのは楽しい。たとえ数日前に会ったばかりだとしても、また会いたい。
俺にとって、年下の遊び相手というのはジェフリーくらいだ。アロンにもらった例のペンで、いつでも遊びにきていいよと返事も出した。おそらくデニスと一緒に、近いうちに来てくれるに違いない。
『オレもジェフリーくんに会いたいな。ご挨拶しようと思う』
「犬は喋らないで!」
『いいじゃん。オレも小さいお子様見たい』
ふざけた主張をする綿毛ちゃんに、ユリスが「ジェフリーはそこまで小さくないだろ」と呆れ顔をしている。そうだな。小さい子を見たいのであれば、オーガス兄様の子供であるケイシーを見ればいいと思う。ケイシーはまだ小さいから。というか、綿毛ちゃんは前にもジェフリーのこと見ただろ。俺がジェフリーとキスしたとか、アロンに告げ口したの忘れてないからな。
ティアンが騎士団の訓練に参加している間、俺はユリスの部屋に居座ることが増えた。ユリスが魔法研究所に行っている時は自分の部屋に居るけど。
ユリスは、近頃なんだか暇そうにしている。魔法の研究が思ったように進まなくて、なんとなく研究所から足が遠のいているような感じだ。とはいえ、諦めたというわけでもなさそうだ。オーガス兄様の部屋に行っては、珍しい魔法の書物を寄越せと無茶振りしている。オーガス兄様が可哀想。
今日もティアンの戻りを待つ間に、ユリスの部屋でくつろいでいた。ちゃんと綿毛ちゃんも持参している。俺のお昼寝枕だ。
「ユリスも一緒に寝る? 綿毛ちゃん枕にすると面白いよ」
『オレは全然面白くないけどねぇ』
「……」
『あ、無視? ひどいよぉ』
へにゃっと情けない顔をする綿毛ちゃん。綿毛ちゃんは、出会った頃と比べて悲しい顔をするのが上手くなったと思う。すべては俺への抗議のためだ。なんて嫌な毛玉だ。
「綿毛ちゃんにはおやつあげないから!」
『酷すぎる。聞いた? ユリス坊ちゃん。君の弟くんがオレをいじめるよ』
「俺はユリスの弟じゃないから」
ちょっぴり片眉を持ち上げたユリスが、「弟だろ。まだそんなこと言っていたのか?」と怪訝な顔をする。
我儘な犬は放っておいて、猫と遊ぶことにする。持参したブラシで猫のお手入れをする。俺は今、猫の毛を集めてオーガス兄様にプレゼントしようと考えていた。オーガス兄様は、最近ユリスに変な絡み方をされて可哀想だから。ハッピーになれる物をあげようと思う。
せっせと猫の抜け毛を集める俺は、これまた持参した小さな箱に毛を詰めていく。
「捨てろよ、そんなもの」
理解のないユリスの言葉は気にしない。猫は可愛い。猫の毛も可愛い。それでいいだろ。
「綿毛ちゃんは、あんまり毛が抜けないよね」
『うん。そうだね』
まぁ綿毛ちゃんの抜け毛には興味ないから別にいいけど。
ジャンの手も借りて、猫の毛を集める。無言でユリスの部屋を片付けていたタイラーが「集めてどうするんですか」と眉を顰めている。
「ユリス。部屋散らかしたら自分で片付けないと」
タイラーが大変そうなので、ちょっと注意してみる。「はぁ?」と苛立ったユリスは、「なんで僕がそんなことを」と吐き捨てている。ユリスは、昔からこうだ。自分で動くのは最小限。あとはタイラーや使用人たちにすべて任せてしまう。まぁ、俺も似たようなものだけど、少なくともユリスよりは自分で色々やっている。
「今日は勉強しないのか?」
話を逸らすユリスに、俺は肩をすくめる。
勉強はちゃんとやっているからご心配なく。カル先生が来ない日でも、ちゃんとやっている。
「ねぇ! 俺も今度研究所に」
「ダメだ」
「まだなにも言ってないじゃん」
「連れて行けって言うんだろ。ダメだ」
「ケチ!」
ふと思いついたことを口にしようとするが、その前にユリスに拒絶されてしまう。気がおさまらなくて、もう一度「ケチユリス!」と叫んでおく。
ユリスは、なぜか俺のことを研究所に連れて行ってくれない。研究所とはいうが、現状では図書館のような様子になっているらしい。そもそも魔法についてはわかっていることが極端に少ない。手がかりは、綿毛ちゃんと例の魔導書くらい。だが、綿毛ちゃんは俺のものなので、ユリスには貸さない。ないとは思うが、綿毛ちゃんを研究所に連れて行ってうっかり解剖なんてされたら俺は立ち直れない。
ユリスの方も、あの魔導書を見せびらかしたくはないようで、自室に置いたまま保管している。綿毛ちゃんも、魔導書は公にしたくないようだ。そういう理由で、魔法研究は一向に進まないらしい。
だが、ユリスが俺に綿毛ちゃん寄越せという気配はない。ユリスならば、魔法研究のために綿毛ちゃんを犠牲にしようとしてもおかしくはないのに。というか昔のユリスだったら俺から綿毛ちゃんを無理矢理奪っていたに違いない。どう見ても性格が柔らかくなったユリスに、俺はこっそりと頬を緩めた。
「へー、よかったな」
ジェフリーから届いた手紙を広げて、ユリスにも見せてあげる。丁寧な文字で綴られたそれを何度も読み返して、ユリスに突きつける。
「真面目に見て!」
「見ただろ。わかったから。よかったな」
適当にあしらってくるユリスは、鬱陶しそうに己の前髪を横に撫でつけている。
ジェフリーの屋敷に遊びに行ってから数日後。早速届いた手紙に、俺はわくわくと心を躍らせる。ジェフリーと遊ぶのは楽しい。たとえ数日前に会ったばかりだとしても、また会いたい。
俺にとって、年下の遊び相手というのはジェフリーくらいだ。アロンにもらった例のペンで、いつでも遊びにきていいよと返事も出した。おそらくデニスと一緒に、近いうちに来てくれるに違いない。
『オレもジェフリーくんに会いたいな。ご挨拶しようと思う』
「犬は喋らないで!」
『いいじゃん。オレも小さいお子様見たい』
ふざけた主張をする綿毛ちゃんに、ユリスが「ジェフリーはそこまで小さくないだろ」と呆れ顔をしている。そうだな。小さい子を見たいのであれば、オーガス兄様の子供であるケイシーを見ればいいと思う。ケイシーはまだ小さいから。というか、綿毛ちゃんは前にもジェフリーのこと見ただろ。俺がジェフリーとキスしたとか、アロンに告げ口したの忘れてないからな。
ティアンが騎士団の訓練に参加している間、俺はユリスの部屋に居座ることが増えた。ユリスが魔法研究所に行っている時は自分の部屋に居るけど。
ユリスは、近頃なんだか暇そうにしている。魔法の研究が思ったように進まなくて、なんとなく研究所から足が遠のいているような感じだ。とはいえ、諦めたというわけでもなさそうだ。オーガス兄様の部屋に行っては、珍しい魔法の書物を寄越せと無茶振りしている。オーガス兄様が可哀想。
今日もティアンの戻りを待つ間に、ユリスの部屋でくつろいでいた。ちゃんと綿毛ちゃんも持参している。俺のお昼寝枕だ。
「ユリスも一緒に寝る? 綿毛ちゃん枕にすると面白いよ」
『オレは全然面白くないけどねぇ』
「……」
『あ、無視? ひどいよぉ』
へにゃっと情けない顔をする綿毛ちゃん。綿毛ちゃんは、出会った頃と比べて悲しい顔をするのが上手くなったと思う。すべては俺への抗議のためだ。なんて嫌な毛玉だ。
「綿毛ちゃんにはおやつあげないから!」
『酷すぎる。聞いた? ユリス坊ちゃん。君の弟くんがオレをいじめるよ』
「俺はユリスの弟じゃないから」
ちょっぴり片眉を持ち上げたユリスが、「弟だろ。まだそんなこと言っていたのか?」と怪訝な顔をする。
我儘な犬は放っておいて、猫と遊ぶことにする。持参したブラシで猫のお手入れをする。俺は今、猫の毛を集めてオーガス兄様にプレゼントしようと考えていた。オーガス兄様は、最近ユリスに変な絡み方をされて可哀想だから。ハッピーになれる物をあげようと思う。
せっせと猫の抜け毛を集める俺は、これまた持参した小さな箱に毛を詰めていく。
「捨てろよ、そんなもの」
理解のないユリスの言葉は気にしない。猫は可愛い。猫の毛も可愛い。それでいいだろ。
「綿毛ちゃんは、あんまり毛が抜けないよね」
『うん。そうだね』
まぁ綿毛ちゃんの抜け毛には興味ないから別にいいけど。
ジャンの手も借りて、猫の毛を集める。無言でユリスの部屋を片付けていたタイラーが「集めてどうするんですか」と眉を顰めている。
「ユリス。部屋散らかしたら自分で片付けないと」
タイラーが大変そうなので、ちょっと注意してみる。「はぁ?」と苛立ったユリスは、「なんで僕がそんなことを」と吐き捨てている。ユリスは、昔からこうだ。自分で動くのは最小限。あとはタイラーや使用人たちにすべて任せてしまう。まぁ、俺も似たようなものだけど、少なくともユリスよりは自分で色々やっている。
「今日は勉強しないのか?」
話を逸らすユリスに、俺は肩をすくめる。
勉強はちゃんとやっているからご心配なく。カル先生が来ない日でも、ちゃんとやっている。
「ねぇ! 俺も今度研究所に」
「ダメだ」
「まだなにも言ってないじゃん」
「連れて行けって言うんだろ。ダメだ」
「ケチ!」
ふと思いついたことを口にしようとするが、その前にユリスに拒絶されてしまう。気がおさまらなくて、もう一度「ケチユリス!」と叫んでおく。
ユリスは、なぜか俺のことを研究所に連れて行ってくれない。研究所とはいうが、現状では図書館のような様子になっているらしい。そもそも魔法についてはわかっていることが極端に少ない。手がかりは、綿毛ちゃんと例の魔導書くらい。だが、綿毛ちゃんは俺のものなので、ユリスには貸さない。ないとは思うが、綿毛ちゃんを研究所に連れて行ってうっかり解剖なんてされたら俺は立ち直れない。
ユリスの方も、あの魔導書を見せびらかしたくはないようで、自室に置いたまま保管している。綿毛ちゃんも、魔導書は公にしたくないようだ。そういう理由で、魔法研究は一向に進まないらしい。
だが、ユリスが俺に綿毛ちゃん寄越せという気配はない。ユリスならば、魔法研究のために綿毛ちゃんを犠牲にしようとしてもおかしくはないのに。というか昔のユリスだったら俺から綿毛ちゃんを無理矢理奪っていたに違いない。どう見ても性格が柔らかくなったユリスに、俺はこっそりと頬を緩めた。
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