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15歳
418 持ち運び
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俺はいいことを思いついた。綿毛ちゃんを馬に乗せる方法。ジャンに頼んで、大きめのリュックを持ってきてもらう。
俺の意図を知ってか知らずか。
呑気にわくわくしている綿毛ちゃんを素早く捕まえた。
『ん? なに?』
「ジャン! あけて」
ぼんやりしていたジャンを急かせば、彼は弾かれたようにリュックを手に取る。そうして口を大きく開けたリュックをチラッと見下ろして、綿毛ちゃんが『坊ちゃん。なんか変なこと考えてない?』とふるふるしている。
「だって綿毛ちゃんを馬に乗せられるかわかんない。俺が背負えばいいと思う」
『よくないよぉ?』
ジタバタする綿毛ちゃんを、頑張ってリュックに詰める。むぎゅっと頭を押し込めば、綿毛ちゃんが『助けてぇ! ティアンさん助けてぇ!』と悲痛な声をあげる。呼ばれたティアンが、横から手を伸ばしてくる。
「可哀想ですよ。なんでリュックに詰める必要があるんですか」
「持ち運びが楽」
「持ち運ばない。綿毛ちゃんが可哀想です」
じゃあどうしろって言うんだ。
我儘な綿毛ちゃんとティアンに、俺は立ち尽くす。これ以外に方法なんてない。
ちらっとジャンに視線を送って助けを求めるが、ジャンは唇を引き結んで事の成り行きを見守っていた。
※※※
「お出かけしてくる」
「僕は行かない」
「ユリスのことは誘ってないし」
「はぁ? 誘えよ」
「行かないんでしょ?」
「行かない」
我儘かよ。
アロンとの待ち合わせ場所である玄関に向かう途中。ユリスの部屋に寄って声をかければ、「好きにしろ」となんとも偉そうなお見送りをされた。
気が向いたらお土産買ってきてあげると約束して、今度こそ玄関に向かう。玄関先には、すでに軽装のアロンとブルース兄様がいた。
「ブルース兄様も行くの?」
「いや」
俺は行かないと腕を組む兄様は、お見送りに来たらしい。兄様は、こういうところが優しい。俺が出かける時、必ずといっていいほどお見送りしてくれる。
気をつけて行ってこいと俺の頭を軽く叩いた兄様は、その視線を俺の背中に注いでいる。反射的に、リュックの肩ひもをぎゅっと握りしめた。
「その大荷物はなんだ」
「綿毛ちゃん」
「あ?」
ガラの悪いブルース兄様は、「なんだって?」と聞き返してくる。
「だから、綿毛ちゃん」
『……助けてぇ』
すんごく小声で助けを求める綿毛ちゃんに、兄様がひくりと頬を引き攣らせた。俺のリュックに手を伸ばしてくる兄様は、怖い顔。逃げまわろうとするが、兄様のほうが早かった。あっさり捕まった俺から、兄様はリュックを奪い取ろうとしてくる。
「やめて!」
「おまえがやめろ。なんで犬をそんなところに入れる」
「綿毛ちゃんが入りたいって言ったの」
『言ってないぃ。助けてぇ』
ブルース兄様とリュックの奪い合い。
アロンが「これいつまで続きます?」とつまらない顔をしている。ティアンがどうにか止めようと珍しくオロオロしている。
「馬鹿」
最終的に、シンプルな罵倒をぶつけてきたブルース兄様は、無理矢理リュックを奪い取っていった。力では兄様にかなわない。すごく悔しい。返してと騒ぐが、兄様はリュックをあけて綿毛ちゃんを出してしまう。
『助かったよぉ。ありがとね、ブルースくん』
へにゃっと笑う犬を叩いてやろうと右手をあげる。ひぇっと情けない声をもらす犬。俺の右手を掴んでくるブルース兄様。
「すぐに手を出すんじゃない」
「綿毛ちゃんが我儘言うから。あとブルース兄様が俺の邪魔する!」
「もっとまともなことをやれ。他に方法なんていくらでもあるだろ」
それがないからリュックに詰めたのだ。
しかし、ブルース兄様は納得しない。
「普通に馬に乗せてやればいいだろ」
「綿毛ちゃんは乗馬できない」
「犬なんだから。普通におまえの馬に乗せてやれ」
「えー」
犬を乗せたことなんてない。
だが、ブルース兄様がうるさい。ここは俺が折れるしかないのか。
考えていると、ティアンが控えめに口を挟んでくる。
「僕の馬に乗せますよ」
「できるの?」
「それくらいなら」
ルイス様よりも乗馬は得意ですと、余計な自慢を挟んでくるティアンに、俺は綿毛ちゃんをお任せすることにする。俺だと、ついうっかりで綿毛ちゃんを落としてしまいそうなので。『ありがとう』としきりにティアンに頭を下げる綿毛ちゃんは、なんだか安堵しているようだった。そんなに俺と馬に乗るのが嫌なのか?
「もういいですか? 時間が」
苛立ったように急かしてくるアロンは、まだティアンが同行することに納得がいかないらしい。ブルース兄様が「なんでそんなに不機嫌なんだ」と、アロンを睨みつけている。
暗くなる前に帰ってこいと念押ししてくるブルース兄様に、ばいばいと手を振る。
「お土産買ってくるね」
「俺のことは気にしなくていい」
楽しんでこいと小さく笑う兄様は、ティアンに「ルイスのこと頼んだぞ」とお願いしている。
「なんで俺には頼まないんですか?」
「おまえに頼むとろくなことにならないだろ」
「どういう意味ですか」
「言葉通りの意味だ」
突然言い争いを始める兄様とアロン。出発しないのか?
俺の意図を知ってか知らずか。
呑気にわくわくしている綿毛ちゃんを素早く捕まえた。
『ん? なに?』
「ジャン! あけて」
ぼんやりしていたジャンを急かせば、彼は弾かれたようにリュックを手に取る。そうして口を大きく開けたリュックをチラッと見下ろして、綿毛ちゃんが『坊ちゃん。なんか変なこと考えてない?』とふるふるしている。
「だって綿毛ちゃんを馬に乗せられるかわかんない。俺が背負えばいいと思う」
『よくないよぉ?』
ジタバタする綿毛ちゃんを、頑張ってリュックに詰める。むぎゅっと頭を押し込めば、綿毛ちゃんが『助けてぇ! ティアンさん助けてぇ!』と悲痛な声をあげる。呼ばれたティアンが、横から手を伸ばしてくる。
「可哀想ですよ。なんでリュックに詰める必要があるんですか」
「持ち運びが楽」
「持ち運ばない。綿毛ちゃんが可哀想です」
じゃあどうしろって言うんだ。
我儘な綿毛ちゃんとティアンに、俺は立ち尽くす。これ以外に方法なんてない。
ちらっとジャンに視線を送って助けを求めるが、ジャンは唇を引き結んで事の成り行きを見守っていた。
※※※
「お出かけしてくる」
「僕は行かない」
「ユリスのことは誘ってないし」
「はぁ? 誘えよ」
「行かないんでしょ?」
「行かない」
我儘かよ。
アロンとの待ち合わせ場所である玄関に向かう途中。ユリスの部屋に寄って声をかければ、「好きにしろ」となんとも偉そうなお見送りをされた。
気が向いたらお土産買ってきてあげると約束して、今度こそ玄関に向かう。玄関先には、すでに軽装のアロンとブルース兄様がいた。
「ブルース兄様も行くの?」
「いや」
俺は行かないと腕を組む兄様は、お見送りに来たらしい。兄様は、こういうところが優しい。俺が出かける時、必ずといっていいほどお見送りしてくれる。
気をつけて行ってこいと俺の頭を軽く叩いた兄様は、その視線を俺の背中に注いでいる。反射的に、リュックの肩ひもをぎゅっと握りしめた。
「その大荷物はなんだ」
「綿毛ちゃん」
「あ?」
ガラの悪いブルース兄様は、「なんだって?」と聞き返してくる。
「だから、綿毛ちゃん」
『……助けてぇ』
すんごく小声で助けを求める綿毛ちゃんに、兄様がひくりと頬を引き攣らせた。俺のリュックに手を伸ばしてくる兄様は、怖い顔。逃げまわろうとするが、兄様のほうが早かった。あっさり捕まった俺から、兄様はリュックを奪い取ろうとしてくる。
「やめて!」
「おまえがやめろ。なんで犬をそんなところに入れる」
「綿毛ちゃんが入りたいって言ったの」
『言ってないぃ。助けてぇ』
ブルース兄様とリュックの奪い合い。
アロンが「これいつまで続きます?」とつまらない顔をしている。ティアンがどうにか止めようと珍しくオロオロしている。
「馬鹿」
最終的に、シンプルな罵倒をぶつけてきたブルース兄様は、無理矢理リュックを奪い取っていった。力では兄様にかなわない。すごく悔しい。返してと騒ぐが、兄様はリュックをあけて綿毛ちゃんを出してしまう。
『助かったよぉ。ありがとね、ブルースくん』
へにゃっと笑う犬を叩いてやろうと右手をあげる。ひぇっと情けない声をもらす犬。俺の右手を掴んでくるブルース兄様。
「すぐに手を出すんじゃない」
「綿毛ちゃんが我儘言うから。あとブルース兄様が俺の邪魔する!」
「もっとまともなことをやれ。他に方法なんていくらでもあるだろ」
それがないからリュックに詰めたのだ。
しかし、ブルース兄様は納得しない。
「普通に馬に乗せてやればいいだろ」
「綿毛ちゃんは乗馬できない」
「犬なんだから。普通におまえの馬に乗せてやれ」
「えー」
犬を乗せたことなんてない。
だが、ブルース兄様がうるさい。ここは俺が折れるしかないのか。
考えていると、ティアンが控えめに口を挟んでくる。
「僕の馬に乗せますよ」
「できるの?」
「それくらいなら」
ルイス様よりも乗馬は得意ですと、余計な自慢を挟んでくるティアンに、俺は綿毛ちゃんをお任せすることにする。俺だと、ついうっかりで綿毛ちゃんを落としてしまいそうなので。『ありがとう』としきりにティアンに頭を下げる綿毛ちゃんは、なんだか安堵しているようだった。そんなに俺と馬に乗るのが嫌なのか?
「もういいですか? 時間が」
苛立ったように急かしてくるアロンは、まだティアンが同行することに納得がいかないらしい。ブルース兄様が「なんでそんなに不機嫌なんだ」と、アロンを睨みつけている。
暗くなる前に帰ってこいと念押ししてくるブルース兄様に、ばいばいと手を振る。
「お土産買ってくるね」
「俺のことは気にしなくていい」
楽しんでこいと小さく笑う兄様は、ティアンに「ルイスのこと頼んだぞ」とお願いしている。
「なんで俺には頼まないんですか?」
「おまえに頼むとろくなことにならないだろ」
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