上 下
446 / 577
15歳

418 持ち運び

しおりを挟む
 俺はいいことを思いついた。綿毛ちゃんを馬に乗せる方法。ジャンに頼んで、大きめのリュックを持ってきてもらう。

 俺の意図を知ってか知らずか。
 呑気にわくわくしている綿毛ちゃんを素早く捕まえた。

『ん? なに?』
「ジャン! あけて」

 ぼんやりしていたジャンを急かせば、彼は弾かれたようにリュックを手に取る。そうして口を大きく開けたリュックをチラッと見下ろして、綿毛ちゃんが『坊ちゃん。なんか変なこと考えてない?』とふるふるしている。

「だって綿毛ちゃんを馬に乗せられるかわかんない。俺が背負えばいいと思う」
『よくないよぉ?』

 ジタバタする綿毛ちゃんを、頑張ってリュックに詰める。むぎゅっと頭を押し込めば、綿毛ちゃんが『助けてぇ! ティアンさん助けてぇ!』と悲痛な声をあげる。呼ばれたティアンが、横から手を伸ばしてくる。

「可哀想ですよ。なんでリュックに詰める必要があるんですか」
「持ち運びが楽」
「持ち運ばない。綿毛ちゃんが可哀想です」

 じゃあどうしろって言うんだ。
 我儘な綿毛ちゃんとティアンに、俺は立ち尽くす。これ以外に方法なんてない。

 ちらっとジャンに視線を送って助けを求めるが、ジャンは唇を引き結んで事の成り行きを見守っていた。


※※※


「お出かけしてくる」
「僕は行かない」
「ユリスのことは誘ってないし」
「はぁ? 誘えよ」
「行かないんでしょ?」
「行かない」

 我儘かよ。
 アロンとの待ち合わせ場所である玄関に向かう途中。ユリスの部屋に寄って声をかければ、「好きにしろ」となんとも偉そうなお見送りをされた。

 気が向いたらお土産買ってきてあげると約束して、今度こそ玄関に向かう。玄関先には、すでに軽装のアロンとブルース兄様がいた。

「ブルース兄様も行くの?」
「いや」

 俺は行かないと腕を組む兄様は、お見送りに来たらしい。兄様は、こういうところが優しい。俺が出かける時、必ずといっていいほどお見送りしてくれる。

 気をつけて行ってこいと俺の頭を軽く叩いた兄様は、その視線を俺の背中に注いでいる。反射的に、リュックの肩ひもをぎゅっと握りしめた。

「その大荷物はなんだ」
「綿毛ちゃん」
「あ?」

 ガラの悪いブルース兄様は、「なんだって?」と聞き返してくる。

「だから、綿毛ちゃん」
『……助けてぇ』

 すんごく小声で助けを求める綿毛ちゃんに、兄様がひくりと頬を引き攣らせた。俺のリュックに手を伸ばしてくる兄様は、怖い顔。逃げまわろうとするが、兄様のほうが早かった。あっさり捕まった俺から、兄様はリュックを奪い取ろうとしてくる。

「やめて!」
「おまえがやめろ。なんで犬をそんなところに入れる」
「綿毛ちゃんが入りたいって言ったの」
『言ってないぃ。助けてぇ』

 ブルース兄様とリュックの奪い合い。
 アロンが「これいつまで続きます?」とつまらない顔をしている。ティアンがどうにか止めようと珍しくオロオロしている。

「馬鹿」

 最終的に、シンプルな罵倒をぶつけてきたブルース兄様は、無理矢理リュックを奪い取っていった。力では兄様にかなわない。すごく悔しい。返してと騒ぐが、兄様はリュックをあけて綿毛ちゃんを出してしまう。

『助かったよぉ。ありがとね、ブルースくん』

 へにゃっと笑う犬を叩いてやろうと右手をあげる。ひぇっと情けない声をもらす犬。俺の右手を掴んでくるブルース兄様。

「すぐに手を出すんじゃない」
「綿毛ちゃんが我儘言うから。あとブルース兄様が俺の邪魔する!」
「もっとまともなことをやれ。他に方法なんていくらでもあるだろ」

 それがないからリュックに詰めたのだ。
 しかし、ブルース兄様は納得しない。

「普通に馬に乗せてやればいいだろ」
「綿毛ちゃんは乗馬できない」
「犬なんだから。普通におまえの馬に乗せてやれ」
「えー」

 犬を乗せたことなんてない。
 だが、ブルース兄様がうるさい。ここは俺が折れるしかないのか。

 考えていると、ティアンが控えめに口を挟んでくる。

「僕の馬に乗せますよ」
「できるの?」
「それくらいなら」

 ルイス様よりも乗馬は得意ですと、余計な自慢を挟んでくるティアンに、俺は綿毛ちゃんをお任せすることにする。俺だと、ついうっかりで綿毛ちゃんを落としてしまいそうなので。『ありがとう』としきりにティアンに頭を下げる綿毛ちゃんは、なんだか安堵しているようだった。そんなに俺と馬に乗るのが嫌なのか?

「もういいですか? 時間が」

 苛立ったように急かしてくるアロンは、まだティアンが同行することに納得がいかないらしい。ブルース兄様が「なんでそんなに不機嫌なんだ」と、アロンを睨みつけている。

 暗くなる前に帰ってこいと念押ししてくるブルース兄様に、ばいばいと手を振る。

「お土産買ってくるね」
「俺のことは気にしなくていい」

 楽しんでこいと小さく笑う兄様は、ティアンに「ルイスのこと頼んだぞ」とお願いしている。

「なんで俺には頼まないんですか?」
「おまえに頼むとろくなことにならないだろ」
「どういう意味ですか」
「言葉通りの意味だ」

 突然言い争いを始める兄様とアロン。出発しないのか?
しおりを挟む
感想 415

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

処理中です...