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15歳
417 ふたりがいい
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「俺、今から街に行くんですけど。ルイス様も一緒に行きますか?」
「行く!」
この日、朝からアロンが俺の部屋にやってきた。俺の髪を整えるティアンを見るなり眉を寄せたアロンは、大股でティアンに寄るとその肩を軽く小突いている。「痛っ。なんですか」とティアンが文句を言えば、「なんでもないけど」としらを切る。相変わらず、やることがクソである。
「街へなにをしに?」
肩を払いながら顔を顰めるティアンの問いかけに、アロンは「なんでもいいでしょ」と素っ気ない。そこで俺が「なにしに行くの?」と同じ質問を被せれば、アロンはにこりと笑って「ちょっと買い物に」と答えてくる。態度の差が露骨だ。さすがアロン。
『オレも行くぅ! お出かけ行きたぁい』
今まで寝ていたはずの綿毛ちゃんが、急に起き上がって俺の足元をうろうろし始める。二度寝していたくせに、すっかり目が覚めたらしい。
「綿毛ちゃんも一緒でいい?」
「その犬、角あるじゃないですか」
誰かに見られたらどうするんですか、と渋るアロン。どうやら綿毛ちゃんを同行させたくないらしい。しかし、それで引き下がる毛玉ではない。『人間に化けるから大丈夫』という呑気な声が返ってきて、アロンとティアンが驚いている。
綿毛ちゃん、普段は人間にはなりたくないと我儘言っているのに。どんだけ街にお出かけしたいのか。必死な毛玉に、俺の方もなんだか同情してしまう。
「綿毛ちゃんも連れて行く」
いいでしょ? とアロンを見上げれば、短い舌打ちが降ってきた。ガラ悪。
「大人しくしといてね」
けれども結局は同行を許可してくれる。人間になれるといっても所詮は毛玉だから。あまり綿毛ちゃんに興味がないのだろう。『わーい。やったぁ』と毛玉がはしゃいでいる。
「ジャンとティアンも行こうね」
ふたりの顔を交互に見れば、ティアンが「もちろんです」と即答する。その後ろで、ジャンは青い顔。「いえ、私は」と遠慮する素振りをみせるジャンは、アロンの眼光の鋭さにビビっているらしい。
「ルイス様のことは俺がちゃんと見ておくから。君は安心して俺に任せてくれればいいよ」
「えっと、その」
視線を彷徨わせるジャンに詰め寄るアロン。なんだかすごく大人気ない。ジャンが可哀想。「やめなよ」とアロンに注意すれば、彼は不満そうに眉間に皺を寄せる。
「俺はルイス様とふたりで出かけたいんですけど。なんで余計なのがぞろぞろと」
主にティアンに向けて発せられた毒のある言葉に、当のティアンは素知らぬ顔で肩をすくめている。今日もふたりはバチバチだ。
アロンは、成長して帰ってきたティアンのことが気に入らないらしい。ティアンもティアンで、アロンのことを毛嫌いしている。相性は最悪だ。
しかし俺はみんなでお出かけしたい。そっちの方が楽しそう。
「ティアンとジャンも行くよね?」
改めて確認すれば、アロンが「行きませんよ」と勝手に返事をしてくる。そのまま腕を組んで不機嫌オーラ全開になるアロンは、すごく大人気ない。
結局、アロンの我儘に押し切られる形で、ジャンが留守番すると言い出した。『オレは行くけどね』と、強気の綿毛ちゃんは鼻息荒く飛び跳ねている。
「じゃあティアンとジャンは留守番ってことで」
これで話は終わりと手を叩くアロンに、今度はティアンがムスッとする。
「僕も同行します。あなた、どうせルイス様から目を離すじゃないですか」
「離さないけど?」
「いいえ。絶対にルイス様のことを置いてさっさと行っちゃうに決まっています」
「はぁ? なにこのクソ生意気なガキ。先輩の言うことが聞けないのかよ」
「ルイス様の護衛騎士は僕なので! あなたではなく」
勝ち誇ったように胸を張るティアンに、アロンが苦い顔で唇を噛み締めている。どうやら勝負がついたらしい。お出かけの準備を始めるティアンは、上機嫌だ。
「じゃあ玄関前で待ち合わせってことで」
そう吐き捨てて踵を返すアロンは、苛々とした足取りで部屋を出て行く。その背中を見送って、俺はふと綿毛ちゃんを見下ろした。
「綿毛ちゃんって、馬乗れるの?」
アロンの口振りからして、今回はちょっとしたお出かけである。俺も馬に乗れるようになった今、おそらく馬車は使わないと思う。
へらっと笑った毛玉は『乗れません』と白状した。だろうな。綿毛ちゃんは犬である。乗馬の練習なんて、やったことがないに違いない。
「綿毛ちゃんだけ歩いてくる?」
『ひどくない? オレものせてよぉ』
お願いと笑う綿毛ちゃんを前にして、俺は考える。街までは一本道。人とすれ違うことは滅多にないだろう。たとえすれ違ったとしても、一瞬だろう。綿毛ちゃんの小さい角は見えないだろう。
「じゃあ、綿毛ちゃんは俺の馬に乗っていいよ。それで、街が近付いたら人間になればいいよ」
『はーい』
元気にお返事する綿毛ちゃん。しかし、この犬を乗せながら馬に乗れるかな、俺。俺はいいけど、馬のほうが綿毛ちゃんにびっくりしたりしないかな。
色々考えるが、結論はでない。まぁいいや。どうにかなるだろう。
「行く!」
この日、朝からアロンが俺の部屋にやってきた。俺の髪を整えるティアンを見るなり眉を寄せたアロンは、大股でティアンに寄るとその肩を軽く小突いている。「痛っ。なんですか」とティアンが文句を言えば、「なんでもないけど」としらを切る。相変わらず、やることがクソである。
「街へなにをしに?」
肩を払いながら顔を顰めるティアンの問いかけに、アロンは「なんでもいいでしょ」と素っ気ない。そこで俺が「なにしに行くの?」と同じ質問を被せれば、アロンはにこりと笑って「ちょっと買い物に」と答えてくる。態度の差が露骨だ。さすがアロン。
『オレも行くぅ! お出かけ行きたぁい』
今まで寝ていたはずの綿毛ちゃんが、急に起き上がって俺の足元をうろうろし始める。二度寝していたくせに、すっかり目が覚めたらしい。
「綿毛ちゃんも一緒でいい?」
「その犬、角あるじゃないですか」
誰かに見られたらどうするんですか、と渋るアロン。どうやら綿毛ちゃんを同行させたくないらしい。しかし、それで引き下がる毛玉ではない。『人間に化けるから大丈夫』という呑気な声が返ってきて、アロンとティアンが驚いている。
綿毛ちゃん、普段は人間にはなりたくないと我儘言っているのに。どんだけ街にお出かけしたいのか。必死な毛玉に、俺の方もなんだか同情してしまう。
「綿毛ちゃんも連れて行く」
いいでしょ? とアロンを見上げれば、短い舌打ちが降ってきた。ガラ悪。
「大人しくしといてね」
けれども結局は同行を許可してくれる。人間になれるといっても所詮は毛玉だから。あまり綿毛ちゃんに興味がないのだろう。『わーい。やったぁ』と毛玉がはしゃいでいる。
「ジャンとティアンも行こうね」
ふたりの顔を交互に見れば、ティアンが「もちろんです」と即答する。その後ろで、ジャンは青い顔。「いえ、私は」と遠慮する素振りをみせるジャンは、アロンの眼光の鋭さにビビっているらしい。
「ルイス様のことは俺がちゃんと見ておくから。君は安心して俺に任せてくれればいいよ」
「えっと、その」
視線を彷徨わせるジャンに詰め寄るアロン。なんだかすごく大人気ない。ジャンが可哀想。「やめなよ」とアロンに注意すれば、彼は不満そうに眉間に皺を寄せる。
「俺はルイス様とふたりで出かけたいんですけど。なんで余計なのがぞろぞろと」
主にティアンに向けて発せられた毒のある言葉に、当のティアンは素知らぬ顔で肩をすくめている。今日もふたりはバチバチだ。
アロンは、成長して帰ってきたティアンのことが気に入らないらしい。ティアンもティアンで、アロンのことを毛嫌いしている。相性は最悪だ。
しかし俺はみんなでお出かけしたい。そっちの方が楽しそう。
「ティアンとジャンも行くよね?」
改めて確認すれば、アロンが「行きませんよ」と勝手に返事をしてくる。そのまま腕を組んで不機嫌オーラ全開になるアロンは、すごく大人気ない。
結局、アロンの我儘に押し切られる形で、ジャンが留守番すると言い出した。『オレは行くけどね』と、強気の綿毛ちゃんは鼻息荒く飛び跳ねている。
「じゃあティアンとジャンは留守番ってことで」
これで話は終わりと手を叩くアロンに、今度はティアンがムスッとする。
「僕も同行します。あなた、どうせルイス様から目を離すじゃないですか」
「離さないけど?」
「いいえ。絶対にルイス様のことを置いてさっさと行っちゃうに決まっています」
「はぁ? なにこのクソ生意気なガキ。先輩の言うことが聞けないのかよ」
「ルイス様の護衛騎士は僕なので! あなたではなく」
勝ち誇ったように胸を張るティアンに、アロンが苦い顔で唇を噛み締めている。どうやら勝負がついたらしい。お出かけの準備を始めるティアンは、上機嫌だ。
「じゃあ玄関前で待ち合わせってことで」
そう吐き捨てて踵を返すアロンは、苛々とした足取りで部屋を出て行く。その背中を見送って、俺はふと綿毛ちゃんを見下ろした。
「綿毛ちゃんって、馬乗れるの?」
アロンの口振りからして、今回はちょっとしたお出かけである。俺も馬に乗れるようになった今、おそらく馬車は使わないと思う。
へらっと笑った毛玉は『乗れません』と白状した。だろうな。綿毛ちゃんは犬である。乗馬の練習なんて、やったことがないに違いない。
「綿毛ちゃんだけ歩いてくる?」
『ひどくない? オレものせてよぉ』
お願いと笑う綿毛ちゃんを前にして、俺は考える。街までは一本道。人とすれ違うことは滅多にないだろう。たとえすれ違ったとしても、一瞬だろう。綿毛ちゃんの小さい角は見えないだろう。
「じゃあ、綿毛ちゃんは俺の馬に乗っていいよ。それで、街が近付いたら人間になればいいよ」
『はーい』
元気にお返事する綿毛ちゃん。しかし、この犬を乗せながら馬に乗れるかな、俺。俺はいいけど、馬のほうが綿毛ちゃんにびっくりしたりしないかな。
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