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15歳

408 仲良く

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「特別に猫の肉球触らせてあげる」

 部屋の中を走り回っていた白猫エリスちゃんを捕まえて、前足をティアンに差し出す。「え? あ、はい。どうも」と困惑を含んだ声で応じるティアンは、遠慮なく触り始める。

「綿毛ちゃんにも肉球あるんだよ」
「へー。あの犬にも」
「犬じゃなくて綿毛ちゃん」

 ティアンは、我が物顔で俺の部屋に居座っている。レナルドは、めっきり姿を見せなくなった。だが、ティアン相手だとジャンもそんなに緊張しないらしく、穏やかな雰囲気だ。

 なんというか、平和である。

 ティアンは、見た目こそ大きく変わったが、中身は結構そのままだった。俺と一緒に遊んでくれるところも変わらない。

 警戒もすっかり忘れて、俺は以前のようにティアンと接し始めた。

「ほら。綿毛ちゃんの肉球見て」
『見る? 見てもいいよぉ。触ってもいいよぉ』

 ほら、と前足をあげる綿毛ちゃんは、ひとりでへらへら笑っている。なにがそんなに面白いのだろうか。「笑うな!」と言ってみれば、『すごく理不尽だね』と不満そうな声が返ってきた。

「綿毛ちゃんとも仲良くしてね。俺のペットだから」
『ペットになった覚えはないんだけど』

 床にしゃがんで、綿毛ちゃんの頭を掴む。毛を掻き分けて、角を見せてあげた。

「今ね、ユリスがこの角抜く方法考えてるんだよ」
『それはなんでなの?』
「よかったな! 綿毛ちゃん」
『なにもよくないよ?』

 ティアンは、あまり綿毛ちゃんと会話しない。俺は、それがすごく不満。毛玉とも仲良くしてほしい。

「ティアン」
「なんですか」
「綿毛ちゃんとも仲良くして」
「はぁ」

 曖昧に濁すティアンは、それきり口を閉ざして綿毛ちゃんとお喋りしようとしない。

 仲良くしろ、と綿毛ちゃんの尻尾を掴んでみるが『オレに言われてもぉ』と耳がぺたんとなる。

「綿毛ちゃんのこと嫌いなの?」
『坊ちゃんってさ。なんか全部オレのせいにしようとするよね』

 それは綿毛ちゃんがお喋りする変な生き物だから仕方ないだろ。

 ティアンを見上げれば、彼は「嫌いというか」と気まずそうに頬を掻く。

「喋る犬とか初めて見たので」
『だよねぇ。なんかごめんね』

 へらへらと謝罪する綿毛ちゃんは、多分あまり悪いとは思っていないのだろう。場の空気を読んで、適当に謝っている感がすごい。

「でも綿毛ちゃんすごいんだよ。お手もできる」
『オレのこと馬鹿にしすぎじゃない? それくらい普通にできるもん』

 ふんふんと鼻を鳴らす綿毛ちゃんは、ひとりで前足を上下に動かしてお手を再現している。いつ見ても忙しそうな犬だな。

「人間にもなれるしね。すごい犬なんだよ」
「はぁ、そうですか」

 あまり興味がなさそうに流したティアンは、綿毛ちゃんを一瞥して、肩をすくめてしまう。

 話に区切りがついたので、ティアンから顔を背けて猫と遊ぶ。ボールを投げると、エリスちゃんは勢いよく走っていく。

 そうしてひたすら猫と遊んでいれば、突然ティアンが「え。今なんて言いました?」と間の抜けた声を発した。

「なにが?」
「人間になれるって言いました?」
「うん」
「はぁ!?」

 大声で騒ぐティアンに、猫が少しびっくりしている。目を見開くティアンは、綿毛ちゃんから露骨に距離をとる。というか、なんでそんなに反応が遅れるんだよ。

「え、これが? 人間になるんですか!?」
「うん。綿毛ちゃんはすごい生き物だから」

 人間になってみろ! と綿毛ちゃんに詰め寄れば、毛玉が『いやだよぉ』と震え始める。我儘言うんじゃない。

 顔色を悪くするティアンは、ガバリとジャンを振り返った。それを受けて、ジャンは控えめに微笑んでいる。その余裕のある態度に、ティアンは面食らったらしい。「ルイス様の言っていること、本当ですか?」と、ジャンに確認し始めた。なんで俺の言葉を疑うのか。失礼だと思う。

「綿毛ちゃん。人間になったら髪の毛長くてかっこいいんだよ」
「は?」

 銀髪でかっこいいと教えてあげるが、ティアンはなぜか面白くなさそうな顔をする。

 綿毛ちゃんに人間姿見せてあげてとお願いするが、『嫌でーす』という素っ気ない態度を取られてしまう。愛想の悪い犬だな。

 頭を掴んで揺らしてみるが『やめてぇ』と言うだけで人間になってくれない。そのうちティアンが「可哀想ですよ」と止めに入ってくるので、仕方がなく手を離す。

「じゃあ今度見せてあげるね。綿毛ちゃんがケチだから」
『ケチじゃないもん』

 ふいっとそっぽを向く綿毛ちゃんは、不満そうに前足をだんだん鳴らしている。うるさい犬だな。

「……本当に犬なんですか?」
『だから犬じゃないってぇ。オレは魔法で生み出された不思議な生き物なのです』
「不思議生き物! 不思議生き物!」
『坊ちゃん。その呼び方やめて?』

 不思議生き物を捕まえて、頭上に掲げる。『やめてぇ?』との弱々しい言葉を無視して、ティアンを追いかける。「え。ちょっと、なんですか」と狼狽えるティアンは、不思議生き物のことが怖いらしい。

「綿毛ちゃんは弱いから。ビビらなくても大丈夫。いつも猫に負けてるから」
『そうだよ。危険な生き物じゃないからさ。仲良くしようよぉ』

 はぁ、と。煮え切らない返事をよこすティアンは、渋々といった感じで綿毛ちゃんの頭を撫で始めた。
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