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15歳
407 自己満足(sideアロン)
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「これ以上、身長は伸ばさないで」
「そんなこと言われましても。自分じゃどうにもできませんよ」
ティアンが帰ってきたのが数日前のこと。
なんだか成長している彼は、以前の細っこい少年とは似ても似つかない姿であった。なんというか、ひと言でいえばクレイグ団長そっくりになった。
全然似ていない親子だなと思っていたのだが、実は結構似ていたらしい。
方々への挨拶を済ませて、はやくもヴィアン家に馴染みつつあるこの優男くんを放置しておくわけにはいかない。
ひとりで暇そうにしていたティアンを捕まえて、とりあえず自室に連れ込んでみた。「なんでこんなに散らかってるんですか?」と、相変わらず遠慮のない物言いをしてくるティアンは、特に警戒することもなく勧められてもいないソファーを占領してしまう。
「いつまで独身を貫くつもりで? 妹さん、ブルース様とご結婚したらしいじゃないですか」
「うるさ」
思わず飛び出た暴言に、ティアンは軽く肩をすくめる。
「なんでそんなに成長したの」
「なんでと言われても」
子供ってこんなに成長するのか。
今や立派な騎士に成長したティアンは、望み通りルイス様の護衛を担当している。この流れは、俺にとって非常によろしくない。
しかし、ルイス様の一番近くを手に入れたはずのティアンも、ここ最近ずっと浮かない顔である。原因は、なんとなく予想はつく。
ようやくルイス様に会えると足取り軽くヴィアン家に戻ってきたティアン。しかし、そんな彼を待っていたのは「こんなのティアンじゃない」と言い張るルイス様。
なんというか、まぁ。
「こうなる気はしてたよね」
「なんですって?」
「ルイス様。前々から周囲の変化を嫌っていたでしょ。いきなり成長したティアンを見たら、きっとややこしいことになるだろうなとは思ってた」
こうならないように、ちょいちょい顔を合わせておけばよかったのだ。卒業までの四年間。一切会わないという謎のルールを実行したばかりに、思った通りにややこしい事態になっている。
ひとりで空回りをしているティアンがなんだか面白くて、笑いをかみ殺す。だが、誤魔化しきれなかったらしく、半眼のティアンが俺を睨んでくる。
だが、ルイス様の気持ちもわからなくはない。ティアンはすごく成長した。頑張ったのだろうけど、その頑張りのせいでルイス様は戸惑っている。
「ルイス様の中では、ティアンは十三歳の少年のままなんだよ。それが突然十七歳の青年になったものだから。別人に思えちゃうんだろうね」
「……」
ティアン本人もそう考えているのか。言い返してこない彼は、苛立ったように前髪を掻き上げている。
「それで? あなたはルイス様のこと諦めたんですか?」
「なんで?」
俺が諦める理由がどこにある。
ルイス様はまだフリーだ。そして唐突に思い出した。
「あ。そういや君がいない間にさ。ルイス様がロニーに好きって告白してたよ」
「はぁ!?」
大声を出すティアンに、なんだか口元が緩んでしまう。動揺をあらわにするティアンは、見ていて面白い。
「なんでそんなことになるんですか!」
「俺に言われても。やっぱ長髪かな。君もせっかく四年あったんだから。伸ばせばよかったのに」
「嫌ですよ」
髪型が理由で好かれても、良い気分にはなりませんと吐き捨てるティアンは、けれども無意識のうちに髪を触っている。
「それ。副団長はなんて?」
「きっぱり断ったみたいだよ。ロニーはなぁ。あいつなに考えてんのかわかんないんだよな」
いまだに、ルイス様をどう思っているのか不明。ルイス様の告白を断った際も、身分の差を持ち出していい感じに断ったらしいと小耳に挟んだ。
あそこではっきりとルイス様のことが好きじゃないと言わないあたり、実にロニーらしい。ロニーは無闇矢鱈と敵を作ったりはしない。己がルイス様のことをどう思っているのかは明確にせず、身分差というもっともらしい理由できっぱり話を終わらせたロニーは、かなりの策士だと思う。
しれっと副団長の座をゲットしてしまうし。まったく油断ならない男である。
「まぁ、ロニーのことはどうでもいいんだよ。君はまずあれだね。ルイス様が昔みたいに仲良くしてくれるといいね」
「その余裕、腹が立ちますね」
「まぁね。知らない人扱いされている君よりは、俺の方が断然マシだし」
「言いますね」
ちょっと挑発的な物言いをしてみれば、ティアンは簡単に機嫌を悪くする。うんうん。こういう子供っぽい一面を見ると無性に安堵する。
外見は大きく変わったが、中身はまだ子供らしい。昔よりは大人っぽくなったが、ロニーなんかと比べるとまだまだだ。
「とりあえずさ。君はまずレナルドに勝てるよう頑張りなよ」
「うるさいですよ。あなたには言われたくないです」
連日、護衛はレナルドがいい。レナルドに戻してと主張するルイス様。ティアンは、それを聞くたびになんとも言えない顔をしている。
ルイス様からすれば、見慣れない姿のティアンよりも、これまで一緒にいたレナルドの方が落ち着くのだろう。
しかし、時間が経つにつれて、この姿のティアンにも慣れてくると思われる。俺もあまり呑気に構えてはいられないな。
「そんなこと言われましても。自分じゃどうにもできませんよ」
ティアンが帰ってきたのが数日前のこと。
なんだか成長している彼は、以前の細っこい少年とは似ても似つかない姿であった。なんというか、ひと言でいえばクレイグ団長そっくりになった。
全然似ていない親子だなと思っていたのだが、実は結構似ていたらしい。
方々への挨拶を済ませて、はやくもヴィアン家に馴染みつつあるこの優男くんを放置しておくわけにはいかない。
ひとりで暇そうにしていたティアンを捕まえて、とりあえず自室に連れ込んでみた。「なんでこんなに散らかってるんですか?」と、相変わらず遠慮のない物言いをしてくるティアンは、特に警戒することもなく勧められてもいないソファーを占領してしまう。
「いつまで独身を貫くつもりで? 妹さん、ブルース様とご結婚したらしいじゃないですか」
「うるさ」
思わず飛び出た暴言に、ティアンは軽く肩をすくめる。
「なんでそんなに成長したの」
「なんでと言われても」
子供ってこんなに成長するのか。
今や立派な騎士に成長したティアンは、望み通りルイス様の護衛を担当している。この流れは、俺にとって非常によろしくない。
しかし、ルイス様の一番近くを手に入れたはずのティアンも、ここ最近ずっと浮かない顔である。原因は、なんとなく予想はつく。
ようやくルイス様に会えると足取り軽くヴィアン家に戻ってきたティアン。しかし、そんな彼を待っていたのは「こんなのティアンじゃない」と言い張るルイス様。
なんというか、まぁ。
「こうなる気はしてたよね」
「なんですって?」
「ルイス様。前々から周囲の変化を嫌っていたでしょ。いきなり成長したティアンを見たら、きっとややこしいことになるだろうなとは思ってた」
こうならないように、ちょいちょい顔を合わせておけばよかったのだ。卒業までの四年間。一切会わないという謎のルールを実行したばかりに、思った通りにややこしい事態になっている。
ひとりで空回りをしているティアンがなんだか面白くて、笑いをかみ殺す。だが、誤魔化しきれなかったらしく、半眼のティアンが俺を睨んでくる。
だが、ルイス様の気持ちもわからなくはない。ティアンはすごく成長した。頑張ったのだろうけど、その頑張りのせいでルイス様は戸惑っている。
「ルイス様の中では、ティアンは十三歳の少年のままなんだよ。それが突然十七歳の青年になったものだから。別人に思えちゃうんだろうね」
「……」
ティアン本人もそう考えているのか。言い返してこない彼は、苛立ったように前髪を掻き上げている。
「それで? あなたはルイス様のこと諦めたんですか?」
「なんで?」
俺が諦める理由がどこにある。
ルイス様はまだフリーだ。そして唐突に思い出した。
「あ。そういや君がいない間にさ。ルイス様がロニーに好きって告白してたよ」
「はぁ!?」
大声を出すティアンに、なんだか口元が緩んでしまう。動揺をあらわにするティアンは、見ていて面白い。
「なんでそんなことになるんですか!」
「俺に言われても。やっぱ長髪かな。君もせっかく四年あったんだから。伸ばせばよかったのに」
「嫌ですよ」
髪型が理由で好かれても、良い気分にはなりませんと吐き捨てるティアンは、けれども無意識のうちに髪を触っている。
「それ。副団長はなんて?」
「きっぱり断ったみたいだよ。ロニーはなぁ。あいつなに考えてんのかわかんないんだよな」
いまだに、ルイス様をどう思っているのか不明。ルイス様の告白を断った際も、身分の差を持ち出していい感じに断ったらしいと小耳に挟んだ。
あそこではっきりとルイス様のことが好きじゃないと言わないあたり、実にロニーらしい。ロニーは無闇矢鱈と敵を作ったりはしない。己がルイス様のことをどう思っているのかは明確にせず、身分差というもっともらしい理由できっぱり話を終わらせたロニーは、かなりの策士だと思う。
しれっと副団長の座をゲットしてしまうし。まったく油断ならない男である。
「まぁ、ロニーのことはどうでもいいんだよ。君はまずあれだね。ルイス様が昔みたいに仲良くしてくれるといいね」
「その余裕、腹が立ちますね」
「まぁね。知らない人扱いされている君よりは、俺の方が断然マシだし」
「言いますね」
ちょっと挑発的な物言いをしてみれば、ティアンは簡単に機嫌を悪くする。うんうん。こういう子供っぽい一面を見ると無性に安堵する。
外見は大きく変わったが、中身はまだ子供らしい。昔よりは大人っぽくなったが、ロニーなんかと比べるとまだまだだ。
「とりあえずさ。君はまずレナルドに勝てるよう頑張りなよ」
「うるさいですよ。あなたには言われたくないです」
連日、護衛はレナルドがいい。レナルドに戻してと主張するルイス様。ティアンは、それを聞くたびになんとも言えない顔をしている。
ルイス様からすれば、見慣れない姿のティアンよりも、これまで一緒にいたレナルドの方が落ち着くのだろう。
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