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15歳
409 譲ってあげる
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ティアンに手伝ってもらって、綿毛ちゃんにリードをつける。嫌がる綿毛ちゃんは、我儘だと思う。ペットなんだから、それくらい我慢しろ。
そのままずるずると綿毛ちゃんを引っ張って、廊下に出る。「可哀想ですよ」と、ティアンが何度も手を伸ばしてくる。
「綿毛ちゃんは散歩が好きだから大丈夫」
『オレ、別に散歩好きじゃない』
部屋でのんびりしている方が好きと、ふざけたことを言う綿毛ちゃん。ジタバタする毛玉を、なんとか庭に出そうと奮闘する。
「ティアンも手伝って」
「はぁ」
やる気のない返事をするティアンは、渋々といった様子で屈んで、綿毛ちゃんを抱き上げる。
そうして奮闘していれば、ブルース兄様が通りかかった。不思議そうな目を向けてくる兄様は「室内で暴れるな」とつまらないことを言ってくる。
「だって綿毛ちゃんが我儘言うから」
『我儘は坊ちゃんだよ』
どう見ても綿毛ちゃんの方が我儘だ。
どうでもよさそうに「そうか」で話を終わらせてしまうブルース兄様は、今度はティアンに視線を移すと上から下まで眺め始める。
「それにしても。大きくなったな」
「そうですか?」
ブルース兄様は、ティアンに会うたびに「大きくなったな」と感心している。これで何度目だろうか。ティアンは毎度律儀に返事をしてあげている。
「俺は? 大きくなった?」
「え? あー、そうだな」
ルイスも大きくなったな、と適当に流すブルース兄様。仕事があるのだろう。はやくもこの場を立ち去ろうとする兄様に、俺は慌てて口を開く。
「アリアと仲悪いの?」
「なんだ突然」
固まる兄様に、俺は再度「アリアと仲悪いの?」と訊いてみる。ティアンも、興味があるのだろう。綿毛ちゃんを抱っこしたままブルース兄様を見つめている。
「普通だが」
「じゃあ孫はいつ?」
「待て」
鋭く制止してくる兄様は、盛大に頭を抱えてしまう。
「母上か?」
「うん。孫はいつできるのか訊いてきてって」
「なんでルイスに頼むんだ」
苦い声を出すブルース兄様は、やはりこの手の話題には触れてほしくないらしい。だが、俺もお母様に頼まれているので。簡単に引くわけにはいかない。
「アリアと仲良くしないとダメだよ」
「余計なお世話だ。子供が首を突っ込むことじゃない」
「俺は大人」
「どこが」
短く吐き捨てる兄様は、俺を振り切って二階に行こうとする。そうはさせるか。急いでブルース兄様の前にまわり込んで、進路を塞ぐ。
「アリアのこと好きじゃないの!?」
「あぁ」
「ひどい!」
「うるさい」
まったく悩むこともなく、アリアの事はどうでもいいと断言するブルース兄様はひどいと思う。
「アリアが聞いたら悲しむよ」
「あいつはそんな繊細さ持ち合わせていないだろ」
確かに。
ブルース兄様から面と向かって形だけの結婚にすると告げられた際にも、アリアはへらへら笑って了承していた。その後も、彼女が現状に対して文句を言うことはない。
本人同士がいいのであれば、それでいいのか。
ちょっと考える俺に、ブルース兄様は片眉を器用に持ち上げる。
「俺のことはどうでもいいんだ。おまえこそ、ティアンと仲良くしろよ」
偉そうなブルース兄様は、どうやら俺とティアンが喧嘩しているとでも思ったらしい。ティアンが帰ってきて早々に、俺はティアンと気まずい感じだった。そのせいで、ブルース兄様にも心配させてしまったようだ。
「ティアンとは仲良くやってる」
「本当に?」
「うん」
今も綿毛ちゃんの散歩に行こうとしていたと説明すれば、兄様は「そうか」と安心したように小さく頷いた。ティアンも「ルイス様のことは、僕に任せてくださいよ」と胸を叩いている。
「ブルース兄様も散歩する?」
なんだかお疲れの兄様に、綿毛ちゃんのリードを譲ってあげる。「いや、俺はいい」と遠慮する兄様の手に、無理矢理リードを持たせてあげれば、綿毛ちゃんが『オレもう飽きたぁ』と、とんでもない我儘を言い始める。まだ庭にも出ていないのに。なんでもう飽きるのだ。適当言うな。
「はやく行こう!」
「お、おい」
兄様の背中をぐいぐい押して、庭に連れ出す。困惑しながらも、リードを手放さない兄様は、本心では綿毛ちゃんの散歩をしてみたかったに違いない。俺は気の利く弟なので。今日はブルース兄様に譲ってあげようと思う。
庭に出た兄様は、疲れた顔で歩き始める。
「これ。いつまでやればいいんだ」
『もう終わりにしようよ。オレ疲れましたぁ』
こそこそと会話するブルース兄様と綿毛ちゃん。それを少し離れたところから見守る俺とティアン。
ティアンは、なんだかブルース兄様にあわれむような目線を注いでいる。
「ティアンも、綿毛ちゃんの散歩したいのか?」
「え。いえ、僕は大丈夫です」
「遠慮せずに」
「遠慮じゃなくて。普通に犬の散歩とか面倒だから嫌です」
「なんだと」
綿毛ちゃんの散歩は楽しいでしょうが。
思えば、ティアンは昔から走りまわるような遊びが苦手だった。庭で遊びたいと主張する俺に対して、ティアンは部屋で遊びたがった。騎士になった今でも、そういうところは変わっていないらしい。ちょっと残念な気持ちにもなるが、それよりも、ティアンが変わっていないことを実感して安堵する気持ちの方が大きかった。
そのままずるずると綿毛ちゃんを引っ張って、廊下に出る。「可哀想ですよ」と、ティアンが何度も手を伸ばしてくる。
「綿毛ちゃんは散歩が好きだから大丈夫」
『オレ、別に散歩好きじゃない』
部屋でのんびりしている方が好きと、ふざけたことを言う綿毛ちゃん。ジタバタする毛玉を、なんとか庭に出そうと奮闘する。
「ティアンも手伝って」
「はぁ」
やる気のない返事をするティアンは、渋々といった様子で屈んで、綿毛ちゃんを抱き上げる。
そうして奮闘していれば、ブルース兄様が通りかかった。不思議そうな目を向けてくる兄様は「室内で暴れるな」とつまらないことを言ってくる。
「だって綿毛ちゃんが我儘言うから」
『我儘は坊ちゃんだよ』
どう見ても綿毛ちゃんの方が我儘だ。
どうでもよさそうに「そうか」で話を終わらせてしまうブルース兄様は、今度はティアンに視線を移すと上から下まで眺め始める。
「それにしても。大きくなったな」
「そうですか?」
ブルース兄様は、ティアンに会うたびに「大きくなったな」と感心している。これで何度目だろうか。ティアンは毎度律儀に返事をしてあげている。
「俺は? 大きくなった?」
「え? あー、そうだな」
ルイスも大きくなったな、と適当に流すブルース兄様。仕事があるのだろう。はやくもこの場を立ち去ろうとする兄様に、俺は慌てて口を開く。
「アリアと仲悪いの?」
「なんだ突然」
固まる兄様に、俺は再度「アリアと仲悪いの?」と訊いてみる。ティアンも、興味があるのだろう。綿毛ちゃんを抱っこしたままブルース兄様を見つめている。
「普通だが」
「じゃあ孫はいつ?」
「待て」
鋭く制止してくる兄様は、盛大に頭を抱えてしまう。
「母上か?」
「うん。孫はいつできるのか訊いてきてって」
「なんでルイスに頼むんだ」
苦い声を出すブルース兄様は、やはりこの手の話題には触れてほしくないらしい。だが、俺もお母様に頼まれているので。簡単に引くわけにはいかない。
「アリアと仲良くしないとダメだよ」
「余計なお世話だ。子供が首を突っ込むことじゃない」
「俺は大人」
「どこが」
短く吐き捨てる兄様は、俺を振り切って二階に行こうとする。そうはさせるか。急いでブルース兄様の前にまわり込んで、進路を塞ぐ。
「アリアのこと好きじゃないの!?」
「あぁ」
「ひどい!」
「うるさい」
まったく悩むこともなく、アリアの事はどうでもいいと断言するブルース兄様はひどいと思う。
「アリアが聞いたら悲しむよ」
「あいつはそんな繊細さ持ち合わせていないだろ」
確かに。
ブルース兄様から面と向かって形だけの結婚にすると告げられた際にも、アリアはへらへら笑って了承していた。その後も、彼女が現状に対して文句を言うことはない。
本人同士がいいのであれば、それでいいのか。
ちょっと考える俺に、ブルース兄様は片眉を器用に持ち上げる。
「俺のことはどうでもいいんだ。おまえこそ、ティアンと仲良くしろよ」
偉そうなブルース兄様は、どうやら俺とティアンが喧嘩しているとでも思ったらしい。ティアンが帰ってきて早々に、俺はティアンと気まずい感じだった。そのせいで、ブルース兄様にも心配させてしまったようだ。
「ティアンとは仲良くやってる」
「本当に?」
「うん」
今も綿毛ちゃんの散歩に行こうとしていたと説明すれば、兄様は「そうか」と安心したように小さく頷いた。ティアンも「ルイス様のことは、僕に任せてくださいよ」と胸を叩いている。
「ブルース兄様も散歩する?」
なんだかお疲れの兄様に、綿毛ちゃんのリードを譲ってあげる。「いや、俺はいい」と遠慮する兄様の手に、無理矢理リードを持たせてあげれば、綿毛ちゃんが『オレもう飽きたぁ』と、とんでもない我儘を言い始める。まだ庭にも出ていないのに。なんでもう飽きるのだ。適当言うな。
「はやく行こう!」
「お、おい」
兄様の背中をぐいぐい押して、庭に連れ出す。困惑しながらも、リードを手放さない兄様は、本心では綿毛ちゃんの散歩をしてみたかったに違いない。俺は気の利く弟なので。今日はブルース兄様に譲ってあげようと思う。
庭に出た兄様は、疲れた顔で歩き始める。
「これ。いつまでやればいいんだ」
『もう終わりにしようよ。オレ疲れましたぁ』
こそこそと会話するブルース兄様と綿毛ちゃん。それを少し離れたところから見守る俺とティアン。
ティアンは、なんだかブルース兄様にあわれむような目線を注いでいる。
「ティアンも、綿毛ちゃんの散歩したいのか?」
「え。いえ、僕は大丈夫です」
「遠慮せずに」
「遠慮じゃなくて。普通に犬の散歩とか面倒だから嫌です」
「なんだと」
綿毛ちゃんの散歩は楽しいでしょうが。
思えば、ティアンは昔から走りまわるような遊びが苦手だった。庭で遊びたいと主張する俺に対して、ティアンは部屋で遊びたがった。騎士になった今でも、そういうところは変わっていないらしい。ちょっと残念な気持ちにもなるが、それよりも、ティアンが変わっていないことを実感して安堵する気持ちの方が大きかった。
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