435 / 656
15歳
409 譲ってあげる
しおりを挟む
ティアンに手伝ってもらって、綿毛ちゃんにリードをつける。嫌がる綿毛ちゃんは、我儘だと思う。ペットなんだから、それくらい我慢しろ。
そのままずるずると綿毛ちゃんを引っ張って、廊下に出る。「可哀想ですよ」と、ティアンが何度も手を伸ばしてくる。
「綿毛ちゃんは散歩が好きだから大丈夫」
『オレ、別に散歩好きじゃない』
部屋でのんびりしている方が好きと、ふざけたことを言う綿毛ちゃん。ジタバタする毛玉を、なんとか庭に出そうと奮闘する。
「ティアンも手伝って」
「はぁ」
やる気のない返事をするティアンは、渋々といった様子で屈んで、綿毛ちゃんを抱き上げる。
そうして奮闘していれば、ブルース兄様が通りかかった。不思議そうな目を向けてくる兄様は「室内で暴れるな」とつまらないことを言ってくる。
「だって綿毛ちゃんが我儘言うから」
『我儘は坊ちゃんだよ』
どう見ても綿毛ちゃんの方が我儘だ。
どうでもよさそうに「そうか」で話を終わらせてしまうブルース兄様は、今度はティアンに視線を移すと上から下まで眺め始める。
「それにしても。大きくなったな」
「そうですか?」
ブルース兄様は、ティアンに会うたびに「大きくなったな」と感心している。これで何度目だろうか。ティアンは毎度律儀に返事をしてあげている。
「俺は? 大きくなった?」
「え? あー、そうだな」
ルイスも大きくなったな、と適当に流すブルース兄様。仕事があるのだろう。はやくもこの場を立ち去ろうとする兄様に、俺は慌てて口を開く。
「アリアと仲悪いの?」
「なんだ突然」
固まる兄様に、俺は再度「アリアと仲悪いの?」と訊いてみる。ティアンも、興味があるのだろう。綿毛ちゃんを抱っこしたままブルース兄様を見つめている。
「普通だが」
「じゃあ孫はいつ?」
「待て」
鋭く制止してくる兄様は、盛大に頭を抱えてしまう。
「母上か?」
「うん。孫はいつできるのか訊いてきてって」
「なんでルイスに頼むんだ」
苦い声を出すブルース兄様は、やはりこの手の話題には触れてほしくないらしい。だが、俺もお母様に頼まれているので。簡単に引くわけにはいかない。
「アリアと仲良くしないとダメだよ」
「余計なお世話だ。子供が首を突っ込むことじゃない」
「俺は大人」
「どこが」
短く吐き捨てる兄様は、俺を振り切って二階に行こうとする。そうはさせるか。急いでブルース兄様の前にまわり込んで、進路を塞ぐ。
「アリアのこと好きじゃないの!?」
「あぁ」
「ひどい!」
「うるさい」
まったく悩むこともなく、アリアの事はどうでもいいと断言するブルース兄様はひどいと思う。
「アリアが聞いたら悲しむよ」
「あいつはそんな繊細さ持ち合わせていないだろ」
確かに。
ブルース兄様から面と向かって形だけの結婚にすると告げられた際にも、アリアはへらへら笑って了承していた。その後も、彼女が現状に対して文句を言うことはない。
本人同士がいいのであれば、それでいいのか。
ちょっと考える俺に、ブルース兄様は片眉を器用に持ち上げる。
「俺のことはどうでもいいんだ。おまえこそ、ティアンと仲良くしろよ」
偉そうなブルース兄様は、どうやら俺とティアンが喧嘩しているとでも思ったらしい。ティアンが帰ってきて早々に、俺はティアンと気まずい感じだった。そのせいで、ブルース兄様にも心配させてしまったようだ。
「ティアンとは仲良くやってる」
「本当に?」
「うん」
今も綿毛ちゃんの散歩に行こうとしていたと説明すれば、兄様は「そうか」と安心したように小さく頷いた。ティアンも「ルイス様のことは、僕に任せてくださいよ」と胸を叩いている。
「ブルース兄様も散歩する?」
なんだかお疲れの兄様に、綿毛ちゃんのリードを譲ってあげる。「いや、俺はいい」と遠慮する兄様の手に、無理矢理リードを持たせてあげれば、綿毛ちゃんが『オレもう飽きたぁ』と、とんでもない我儘を言い始める。まだ庭にも出ていないのに。なんでもう飽きるのだ。適当言うな。
「はやく行こう!」
「お、おい」
兄様の背中をぐいぐい押して、庭に連れ出す。困惑しながらも、リードを手放さない兄様は、本心では綿毛ちゃんの散歩をしてみたかったに違いない。俺は気の利く弟なので。今日はブルース兄様に譲ってあげようと思う。
庭に出た兄様は、疲れた顔で歩き始める。
「これ。いつまでやればいいんだ」
『もう終わりにしようよ。オレ疲れましたぁ』
こそこそと会話するブルース兄様と綿毛ちゃん。それを少し離れたところから見守る俺とティアン。
ティアンは、なんだかブルース兄様にあわれむような目線を注いでいる。
「ティアンも、綿毛ちゃんの散歩したいのか?」
「え。いえ、僕は大丈夫です」
「遠慮せずに」
「遠慮じゃなくて。普通に犬の散歩とか面倒だから嫌です」
「なんだと」
綿毛ちゃんの散歩は楽しいでしょうが。
思えば、ティアンは昔から走りまわるような遊びが苦手だった。庭で遊びたいと主張する俺に対して、ティアンは部屋で遊びたがった。騎士になった今でも、そういうところは変わっていないらしい。ちょっと残念な気持ちにもなるが、それよりも、ティアンが変わっていないことを実感して安堵する気持ちの方が大きかった。
そのままずるずると綿毛ちゃんを引っ張って、廊下に出る。「可哀想ですよ」と、ティアンが何度も手を伸ばしてくる。
「綿毛ちゃんは散歩が好きだから大丈夫」
『オレ、別に散歩好きじゃない』
部屋でのんびりしている方が好きと、ふざけたことを言う綿毛ちゃん。ジタバタする毛玉を、なんとか庭に出そうと奮闘する。
「ティアンも手伝って」
「はぁ」
やる気のない返事をするティアンは、渋々といった様子で屈んで、綿毛ちゃんを抱き上げる。
そうして奮闘していれば、ブルース兄様が通りかかった。不思議そうな目を向けてくる兄様は「室内で暴れるな」とつまらないことを言ってくる。
「だって綿毛ちゃんが我儘言うから」
『我儘は坊ちゃんだよ』
どう見ても綿毛ちゃんの方が我儘だ。
どうでもよさそうに「そうか」で話を終わらせてしまうブルース兄様は、今度はティアンに視線を移すと上から下まで眺め始める。
「それにしても。大きくなったな」
「そうですか?」
ブルース兄様は、ティアンに会うたびに「大きくなったな」と感心している。これで何度目だろうか。ティアンは毎度律儀に返事をしてあげている。
「俺は? 大きくなった?」
「え? あー、そうだな」
ルイスも大きくなったな、と適当に流すブルース兄様。仕事があるのだろう。はやくもこの場を立ち去ろうとする兄様に、俺は慌てて口を開く。
「アリアと仲悪いの?」
「なんだ突然」
固まる兄様に、俺は再度「アリアと仲悪いの?」と訊いてみる。ティアンも、興味があるのだろう。綿毛ちゃんを抱っこしたままブルース兄様を見つめている。
「普通だが」
「じゃあ孫はいつ?」
「待て」
鋭く制止してくる兄様は、盛大に頭を抱えてしまう。
「母上か?」
「うん。孫はいつできるのか訊いてきてって」
「なんでルイスに頼むんだ」
苦い声を出すブルース兄様は、やはりこの手の話題には触れてほしくないらしい。だが、俺もお母様に頼まれているので。簡単に引くわけにはいかない。
「アリアと仲良くしないとダメだよ」
「余計なお世話だ。子供が首を突っ込むことじゃない」
「俺は大人」
「どこが」
短く吐き捨てる兄様は、俺を振り切って二階に行こうとする。そうはさせるか。急いでブルース兄様の前にまわり込んで、進路を塞ぐ。
「アリアのこと好きじゃないの!?」
「あぁ」
「ひどい!」
「うるさい」
まったく悩むこともなく、アリアの事はどうでもいいと断言するブルース兄様はひどいと思う。
「アリアが聞いたら悲しむよ」
「あいつはそんな繊細さ持ち合わせていないだろ」
確かに。
ブルース兄様から面と向かって形だけの結婚にすると告げられた際にも、アリアはへらへら笑って了承していた。その後も、彼女が現状に対して文句を言うことはない。
本人同士がいいのであれば、それでいいのか。
ちょっと考える俺に、ブルース兄様は片眉を器用に持ち上げる。
「俺のことはどうでもいいんだ。おまえこそ、ティアンと仲良くしろよ」
偉そうなブルース兄様は、どうやら俺とティアンが喧嘩しているとでも思ったらしい。ティアンが帰ってきて早々に、俺はティアンと気まずい感じだった。そのせいで、ブルース兄様にも心配させてしまったようだ。
「ティアンとは仲良くやってる」
「本当に?」
「うん」
今も綿毛ちゃんの散歩に行こうとしていたと説明すれば、兄様は「そうか」と安心したように小さく頷いた。ティアンも「ルイス様のことは、僕に任せてくださいよ」と胸を叩いている。
「ブルース兄様も散歩する?」
なんだかお疲れの兄様に、綿毛ちゃんのリードを譲ってあげる。「いや、俺はいい」と遠慮する兄様の手に、無理矢理リードを持たせてあげれば、綿毛ちゃんが『オレもう飽きたぁ』と、とんでもない我儘を言い始める。まだ庭にも出ていないのに。なんでもう飽きるのだ。適当言うな。
「はやく行こう!」
「お、おい」
兄様の背中をぐいぐい押して、庭に連れ出す。困惑しながらも、リードを手放さない兄様は、本心では綿毛ちゃんの散歩をしてみたかったに違いない。俺は気の利く弟なので。今日はブルース兄様に譲ってあげようと思う。
庭に出た兄様は、疲れた顔で歩き始める。
「これ。いつまでやればいいんだ」
『もう終わりにしようよ。オレ疲れましたぁ』
こそこそと会話するブルース兄様と綿毛ちゃん。それを少し離れたところから見守る俺とティアン。
ティアンは、なんだかブルース兄様にあわれむような目線を注いでいる。
「ティアンも、綿毛ちゃんの散歩したいのか?」
「え。いえ、僕は大丈夫です」
「遠慮せずに」
「遠慮じゃなくて。普通に犬の散歩とか面倒だから嫌です」
「なんだと」
綿毛ちゃんの散歩は楽しいでしょうが。
思えば、ティアンは昔から走りまわるような遊びが苦手だった。庭で遊びたいと主張する俺に対して、ティアンは部屋で遊びたがった。騎士になった今でも、そういうところは変わっていないらしい。ちょっと残念な気持ちにもなるが、それよりも、ティアンが変わっていないことを実感して安堵する気持ちの方が大きかった。
1,348
お気に入りに追加
3,165
あなたにおすすめの小説
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません
めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。
家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。
しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。
調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。
だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。
煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!?
///////////////////////////////
※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。
///////////////////////////////
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる