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15歳
398 プロポーズ
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「俺は特におまえのことが好きというわけではないのだが。まぁ、状況が状況だからな。形だけの結婚ということでいこう」
「了解です!」
そんな欠片も色気がない言葉によって、ブルース兄様は結婚を決めた。それを二つ返事で了承したお相手さんは、まさかのアリアであった。
「人生、なにが起こるかわからないね」
さらっと結婚を決めたふたりを横目に、俺はユリスに同意を求めてみた。
「そうか? 面白いからいいんじゃないか」
ユリスにとって、ブルース兄様とアリアの結婚は面白いことに分類されるらしい。
事の始まりは数ヶ月前。
なにやらブルース兄様とアリアが婚約するらしいという根も葉もない噂が世間に流れ始めた頃。
ブルース兄様は、ひとりで盛大に頭を抱えていた。噂の出所は、もちろんアリアとアロンである。どうやらマジで外堀から埋めに行ったらしい。そんな馬鹿みたいな作戦が成功するなんて。
当然のように、アロンに抗議をしたブルース兄様。しかし相手はクソ野郎。「俺が出所だっていう証拠はあるんですか!」と清々しいほどに逆ギレしていた。どう考えてもアロンが元凶だろうが。
ちょうどその頃、キャンベルの妊娠が判明して、お母様の意味深な視線がブルース兄様に注がれていた。「あなたはまだ結婚しないの?」「私に孫を抱かせてあげようとか思わないのかしら」「孫はオーガスが頑張るとして。せめて結婚くらいはやく決めたらどうなの?」と。顔を合わせる度にブルース兄様へとプレッシャーをかけていた。
当初は軽く受け流していたブルース兄様だが、キャンベルが無事に出産してから、ますますお母様の圧が強くなった。ついに耐えきれなくなったらしいブルース兄様は、渋々結婚を決めたというわけである。
ブルース兄様がアリアと会っているらしいとの話を聞きつけた俺は、ユリスを誘って兄様の部屋へと足を踏み入れていた。「なんで見にくるんだ」と苦い顔をしたブルース兄様であるが、面倒になったのだろう。俺たちを追い出すことはしなかった。
そうして始まったプロポーズに、俺とユリスはパチパチとまばらな拍手をする。やる気のない顔で手を叩くユリスは、はやくも飽きているようである。ユリスは、ブルース兄様がアリアと大喧嘩すると考えていたようである。この平和な空気は、ユリスの期待外れだったらしい。
アリアは得意そうに笑っている。ブルース兄様は疲れた顔だ。とても結婚が決まった人の顔には見えなかった。
「……もう終わり?」
案外あっさりとしたプロポーズ。ユリスと同様に、もっと劇的な何かが起こると期待していた俺は、一段落した空気にきょろきょろと視線を動かす。
「なにを期待していたんだ」
眉を寄せるブルース兄様は、やれやれと首を左右に振って執務机に戻ってしまう。残されたアリアは、すごいどや顔をしていた。
形だけの結婚って宣言されていたけど、それでいいのだろうか。ちらりとアリアを見上げると、満足気な視線とかち合った。
「ブルース兄様、あんなこと言ってるけど。アリアはそれでいいの?」
「いいですよ。私は地位と権力さえ手に入ればなんでもいいので」
「へー」
アリアは、出会った当初からブルース兄様の権力目当てであることを堂々と宣言していた。あれから数年経っているが、ぶれないな。
「私のことはお姉ちゃんって呼んでくれていいですからね!」
それはちょっと。
ははっと笑って誤魔化しておこう。
ブルース兄様は、アリア相手に子供は作らないからなと最低な宣言をしていた。それに笑顔で「了解でーす」と答えるアリアは強かった。
どうやらこのふたり、徹底的に形だけの結婚を貫くつもりらしい。
ヴィアン家は、もうケイシーが生まれたから跡継ぎに困っているということはない。一方のアリアも、実家であるミュンスト伯爵家には長男のアロンが居るから問題ないのだとか。
まぁ、本人たちがそれでいいのであれば。
「おめでとう」
一応お祝いの言葉を投げておけば、アリアがにこりと笑う。「あぁ」と低く唸るブルース兄様は、あんまり楽しそうじゃないけど。
アリアは、ブルース兄様の結婚相手としてはなかなか良いかもしれない。そもそもブルース兄様は、あまり恋愛に興味がない。女の子と仲良しという話も聞かないし。
アリアの方も、いかにもな結婚生活には興味がないらしい。こちらは趣味で男装しているくらいだ。親の反対がなければ、独身を貫こうとも考えていたらしい。
要するに、利害が一致したのだ。
「表舞台に立つ時だけ、夫婦っぽく振る舞うということで」
「あぁ、それでいい」
お母様が聞いたら間違いなく不満な顔をするであろう約束をしてみせるふたり。その顔を交互に眺めてから、俺はユリスに視線を移した。
「ユリス。ちゃんとアリアとも仲良くするんだぞ」
「なんだ。なんでルイスにそんなことを言われなければならない」
「だってユリスは捻くれてるから」
「うるさい」
俺を睨み付けてくるユリスは、けれどもすぐに息を吐くと「屋敷がまたうるさくなる」と苦々しく呟いた。
そうだな。アリアはアロンの妹だもんな。すごく騒がしくなりそうである。
「でも賑やかな方が楽しいよ!」
「僕は楽しくない」
「捻くれてるから?」
「だから、うるさい!」
眉を吊り上げるユリスを宥めて、俺は賑やかになりそうな明日を思い描いて、頬を緩めた。
「了解です!」
そんな欠片も色気がない言葉によって、ブルース兄様は結婚を決めた。それを二つ返事で了承したお相手さんは、まさかのアリアであった。
「人生、なにが起こるかわからないね」
さらっと結婚を決めたふたりを横目に、俺はユリスに同意を求めてみた。
「そうか? 面白いからいいんじゃないか」
ユリスにとって、ブルース兄様とアリアの結婚は面白いことに分類されるらしい。
事の始まりは数ヶ月前。
なにやらブルース兄様とアリアが婚約するらしいという根も葉もない噂が世間に流れ始めた頃。
ブルース兄様は、ひとりで盛大に頭を抱えていた。噂の出所は、もちろんアリアとアロンである。どうやらマジで外堀から埋めに行ったらしい。そんな馬鹿みたいな作戦が成功するなんて。
当然のように、アロンに抗議をしたブルース兄様。しかし相手はクソ野郎。「俺が出所だっていう証拠はあるんですか!」と清々しいほどに逆ギレしていた。どう考えてもアロンが元凶だろうが。
ちょうどその頃、キャンベルの妊娠が判明して、お母様の意味深な視線がブルース兄様に注がれていた。「あなたはまだ結婚しないの?」「私に孫を抱かせてあげようとか思わないのかしら」「孫はオーガスが頑張るとして。せめて結婚くらいはやく決めたらどうなの?」と。顔を合わせる度にブルース兄様へとプレッシャーをかけていた。
当初は軽く受け流していたブルース兄様だが、キャンベルが無事に出産してから、ますますお母様の圧が強くなった。ついに耐えきれなくなったらしいブルース兄様は、渋々結婚を決めたというわけである。
ブルース兄様がアリアと会っているらしいとの話を聞きつけた俺は、ユリスを誘って兄様の部屋へと足を踏み入れていた。「なんで見にくるんだ」と苦い顔をしたブルース兄様であるが、面倒になったのだろう。俺たちを追い出すことはしなかった。
そうして始まったプロポーズに、俺とユリスはパチパチとまばらな拍手をする。やる気のない顔で手を叩くユリスは、はやくも飽きているようである。ユリスは、ブルース兄様がアリアと大喧嘩すると考えていたようである。この平和な空気は、ユリスの期待外れだったらしい。
アリアは得意そうに笑っている。ブルース兄様は疲れた顔だ。とても結婚が決まった人の顔には見えなかった。
「……もう終わり?」
案外あっさりとしたプロポーズ。ユリスと同様に、もっと劇的な何かが起こると期待していた俺は、一段落した空気にきょろきょろと視線を動かす。
「なにを期待していたんだ」
眉を寄せるブルース兄様は、やれやれと首を左右に振って執務机に戻ってしまう。残されたアリアは、すごいどや顔をしていた。
形だけの結婚って宣言されていたけど、それでいいのだろうか。ちらりとアリアを見上げると、満足気な視線とかち合った。
「ブルース兄様、あんなこと言ってるけど。アリアはそれでいいの?」
「いいですよ。私は地位と権力さえ手に入ればなんでもいいので」
「へー」
アリアは、出会った当初からブルース兄様の権力目当てであることを堂々と宣言していた。あれから数年経っているが、ぶれないな。
「私のことはお姉ちゃんって呼んでくれていいですからね!」
それはちょっと。
ははっと笑って誤魔化しておこう。
ブルース兄様は、アリア相手に子供は作らないからなと最低な宣言をしていた。それに笑顔で「了解でーす」と答えるアリアは強かった。
どうやらこのふたり、徹底的に形だけの結婚を貫くつもりらしい。
ヴィアン家は、もうケイシーが生まれたから跡継ぎに困っているということはない。一方のアリアも、実家であるミュンスト伯爵家には長男のアロンが居るから問題ないのだとか。
まぁ、本人たちがそれでいいのであれば。
「おめでとう」
一応お祝いの言葉を投げておけば、アリアがにこりと笑う。「あぁ」と低く唸るブルース兄様は、あんまり楽しそうじゃないけど。
アリアは、ブルース兄様の結婚相手としてはなかなか良いかもしれない。そもそもブルース兄様は、あまり恋愛に興味がない。女の子と仲良しという話も聞かないし。
アリアの方も、いかにもな結婚生活には興味がないらしい。こちらは趣味で男装しているくらいだ。親の反対がなければ、独身を貫こうとも考えていたらしい。
要するに、利害が一致したのだ。
「表舞台に立つ時だけ、夫婦っぽく振る舞うということで」
「あぁ、それでいい」
お母様が聞いたら間違いなく不満な顔をするであろう約束をしてみせるふたり。その顔を交互に眺めてから、俺はユリスに視線を移した。
「ユリス。ちゃんとアリアとも仲良くするんだぞ」
「なんだ。なんでルイスにそんなことを言われなければならない」
「だってユリスは捻くれてるから」
「うるさい」
俺を睨み付けてくるユリスは、けれどもすぐに息を吐くと「屋敷がまたうるさくなる」と苦々しく呟いた。
そうだな。アリアはアロンの妹だもんな。すごく騒がしくなりそうである。
「でも賑やかな方が楽しいよ!」
「僕は楽しくない」
「捻くれてるから?」
「だから、うるさい!」
眉を吊り上げるユリスを宥めて、俺は賑やかになりそうな明日を思い描いて、頬を緩めた。
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