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15歳
399 面白い兄
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アリアが増えても、屋敷は特に混乱しなかった。
アリアは、さっぱりとした性格である。おまけに本気でブルース兄様に興味がないらしく、あの形だけの結婚宣言を実行に移している。
なんというか。ブルース兄様の妻というよりも、単なる居候みたいな立ち位置だ。
お母様は不満そうにしていたけど、アリア以外に良い結婚相手に心当たりがなかったのだろう。ここで文句を言って、本格的に拗ねたブルース兄様が、だったら独身を貫くと宣言しても厄介だと考えたらしい。今のところは黙って見守っている。顔はすごく不満そうだけど。
『ブルースくんは、恋愛よりも仕事って感じだもんねぇ』
「面白味のない人ですね」
『だねぇ』
にこにこと綿毛ちゃんと会話するアリア。キャンベルは綿毛ちゃんのことを怖がっていたが、アリアは喋る毛玉を気に入ったらしい。
アリアは、あまりブルース兄様と顔を合わせない。すれ違えば「どうも」と挨拶くらいはしているが、突っ込んだ話はしない。到底夫婦には見えない。
代わりに、アリアは俺のところへよく足を運んでいる。たぶん綿毛ちゃん目当てだと思う。「私、犬とか猫とか好きなんですよね」と言いながら、よくわしゃわしゃ撫でている。兄の方は動物嫌いなのに。
今日も俺の部屋にやって来たアリアは、なぜか男装していた。髪をお団子にしてキリッとした表情。こうして見ると、やっぱりアロンに似ている。
アリアが来ると、だいたいレナルドはそっと部屋を出て行く。一応はブルース兄様の妻である。遠慮しているのかもしれない。ジャンが用意してくれたお茶を飲みながら、アリアと一緒に猫と犬を撫でる。
「そういえば、うちの兄と結婚するっていう話はどうなったんですか?」
「ん?」
突然の話題に、俺は首を傾げる。
「うーん。アロンのことは別に」
「好きじゃないんですか?」
「好きだけど。うーん。なんだろうね」
アロンのことは嫌いではない。むしろ好き。一緒に遊んでくれるし、気も合うから。でもそれが結婚と結び付くかと言われれば微妙。そもそも俺はまだ十五歳で、兄様たちも結婚したばかり。次は俺の番だと言われてもピンとこない。
お母様とお父様も、俺とユリスに対して結婚を急かすようなことはまだ言わない。要するに、まだ早いんだと思う。
「でもうちの兄。結構本気みたいですけど」
アロンにくるお見合い話も、全部速攻で断っているという。今までのアロンであれば、とりあえずキープくらいはしていたのに、とアリアは言う。
「またあとで考える」
「そうですか?」
「うん」
アリアの言う通り、アロンは結構本気なのかもしれない。
「指輪もらった。だいぶ前だけど」
「え」
本気という言葉から、アロンとの間で指輪を巡って起こった出来事を連想した。ぽろっと口から出た言葉に、アリアが頬を引き攣らせている。
「えっと。それは具体的にはいつの話ですか?」
「えー、確か。俺が十二か十三くらいの時」
アロンが俺に指輪を預けてきたのが十二歳の時。そして、誕生日プレゼントとして俺にぴったりのサイズのものをくれたのが十三歳の時。
「うわぁ、普通に引く。あり得ないことしてる。なんかすみません、うちの兄が」
ぺこぺこ頭を下げてくるアリアに、俺は目を瞬く。別に気にしてないと伝えるが、彼女は「いや、ないですよ」とバッサリ切り捨てる。
「いい大人が十二歳の子供に指輪渡すとか。重すぎ。え、なんか笑えてくるんですけど」
言葉通り、肩を揺らすアリアは、ついに我慢できずに吹き出した。
「ちょっと。うちの兄、面白過ぎません?」
目元を拭うアリアは、「あー、面白い」と遠慮がない。確かに、子供に指輪渡すのはどうなんだと俺も思ったけど。
「兄が恋愛下手すぎて笑えますね」
「アロンはモテるんじゃないの?」
「女の子には人気ですけど。でもあの性格ですよ? 寄ってくるのは兄の顔と権力目当ての奴だけです」
「ふーん?」
アリアによれば、アロンの周りに集まってくる女の子は、ほとんどがその地位を目当てにしているらしい。だからアロンの性格がクソでも、文句を言わずに擦り寄ってくるのだとか。
たまにアロン自身に惚れたという子も現れるが、そういう子はアロンのクソやばい性格にドン引きして静かに去っていくのだとか。
「そう考えると、兄はろくな恋愛してないですね」
「だね」
要するに、自分のことを持ち上げてくれる都合のいい女の子ばかりだったというわけだ。
そう考えると、今までのアロンの振る舞いにも多少は納得がいく。どうみても好きな子相手にする態度じゃないだろと言いたくなることが多々あったが、アロン的には今までそれで上手くいっていたのだろう。
「にしても、指輪は笑えますね。恋愛初心者が一生懸命に考えたんでしょうけど。本当にすみません。代わりに謝っておきます」
「いいよ、気にしなくて」
それに、今年はかっこいいペンをくれた。
さすがに指輪はまずいと思い直したのかはわからないが、最近では指輪の話もしなくなった。
「アロンは、ちょっとだけ大人になったと思う」
前に比べて、本当にちょっとだけだけど。
「あの兄が成長するなんて。ルイス様のおかげですね」
くすりと微笑むアリアに、俺は「うん」と小さく頷いておく。俺だけのおかげではないと思うが、感謝されると普通に嬉しい。
アリアは、さっぱりとした性格である。おまけに本気でブルース兄様に興味がないらしく、あの形だけの結婚宣言を実行に移している。
なんというか。ブルース兄様の妻というよりも、単なる居候みたいな立ち位置だ。
お母様は不満そうにしていたけど、アリア以外に良い結婚相手に心当たりがなかったのだろう。ここで文句を言って、本格的に拗ねたブルース兄様が、だったら独身を貫くと宣言しても厄介だと考えたらしい。今のところは黙って見守っている。顔はすごく不満そうだけど。
『ブルースくんは、恋愛よりも仕事って感じだもんねぇ』
「面白味のない人ですね」
『だねぇ』
にこにこと綿毛ちゃんと会話するアリア。キャンベルは綿毛ちゃんのことを怖がっていたが、アリアは喋る毛玉を気に入ったらしい。
アリアは、あまりブルース兄様と顔を合わせない。すれ違えば「どうも」と挨拶くらいはしているが、突っ込んだ話はしない。到底夫婦には見えない。
代わりに、アリアは俺のところへよく足を運んでいる。たぶん綿毛ちゃん目当てだと思う。「私、犬とか猫とか好きなんですよね」と言いながら、よくわしゃわしゃ撫でている。兄の方は動物嫌いなのに。
今日も俺の部屋にやって来たアリアは、なぜか男装していた。髪をお団子にしてキリッとした表情。こうして見ると、やっぱりアロンに似ている。
アリアが来ると、だいたいレナルドはそっと部屋を出て行く。一応はブルース兄様の妻である。遠慮しているのかもしれない。ジャンが用意してくれたお茶を飲みながら、アリアと一緒に猫と犬を撫でる。
「そういえば、うちの兄と結婚するっていう話はどうなったんですか?」
「ん?」
突然の話題に、俺は首を傾げる。
「うーん。アロンのことは別に」
「好きじゃないんですか?」
「好きだけど。うーん。なんだろうね」
アロンのことは嫌いではない。むしろ好き。一緒に遊んでくれるし、気も合うから。でもそれが結婚と結び付くかと言われれば微妙。そもそも俺はまだ十五歳で、兄様たちも結婚したばかり。次は俺の番だと言われてもピンとこない。
お母様とお父様も、俺とユリスに対して結婚を急かすようなことはまだ言わない。要するに、まだ早いんだと思う。
「でもうちの兄。結構本気みたいですけど」
アロンにくるお見合い話も、全部速攻で断っているという。今までのアロンであれば、とりあえずキープくらいはしていたのに、とアリアは言う。
「またあとで考える」
「そうですか?」
「うん」
アリアの言う通り、アロンは結構本気なのかもしれない。
「指輪もらった。だいぶ前だけど」
「え」
本気という言葉から、アロンとの間で指輪を巡って起こった出来事を連想した。ぽろっと口から出た言葉に、アリアが頬を引き攣らせている。
「えっと。それは具体的にはいつの話ですか?」
「えー、確か。俺が十二か十三くらいの時」
アロンが俺に指輪を預けてきたのが十二歳の時。そして、誕生日プレゼントとして俺にぴったりのサイズのものをくれたのが十三歳の時。
「うわぁ、普通に引く。あり得ないことしてる。なんかすみません、うちの兄が」
ぺこぺこ頭を下げてくるアリアに、俺は目を瞬く。別に気にしてないと伝えるが、彼女は「いや、ないですよ」とバッサリ切り捨てる。
「いい大人が十二歳の子供に指輪渡すとか。重すぎ。え、なんか笑えてくるんですけど」
言葉通り、肩を揺らすアリアは、ついに我慢できずに吹き出した。
「ちょっと。うちの兄、面白過ぎません?」
目元を拭うアリアは、「あー、面白い」と遠慮がない。確かに、子供に指輪渡すのはどうなんだと俺も思ったけど。
「兄が恋愛下手すぎて笑えますね」
「アロンはモテるんじゃないの?」
「女の子には人気ですけど。でもあの性格ですよ? 寄ってくるのは兄の顔と権力目当ての奴だけです」
「ふーん?」
アリアによれば、アロンの周りに集まってくる女の子は、ほとんどがその地位を目当てにしているらしい。だからアロンの性格がクソでも、文句を言わずに擦り寄ってくるのだとか。
たまにアロン自身に惚れたという子も現れるが、そういう子はアロンのクソやばい性格にドン引きして静かに去っていくのだとか。
「そう考えると、兄はろくな恋愛してないですね」
「だね」
要するに、自分のことを持ち上げてくれる都合のいい女の子ばかりだったというわけだ。
そう考えると、今までのアロンの振る舞いにも多少は納得がいく。どうみても好きな子相手にする態度じゃないだろと言いたくなることが多々あったが、アロン的には今までそれで上手くいっていたのだろう。
「にしても、指輪は笑えますね。恋愛初心者が一生懸命に考えたんでしょうけど。本当にすみません。代わりに謝っておきます」
「いいよ、気にしなくて」
それに、今年はかっこいいペンをくれた。
さすがに指輪はまずいと思い直したのかはわからないが、最近では指輪の話もしなくなった。
「アロンは、ちょっとだけ大人になったと思う」
前に比べて、本当にちょっとだけだけど。
「あの兄が成長するなんて。ルイス様のおかげですね」
くすりと微笑むアリアに、俺は「うん」と小さく頷いておく。俺だけのおかげではないと思うが、感謝されると普通に嬉しい。
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