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15歳
綿毛ちゃんの日常8
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「……俺、君のこと嫌いかもしれない」
『出会い頭のひと言としては最悪だよねぇ』
まぁ、出会い頭でなくとも嫌な言葉だけど。
廊下でばったりと鉢合わせたアロンさんは、珍しく足を止めた。いつもはオレのことなんて気にしないのに。なにか用事かなぁ? と思ってオレも足を止めたところ、降ってきたのが冒頭の暴言である。
ルイス坊ちゃんがいないからといって、ここぞとばかりに酷いことを言うアロンさんは、「俺、動物嫌いなんだよね」とさらに遠慮のない物言いをしてくる。
『まぁ、人には好き嫌いってあるもんねぇ。でもオレは無害な毛玉だからさ。仲良くしてとは言わないから。せめて見逃してくれると嬉しいなぁ』
追い出されるのは、ごめんである。なにもしないから屋敷に置いてくださいと尻尾を振れば、アロンさんは「そういうことじゃない」と吐き捨てる。
どういうことぉ?
こてりと首を傾げれば、アロンさんがムスッと腕を組む。次の言葉を待っていれば、アロンさんは冷えた目でオレを見下してくる。
「ルイス様にベタベタしすぎ」
『……オレ毛玉だよぉ?』
「それでもダメ。ルイス様に近づくな」
『ひぇ、横暴』
アロンさんは、ルイス坊ちゃんに対する独占欲っていうのかな。なんかそんな感じのものが酷いと思う。まぁ、当のルイス坊ちゃんがあんまり気にしていないみたいだからいいけどさぁ。
『こんな小さい毛玉をそんなに警戒しなくても』
「君、人間になれるだろ」
『あー、うん。そうだけどさぁ。でも普通に可愛い毛玉だよ?』
前足をひょいひょい持ち上げて可愛いアピールをしてみるが、アロンさんは相変わらず冷たい表情だ。
『えっと。オレ、もう行くね』
特に用事はないけど、アロンさんとの会話が途切れたので足早に去ろうとするのだが、アロンさんが前方をふさいだまま退いてくれない。
「ちょっと人間になってみてよ」
『なんでぇ?』
ルイス坊ちゃんと同じこと言うじゃん。
嫌な予感がするのでお断りしてみるが、アロンさんは聞く耳を持たない。「どうやって人間になるの?」と、屈んでからオレの頭を掴んでくる。
『やめてぇ。掴まないでぇ』
ジタバタ暴れてやるが、アロンさんは涼しい顔。この人は、こういうところが厄介だ。ルイス坊ちゃんも我儘だが、坊ちゃんはお子様なのでどうにでもなる。最悪『そろそろおやつの時間じゃない?』とか適当なこと言って気を逸らすことができる。対して、アロンさんはそういう明らかな罠にかかってくれないので相手をするのが大変なのだ。
『人間になってどうするの。理由を言ってよ』
理由次第では、考えてあげないこともない。
するとアロンさんは、あっさりと白状した。
「君、髪が長いでしょ。切っていい?」
『逆になんでいいと思うのぉ?』
ルイス坊ちゃんは、少しでもオレが暑がるような素振りを見せると、すぐに「毛がもふもふだから暑いの!?」と言って毛を刈ろうとしてくる。なんだかそれと同じような危機感を覚えて、震えるオレ。
ルイス坊ちゃんは、髪の長い男の人が好きだ。長髪のオレは、アロンさんにとっては目障りなのだろう。
『嫌だよぉ。オレは別にルイス坊ちゃんのこと狙ってないから放っておいてよぉ』
「じゃあ髪を切って」
『話通じないねぇ?』
アロンさんの相手は面倒だな。
年齢的には大人のはずなのに、やることは結構子供っぽい。こういう精神年齢が幼いところが、ルイス坊ちゃんと気が合う理由だろう。
このふたり、すごく息ぴったりで変な悪戯したりするからなぁ。困ったものである。年下であるはずのロニーさんのほうが、断然大人である。
『ちょっと落ち着こうよぉ。話くらいなら聞くよ?』
「君に話すことはない」
『もうちょい歩み寄ろう?』
尻尾を振って、へらっと笑ってみる。
敵意がないとアピールするのだが、アロンさんは半眼になってしまう。
あー、坊ちゃん助けてぇ。この人どうにかしてぇ。
『どうすれば満足なの? 髪の毛切る以外で』
上目遣いで問い掛ければ、アロンさんは考えるように眉間に皺を寄せた。
「ルイス様に近寄らないで」
『坊ちゃんがオレに近寄ってくるんだよ』
こっちは毎日のようにルイス坊ちゃんに追いかけ回されているんだけど。坊ちゃんは、オレの毛並みを気に入っているらしいのだが、扱いが相変わらず雑。先日もブラッシングしてくれたのはいいのだが、手付きが荒い。痛いと言ってもやめてくれないので、すごく疲れた。猫ちゃんの方は、なにも気にせずごろごろしていた。
『わかったわかった。アロンさんの邪魔はしないからそれでいい? というか、今までオレが邪魔したことなんてないでしょ?』
空気読んで大人しくしておくから、とゆっくり諭せば、アロンさんは不満の色を残しつつも頷いてくれた。
『よし、じゃあそういうことで! ばいばい!』
また変な絡み方をされても嫌なので、大急ぎでアロンさんから離れる。追いかけてくる気配はなく、ホッと胸を撫で下ろす。
そのまま廊下を歩いていれば、前方からルイス坊ちゃんが姿を見せた。
「綿毛ちゃん!」
『坊ちゃん。もう授業は終わったの?』
「おやつ食べよう!」
『オレの質問は無視かい?』
ガシッと、オレを両手で掴んで持ち上げる坊ちゃん。オレ、自分で歩けるけどねぇ。
「今日はなにしてたの? 誰かにお菓子もらった? 俺にちょうだい」
『もらってないよぉ?』
「綿毛ちゃん。俺がいない時に暴れてるの知ってるんだからな」
『オレがいつ暴れたよ』
オレは大人しい毛玉だよ。
お菓子を出せ! と騒ぎ出す坊ちゃんの相手は、やっぱり大変だ。
『出会い頭のひと言としては最悪だよねぇ』
まぁ、出会い頭でなくとも嫌な言葉だけど。
廊下でばったりと鉢合わせたアロンさんは、珍しく足を止めた。いつもはオレのことなんて気にしないのに。なにか用事かなぁ? と思ってオレも足を止めたところ、降ってきたのが冒頭の暴言である。
ルイス坊ちゃんがいないからといって、ここぞとばかりに酷いことを言うアロンさんは、「俺、動物嫌いなんだよね」とさらに遠慮のない物言いをしてくる。
『まぁ、人には好き嫌いってあるもんねぇ。でもオレは無害な毛玉だからさ。仲良くしてとは言わないから。せめて見逃してくれると嬉しいなぁ』
追い出されるのは、ごめんである。なにもしないから屋敷に置いてくださいと尻尾を振れば、アロンさんは「そういうことじゃない」と吐き捨てる。
どういうことぉ?
こてりと首を傾げれば、アロンさんがムスッと腕を組む。次の言葉を待っていれば、アロンさんは冷えた目でオレを見下してくる。
「ルイス様にベタベタしすぎ」
『……オレ毛玉だよぉ?』
「それでもダメ。ルイス様に近づくな」
『ひぇ、横暴』
アロンさんは、ルイス坊ちゃんに対する独占欲っていうのかな。なんかそんな感じのものが酷いと思う。まぁ、当のルイス坊ちゃんがあんまり気にしていないみたいだからいいけどさぁ。
『こんな小さい毛玉をそんなに警戒しなくても』
「君、人間になれるだろ」
『あー、うん。そうだけどさぁ。でも普通に可愛い毛玉だよ?』
前足をひょいひょい持ち上げて可愛いアピールをしてみるが、アロンさんは相変わらず冷たい表情だ。
『えっと。オレ、もう行くね』
特に用事はないけど、アロンさんとの会話が途切れたので足早に去ろうとするのだが、アロンさんが前方をふさいだまま退いてくれない。
「ちょっと人間になってみてよ」
『なんでぇ?』
ルイス坊ちゃんと同じこと言うじゃん。
嫌な予感がするのでお断りしてみるが、アロンさんは聞く耳を持たない。「どうやって人間になるの?」と、屈んでからオレの頭を掴んでくる。
『やめてぇ。掴まないでぇ』
ジタバタ暴れてやるが、アロンさんは涼しい顔。この人は、こういうところが厄介だ。ルイス坊ちゃんも我儘だが、坊ちゃんはお子様なのでどうにでもなる。最悪『そろそろおやつの時間じゃない?』とか適当なこと言って気を逸らすことができる。対して、アロンさんはそういう明らかな罠にかかってくれないので相手をするのが大変なのだ。
『人間になってどうするの。理由を言ってよ』
理由次第では、考えてあげないこともない。
するとアロンさんは、あっさりと白状した。
「君、髪が長いでしょ。切っていい?」
『逆になんでいいと思うのぉ?』
ルイス坊ちゃんは、少しでもオレが暑がるような素振りを見せると、すぐに「毛がもふもふだから暑いの!?」と言って毛を刈ろうとしてくる。なんだかそれと同じような危機感を覚えて、震えるオレ。
ルイス坊ちゃんは、髪の長い男の人が好きだ。長髪のオレは、アロンさんにとっては目障りなのだろう。
『嫌だよぉ。オレは別にルイス坊ちゃんのこと狙ってないから放っておいてよぉ』
「じゃあ髪を切って」
『話通じないねぇ?』
アロンさんの相手は面倒だな。
年齢的には大人のはずなのに、やることは結構子供っぽい。こういう精神年齢が幼いところが、ルイス坊ちゃんと気が合う理由だろう。
このふたり、すごく息ぴったりで変な悪戯したりするからなぁ。困ったものである。年下であるはずのロニーさんのほうが、断然大人である。
『ちょっと落ち着こうよぉ。話くらいなら聞くよ?』
「君に話すことはない」
『もうちょい歩み寄ろう?』
尻尾を振って、へらっと笑ってみる。
敵意がないとアピールするのだが、アロンさんは半眼になってしまう。
あー、坊ちゃん助けてぇ。この人どうにかしてぇ。
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上目遣いで問い掛ければ、アロンさんは考えるように眉間に皺を寄せた。
「ルイス様に近寄らないで」
『坊ちゃんがオレに近寄ってくるんだよ』
こっちは毎日のようにルイス坊ちゃんに追いかけ回されているんだけど。坊ちゃんは、オレの毛並みを気に入っているらしいのだが、扱いが相変わらず雑。先日もブラッシングしてくれたのはいいのだが、手付きが荒い。痛いと言ってもやめてくれないので、すごく疲れた。猫ちゃんの方は、なにも気にせずごろごろしていた。
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空気読んで大人しくしておくから、とゆっくり諭せば、アロンさんは不満の色を残しつつも頷いてくれた。
『よし、じゃあそういうことで! ばいばい!』
また変な絡み方をされても嫌なので、大急ぎでアロンさんから離れる。追いかけてくる気配はなく、ホッと胸を撫で下ろす。
そのまま廊下を歩いていれば、前方からルイス坊ちゃんが姿を見せた。
「綿毛ちゃん!」
『坊ちゃん。もう授業は終わったの?』
「おやつ食べよう!」
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ガシッと、オレを両手で掴んで持ち上げる坊ちゃん。オレ、自分で歩けるけどねぇ。
「今日はなにしてたの? 誰かにお菓子もらった? 俺にちょうだい」
『もらってないよぉ?』
「綿毛ちゃん。俺がいない時に暴れてるの知ってるんだからな」
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