301 / 930
14歳
362 ご紹介
しおりを挟む
それから数十分後。
ようやくフランシスと会えることになった。一体なにを揉めていたのだろうか。
フランシスが無礼なことをやらかすとは思えない。かといって、ブルース兄様が理由もなくフランシスを足止めするとも思えない。
首を捻りつつ、再びアロンとレナルドを伴って、玄関先へと足を向けると、そこには依然としてブルース兄様がいた。ロニーも一緒だ。
俺を見て、ちょっとだけ顔を顰めたブルース兄様。だが、すぐに諦めたようなため息を吐き出してしまう。俺、なにかした?
「ルイスくん」
けれども俺が口を開く前に。
ブルース兄様の後ろから、静かに声をかけられた。こちらにゆったりと歩いてくるのは、フランシスだ。
「フランシス。久しぶり」
「久しぶりだね」
にこっと笑みを浮かべるフランシスは、握手を求めてくる。それに応じながら、俺はぱちぱちと目を瞬く。
「フランシス。何歳?」
「ん? 二十だよ」
「二十歳」
大人だ。すごく大人だ。
前に会った時には、まだ十八歳だった。その時はちょっと大人っぽくなったなくらいで、どこかやんちゃっぽい雰囲気が残っていたのに。今はすごく落ち着いて、大人って感じだ。
あまりの変わりようにポカンとしていると、フランシスが小さく笑う。
なんだか注目されている。横に視線をずらせば、ブルース兄様たちの姿が目に入る。なんだか監視するような鋭い視線だ。
そういえば、ブルース兄様たちがフランシスを制止した理由がまだ不明である。
特に険悪な空気ではないが、どことなく緊張感が漂っている。改めてフランシスを見上げるが、彼は「ん?」と誤魔化すように微笑むばかり。これでは埒があかないので、フランシスの袖を引っ張って、耳元に口を寄せる。
「ブルース兄様と喧嘩した?」
「してないよ」
すかさず否定してくるが、なんだか怪しい。
「それより、ルイスくん」
「なに?」
姿勢を正したフランシスは、こほんと咳払いをする。そして、おもむろに「こちらへ」と背後に向かって手招きをする。ちょっと背伸びをして、フランシスの視線の先を確認してみる。
彼が連れてきたと思われる見知らぬ騎士たちの間から現れたのは、これまた初めて見る女の子であった。
「ルイスくん。紹介するね」
にこやかに女の子の背中に手を添えたフランシスは、俺の前に少女を案内する。
「彼女はリアーナ。ルイスくんと同い年だよ」
「はじめまして、ルイス様」
綺麗なドレスの裾をつまんで軽くお辞儀した少女は、俺と同じ十四歳だという。癖のない細い金髪を背中に垂らした色白の女の子だ。青い瞳もあいまってお人形さんみたいな見た目である。瞳と同じ色のドレスに包まれた華奢な体。
俺より少しだけ背が低いようだが、高いヒールのおかげで目線はあまり変わらない。
「はじめまして」
女の子を紹介されるなんて、初めての経験である。ぎこちなく頭を下げる俺は、助けを求めてフランシスに目をやるが、彼は緩く笑うだけで手を貸してはくれない。
ブルース兄様たちも、少し離れた場所から見守るだけで口出しはしてこない。
なにこれ。
きょろきょろする俺に、フランシスは苦笑してしまう。
「ルイスくん。僕はブルース様と話があるから。よければリアーナの相手をしてやってくれないかな」
「俺が?」
目を丸くする俺に構わず、リアーナが小さく頭を下げる。「よろしくお願いします、ルイス様」と柔らかくお願いされれば、断るという選択肢も消えてしまった。
宣言通りに、ブルース兄様の方へ寄って行くフランシス。
残された俺は、リアーナに向き直る。フランシスが兄様と話をする間、彼女の面倒を見ておけばいいらしい。とりあえず一緒に遊んでやろうと思うが、どうやって遊ぼうか。
いつもなら噴水に真っ先に足を運ぶのだが、同い年の女の子と噴水遊びはなんか違う気がした。あと彼女は高そうなドレス姿である。泥で汚したら絶対に怒られるような格好をしている。高いヒールも、走りまわるのには向いていない。
「なにして遊ぶ?」
迷った結果、俺はリアーナに判断を委ねることにした。こういう時、デニスなんかはお喋りしようと言い出す。もしかしたらリアーナもそういうタイプかもしれない。
黙って答えを待っていれば、彼女はふんわりと微笑んで「ルイス様のお好きなように」と俺に丸投げしてきた。ちょっとは考えてくれよ。
なぜかロニーもアロンも、少し離れたところから俺たちを見守っている。誰も口を挟んでこない。はっきり言って、変な空気だ。
噴水で遊ぼうって言ったら嫌がるかな。考えに考えた末、俺は屋敷の方を指差した。
「部屋でお茶でもする?」
フランシスやデニスがやりそうなことを真似してみる。あいつらは、こういう時には多分お茶しながらお喋りするのだ。
リアーナは、俺の提案にこくんと頷いた。
部屋に案内して、椅子に座らせてあげる。ジャンは、リアーナの姿を確認するなりキリッと表情を引き締めていた。部屋には、俺と彼女とジャンだけ。犬と猫もいるけど。ロニーは、なんだか困った顔をしながら廊下で待機すると言っていた。
「見て。猫と犬飼ってるの。触ってみる?」
白猫エリスちゃんを抱っこして、リアーナの膝に乗せてあげる。綿毛ちゃんの方が大人しくしてくれるんだけど、頭に生えている角がバレたらまずい。優しい手つきで猫を撫でるリアーナのことを、じっと観察する。エリスちゃんは我儘にゃんこなので、気に入らないことがあると大暴れするのだ。猫が大人しいことに安堵して、俺も向かいの席に腰掛ける。
フランシスが連れてきたということは、フランシスの知り合いだろう。だが、どういう関係なのかは不明だ。彼女の方も、リアーナと名乗るばかりでどこの誰であるかの説明がまったくない。
「猫と犬どっちが好き?」
適当に話題を投げてみると、彼女は「どちらも可愛いです」と曖昧な答えをよこしてくる。
「俺は猫派」
「そうなんですね」
なんだろうか、このゆったりとした感じは。のんびりとした空気を漂わせる彼女相手に、俺はどうしていいのかわからなくなる。
「フランシスとは、友達なの?」
「えぇ」
君はどこの誰なのぉ!? と叫びたくなる気持ちをグッと堪えて、にこにこ笑っておく。
たいして盛り上がらない会話。はやく戻ってきて、フランシス。あとベネットにまだ会えていない。俺はベネットと遊びたいのに。
思えば、ベネットは現在この屋敷にいる。すぐ近くにいるのに、会えないのはおかしくない?
そわそわと落ち着きなく周囲を見まわす俺に、リアーナは小首を傾げる。
「どうかしましたか、ルイス様」
「えっと。なんでもない」
ふるふると首を左右に振っておく。
リアーナへの接し方もいまいちわからない。今日はわからないことだらけだ。
「ルイス様は、猫がお好きなのですね」
「う、うん」
「私の屋敷にも、たまに猫が遊びに来ます。人が近寄るとすぐに逃げてしまうので、触ったことはないのですが」
「いいなぁ。俺も庭で猫捕まえたい」
ヴィアン家の屋敷は、広い割にあまり動物を見かけない。騎士たちが定期的に巡回したりと人が多いせいだろうか。もしかしたらブルース兄様がこっそり猫を追い出しているのかもしれない。
楽しそうにくすくす笑うリアーナは、上品な女の子であった。デニスも割とお上品だと思っていたのだが、あいつは俺に対する悪口を面と向かって言ってくるし、露骨に嫌そうな顔を見せたりする。その点、静かに微笑んでいるリアーナの方が、ずっとお上品である。本物のお嬢様みたいだ。
そうして少しお喋りしつつ穏やかな時間を過ごしていれば、ようやくフランシスがやって来た。
軽く片手をあげて挨拶する気さくなフランシスは、リアーナの隣に座ると「楽しかった?」と問いかけている。「えぇ、とても」と答えるリアーナは、どこまでが本心なのだろうか。自分で言うのもなんだが、俺は女の子が喜ぶような会話はできない。アロンだったら、そつなくこなすのだろうけど。
リアーナがお世辞を言っていることは丸わかりだ。本音では、あまり楽しくなかったと思っているはずである。だが、フランシスはその点について深く突っ込まない。「よかったね」と、にこにこしている。
そうして今度は、フランシスを交えてのお茶会が再開した。彼が交じると、途端に場が明るくなる。俺とリアーナは、ふたりで気まずく時折言葉をかわすだけだったのに。フランシスは、身振り手振りを使いながら、にこにこと愛想よく会話を進める。すごいな。
そうしてひと通り盛り上がった頃、フランシスは意味深な視線をリアーナに向ける。それを受けて、彼女は静かに立ち上がった。庭でも散歩してくると、わざとらしい言葉を残して退出してしまうリアーナは、まるで事前にフランシスと打ち合わせでもしていたみたいだった。
彼女の去った空間にて。フランシスはうんと伸びをすると「疲れた?」と苦笑しながら俺を見てくる。
「誰なの?」
「うーん。僕の知り合い」
「なんで連れてきたの?」
「君に会いたいって言うからさ。悪い子じゃなかっただろ?」
「うん」
彼女は猫を優しく触っていた。悪い人ではないと思う。
綿毛ちゃんが、俺の足元に寄ってくる。空気を読んで黙り込んでいるのだ。犬がお喋りできると、フランシスやリアーナに知られるわけにはいかないから。
「突然で悪かったね」
「いいよ。友達だもん。いつでも遊びに来てよ」
それにしてもベネットはどこだろうか。きょろきょろしていれば、フランシスが「友達ね」と呟く。
「僕とルイスくんは友達なの?」
「うん。そうでしょ」
前回会った時にも、友達だと言ったはずだ。
すんっと、なぜか真顔になったフランシスは、顎に手をやって、ついでに足も組む。
「じゃあ、友達としてお願いがあるんだけど」
「うん。なに?」
フランシスからのお願いなんて珍しい。俺にできることなら叶えてやりたい。じっとフランシスの瞳を覗き込めば、彼はふっと目を伏せた。
だが、またすぐに顔を上げたフランシス。その目は、真剣な色を帯びていた。
「彼女、いい子だろ」
「うん」
「ルイスくんさ」
「うん」
再び俺から視線を外したフランシスは、どこか別のところを見つめていた。
「リアーナと結婚してやってくれないかな」
ぼそっと投げられた言葉。その意味を理解して、俺は目を瞬いた。
ようやくフランシスと会えることになった。一体なにを揉めていたのだろうか。
フランシスが無礼なことをやらかすとは思えない。かといって、ブルース兄様が理由もなくフランシスを足止めするとも思えない。
首を捻りつつ、再びアロンとレナルドを伴って、玄関先へと足を向けると、そこには依然としてブルース兄様がいた。ロニーも一緒だ。
俺を見て、ちょっとだけ顔を顰めたブルース兄様。だが、すぐに諦めたようなため息を吐き出してしまう。俺、なにかした?
「ルイスくん」
けれども俺が口を開く前に。
ブルース兄様の後ろから、静かに声をかけられた。こちらにゆったりと歩いてくるのは、フランシスだ。
「フランシス。久しぶり」
「久しぶりだね」
にこっと笑みを浮かべるフランシスは、握手を求めてくる。それに応じながら、俺はぱちぱちと目を瞬く。
「フランシス。何歳?」
「ん? 二十だよ」
「二十歳」
大人だ。すごく大人だ。
前に会った時には、まだ十八歳だった。その時はちょっと大人っぽくなったなくらいで、どこかやんちゃっぽい雰囲気が残っていたのに。今はすごく落ち着いて、大人って感じだ。
あまりの変わりようにポカンとしていると、フランシスが小さく笑う。
なんだか注目されている。横に視線をずらせば、ブルース兄様たちの姿が目に入る。なんだか監視するような鋭い視線だ。
そういえば、ブルース兄様たちがフランシスを制止した理由がまだ不明である。
特に険悪な空気ではないが、どことなく緊張感が漂っている。改めてフランシスを見上げるが、彼は「ん?」と誤魔化すように微笑むばかり。これでは埒があかないので、フランシスの袖を引っ張って、耳元に口を寄せる。
「ブルース兄様と喧嘩した?」
「してないよ」
すかさず否定してくるが、なんだか怪しい。
「それより、ルイスくん」
「なに?」
姿勢を正したフランシスは、こほんと咳払いをする。そして、おもむろに「こちらへ」と背後に向かって手招きをする。ちょっと背伸びをして、フランシスの視線の先を確認してみる。
彼が連れてきたと思われる見知らぬ騎士たちの間から現れたのは、これまた初めて見る女の子であった。
「ルイスくん。紹介するね」
にこやかに女の子の背中に手を添えたフランシスは、俺の前に少女を案内する。
「彼女はリアーナ。ルイスくんと同い年だよ」
「はじめまして、ルイス様」
綺麗なドレスの裾をつまんで軽くお辞儀した少女は、俺と同じ十四歳だという。癖のない細い金髪を背中に垂らした色白の女の子だ。青い瞳もあいまってお人形さんみたいな見た目である。瞳と同じ色のドレスに包まれた華奢な体。
俺より少しだけ背が低いようだが、高いヒールのおかげで目線はあまり変わらない。
「はじめまして」
女の子を紹介されるなんて、初めての経験である。ぎこちなく頭を下げる俺は、助けを求めてフランシスに目をやるが、彼は緩く笑うだけで手を貸してはくれない。
ブルース兄様たちも、少し離れた場所から見守るだけで口出しはしてこない。
なにこれ。
きょろきょろする俺に、フランシスは苦笑してしまう。
「ルイスくん。僕はブルース様と話があるから。よければリアーナの相手をしてやってくれないかな」
「俺が?」
目を丸くする俺に構わず、リアーナが小さく頭を下げる。「よろしくお願いします、ルイス様」と柔らかくお願いされれば、断るという選択肢も消えてしまった。
宣言通りに、ブルース兄様の方へ寄って行くフランシス。
残された俺は、リアーナに向き直る。フランシスが兄様と話をする間、彼女の面倒を見ておけばいいらしい。とりあえず一緒に遊んでやろうと思うが、どうやって遊ぼうか。
いつもなら噴水に真っ先に足を運ぶのだが、同い年の女の子と噴水遊びはなんか違う気がした。あと彼女は高そうなドレス姿である。泥で汚したら絶対に怒られるような格好をしている。高いヒールも、走りまわるのには向いていない。
「なにして遊ぶ?」
迷った結果、俺はリアーナに判断を委ねることにした。こういう時、デニスなんかはお喋りしようと言い出す。もしかしたらリアーナもそういうタイプかもしれない。
黙って答えを待っていれば、彼女はふんわりと微笑んで「ルイス様のお好きなように」と俺に丸投げしてきた。ちょっとは考えてくれよ。
なぜかロニーもアロンも、少し離れたところから俺たちを見守っている。誰も口を挟んでこない。はっきり言って、変な空気だ。
噴水で遊ぼうって言ったら嫌がるかな。考えに考えた末、俺は屋敷の方を指差した。
「部屋でお茶でもする?」
フランシスやデニスがやりそうなことを真似してみる。あいつらは、こういう時には多分お茶しながらお喋りするのだ。
リアーナは、俺の提案にこくんと頷いた。
部屋に案内して、椅子に座らせてあげる。ジャンは、リアーナの姿を確認するなりキリッと表情を引き締めていた。部屋には、俺と彼女とジャンだけ。犬と猫もいるけど。ロニーは、なんだか困った顔をしながら廊下で待機すると言っていた。
「見て。猫と犬飼ってるの。触ってみる?」
白猫エリスちゃんを抱っこして、リアーナの膝に乗せてあげる。綿毛ちゃんの方が大人しくしてくれるんだけど、頭に生えている角がバレたらまずい。優しい手つきで猫を撫でるリアーナのことを、じっと観察する。エリスちゃんは我儘にゃんこなので、気に入らないことがあると大暴れするのだ。猫が大人しいことに安堵して、俺も向かいの席に腰掛ける。
フランシスが連れてきたということは、フランシスの知り合いだろう。だが、どういう関係なのかは不明だ。彼女の方も、リアーナと名乗るばかりでどこの誰であるかの説明がまったくない。
「猫と犬どっちが好き?」
適当に話題を投げてみると、彼女は「どちらも可愛いです」と曖昧な答えをよこしてくる。
「俺は猫派」
「そうなんですね」
なんだろうか、このゆったりとした感じは。のんびりとした空気を漂わせる彼女相手に、俺はどうしていいのかわからなくなる。
「フランシスとは、友達なの?」
「えぇ」
君はどこの誰なのぉ!? と叫びたくなる気持ちをグッと堪えて、にこにこ笑っておく。
たいして盛り上がらない会話。はやく戻ってきて、フランシス。あとベネットにまだ会えていない。俺はベネットと遊びたいのに。
思えば、ベネットは現在この屋敷にいる。すぐ近くにいるのに、会えないのはおかしくない?
そわそわと落ち着きなく周囲を見まわす俺に、リアーナは小首を傾げる。
「どうかしましたか、ルイス様」
「えっと。なんでもない」
ふるふると首を左右に振っておく。
リアーナへの接し方もいまいちわからない。今日はわからないことだらけだ。
「ルイス様は、猫がお好きなのですね」
「う、うん」
「私の屋敷にも、たまに猫が遊びに来ます。人が近寄るとすぐに逃げてしまうので、触ったことはないのですが」
「いいなぁ。俺も庭で猫捕まえたい」
ヴィアン家の屋敷は、広い割にあまり動物を見かけない。騎士たちが定期的に巡回したりと人が多いせいだろうか。もしかしたらブルース兄様がこっそり猫を追い出しているのかもしれない。
楽しそうにくすくす笑うリアーナは、上品な女の子であった。デニスも割とお上品だと思っていたのだが、あいつは俺に対する悪口を面と向かって言ってくるし、露骨に嫌そうな顔を見せたりする。その点、静かに微笑んでいるリアーナの方が、ずっとお上品である。本物のお嬢様みたいだ。
そうして少しお喋りしつつ穏やかな時間を過ごしていれば、ようやくフランシスがやって来た。
軽く片手をあげて挨拶する気さくなフランシスは、リアーナの隣に座ると「楽しかった?」と問いかけている。「えぇ、とても」と答えるリアーナは、どこまでが本心なのだろうか。自分で言うのもなんだが、俺は女の子が喜ぶような会話はできない。アロンだったら、そつなくこなすのだろうけど。
リアーナがお世辞を言っていることは丸わかりだ。本音では、あまり楽しくなかったと思っているはずである。だが、フランシスはその点について深く突っ込まない。「よかったね」と、にこにこしている。
そうして今度は、フランシスを交えてのお茶会が再開した。彼が交じると、途端に場が明るくなる。俺とリアーナは、ふたりで気まずく時折言葉をかわすだけだったのに。フランシスは、身振り手振りを使いながら、にこにこと愛想よく会話を進める。すごいな。
そうしてひと通り盛り上がった頃、フランシスは意味深な視線をリアーナに向ける。それを受けて、彼女は静かに立ち上がった。庭でも散歩してくると、わざとらしい言葉を残して退出してしまうリアーナは、まるで事前にフランシスと打ち合わせでもしていたみたいだった。
彼女の去った空間にて。フランシスはうんと伸びをすると「疲れた?」と苦笑しながら俺を見てくる。
「誰なの?」
「うーん。僕の知り合い」
「なんで連れてきたの?」
「君に会いたいって言うからさ。悪い子じゃなかっただろ?」
「うん」
彼女は猫を優しく触っていた。悪い人ではないと思う。
綿毛ちゃんが、俺の足元に寄ってくる。空気を読んで黙り込んでいるのだ。犬がお喋りできると、フランシスやリアーナに知られるわけにはいかないから。
「突然で悪かったね」
「いいよ。友達だもん。いつでも遊びに来てよ」
それにしてもベネットはどこだろうか。きょろきょろしていれば、フランシスが「友達ね」と呟く。
「僕とルイスくんは友達なの?」
「うん。そうでしょ」
前回会った時にも、友達だと言ったはずだ。
すんっと、なぜか真顔になったフランシスは、顎に手をやって、ついでに足も組む。
「じゃあ、友達としてお願いがあるんだけど」
「うん。なに?」
フランシスからのお願いなんて珍しい。俺にできることなら叶えてやりたい。じっとフランシスの瞳を覗き込めば、彼はふっと目を伏せた。
だが、またすぐに顔を上げたフランシス。その目は、真剣な色を帯びていた。
「彼女、いい子だろ」
「うん」
「ルイスくんさ」
「うん」
再び俺から視線を外したフランシスは、どこか別のところを見つめていた。
「リアーナと結婚してやってくれないかな」
ぼそっと投げられた言葉。その意味を理解して、俺は目を瞬いた。
1,665
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。