嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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14歳

362 ご紹介

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 それから数十分後。
 ようやくフランシスと会えることになった。一体なにを揉めていたのだろうか。

 フランシスが無礼なことをやらかすとは思えない。かといって、ブルース兄様が理由もなくフランシスを足止めするとも思えない。

 首を捻りつつ、再びアロンとレナルドを伴って、玄関先へと足を向けると、そこには依然としてブルース兄様がいた。ロニーも一緒だ。

 俺を見て、ちょっとだけ顔を顰めたブルース兄様。だが、すぐに諦めたようなため息を吐き出してしまう。俺、なにかした?

「ルイスくん」

 けれども俺が口を開く前に。
 ブルース兄様の後ろから、静かに声をかけられた。こちらにゆったりと歩いてくるのは、フランシスだ。

「フランシス。久しぶり」
「久しぶりだね」

 にこっと笑みを浮かべるフランシスは、握手を求めてくる。それに応じながら、俺はぱちぱちと目を瞬く。

「フランシス。何歳?」
「ん? 二十だよ」
「二十歳」

 大人だ。すごく大人だ。
 前に会った時には、まだ十八歳だった。その時はちょっと大人っぽくなったなくらいで、どこかやんちゃっぽい雰囲気が残っていたのに。今はすごく落ち着いて、大人って感じだ。

 あまりの変わりようにポカンとしていると、フランシスが小さく笑う。

 なんだか注目されている。横に視線をずらせば、ブルース兄様たちの姿が目に入る。なんだか監視するような鋭い視線だ。

 そういえば、ブルース兄様たちがフランシスを制止した理由がまだ不明である。

 特に険悪な空気ではないが、どことなく緊張感が漂っている。改めてフランシスを見上げるが、彼は「ん?」と誤魔化すように微笑むばかり。これでは埒があかないので、フランシスの袖を引っ張って、耳元に口を寄せる。

「ブルース兄様と喧嘩した?」
「してないよ」

 すかさず否定してくるが、なんだか怪しい。

「それより、ルイスくん」
「なに?」

 姿勢を正したフランシスは、こほんと咳払いをする。そして、おもむろに「こちらへ」と背後に向かって手招きをする。ちょっと背伸びをして、フランシスの視線の先を確認してみる。

 彼が連れてきたと思われる見知らぬ騎士たちの間から現れたのは、これまた初めて見る女の子であった。

「ルイスくん。紹介するね」

 にこやかに女の子の背中に手を添えたフランシスは、俺の前に少女を案内する。

「彼女はリアーナ。ルイスくんと同い年だよ」
「はじめまして、ルイス様」

 綺麗なドレスの裾をつまんで軽くお辞儀した少女は、俺と同じ十四歳だという。癖のない細い金髪を背中に垂らした色白の女の子だ。青い瞳もあいまってお人形さんみたいな見た目である。瞳と同じ色のドレスに包まれた華奢な体。

 俺より少しだけ背が低いようだが、高いヒールのおかげで目線はあまり変わらない。

「はじめまして」

 女の子を紹介されるなんて、初めての経験である。ぎこちなく頭を下げる俺は、助けを求めてフランシスに目をやるが、彼は緩く笑うだけで手を貸してはくれない。

 ブルース兄様たちも、少し離れた場所から見守るだけで口出しはしてこない。

 なにこれ。

 きょろきょろする俺に、フランシスは苦笑してしまう。

「ルイスくん。僕はブルース様と話があるから。よければリアーナの相手をしてやってくれないかな」
「俺が?」

 目を丸くする俺に構わず、リアーナが小さく頭を下げる。「よろしくお願いします、ルイス様」と柔らかくお願いされれば、断るという選択肢も消えてしまった。

 宣言通りに、ブルース兄様の方へ寄って行くフランシス。

 残された俺は、リアーナに向き直る。フランシスが兄様と話をする間、彼女の面倒を見ておけばいいらしい。とりあえず一緒に遊んでやろうと思うが、どうやって遊ぼうか。

 いつもなら噴水に真っ先に足を運ぶのだが、同い年の女の子と噴水遊びはなんか違う気がした。あと彼女は高そうなドレス姿である。泥で汚したら絶対に怒られるような格好をしている。高いヒールも、走りまわるのには向いていない。

「なにして遊ぶ?」

 迷った結果、俺はリアーナに判断を委ねることにした。こういう時、デニスなんかはお喋りしようと言い出す。もしかしたらリアーナもそういうタイプかもしれない。

 黙って答えを待っていれば、彼女はふんわりと微笑んで「ルイス様のお好きなように」と俺に丸投げしてきた。ちょっとは考えてくれよ。

 なぜかロニーもアロンも、少し離れたところから俺たちを見守っている。誰も口を挟んでこない。はっきり言って、変な空気だ。

 噴水で遊ぼうって言ったら嫌がるかな。考えに考えた末、俺は屋敷の方を指差した。

「部屋でお茶でもする?」

 フランシスやデニスがやりそうなことを真似してみる。あいつらは、こういう時には多分お茶しながらお喋りするのだ。

 リアーナは、俺の提案にこくんと頷いた。

 部屋に案内して、椅子に座らせてあげる。ジャンは、リアーナの姿を確認するなりキリッと表情を引き締めていた。部屋には、俺と彼女とジャンだけ。犬と猫もいるけど。ロニーは、なんだか困った顔をしながら廊下で待機すると言っていた。

「見て。猫と犬飼ってるの。触ってみる?」

 白猫エリスちゃんを抱っこして、リアーナの膝に乗せてあげる。綿毛ちゃんの方が大人しくしてくれるんだけど、頭に生えている角がバレたらまずい。優しい手つきで猫を撫でるリアーナのことを、じっと観察する。エリスちゃんは我儘にゃんこなので、気に入らないことがあると大暴れするのだ。猫が大人しいことに安堵して、俺も向かいの席に腰掛ける。

 フランシスが連れてきたということは、フランシスの知り合いだろう。だが、どういう関係なのかは不明だ。彼女の方も、リアーナと名乗るばかりでどこの誰であるかの説明がまったくない。

「猫と犬どっちが好き?」

 適当に話題を投げてみると、彼女は「どちらも可愛いです」と曖昧な答えをよこしてくる。

「俺は猫派」
「そうなんですね」

 なんだろうか、このゆったりとした感じは。のんびりとした空気を漂わせる彼女相手に、俺はどうしていいのかわからなくなる。

「フランシスとは、友達なの?」
「えぇ」

 君はどこの誰なのぉ!? と叫びたくなる気持ちをグッと堪えて、にこにこ笑っておく。

 たいして盛り上がらない会話。はやく戻ってきて、フランシス。あとベネットにまだ会えていない。俺はベネットと遊びたいのに。

 思えば、ベネットは現在この屋敷にいる。すぐ近くにいるのに、会えないのはおかしくない?

 そわそわと落ち着きなく周囲を見まわす俺に、リアーナは小首を傾げる。

「どうかしましたか、ルイス様」
「えっと。なんでもない」

 ふるふると首を左右に振っておく。
 リアーナへの接し方もいまいちわからない。今日はわからないことだらけだ。

「ルイス様は、猫がお好きなのですね」
「う、うん」
「私の屋敷にも、たまに猫が遊びに来ます。人が近寄るとすぐに逃げてしまうので、触ったことはないのですが」
「いいなぁ。俺も庭で猫捕まえたい」

 ヴィアン家の屋敷は、広い割にあまり動物を見かけない。騎士たちが定期的に巡回したりと人が多いせいだろうか。もしかしたらブルース兄様がこっそり猫を追い出しているのかもしれない。

 楽しそうにくすくす笑うリアーナは、上品な女の子であった。デニスも割とお上品だと思っていたのだが、あいつは俺に対する悪口を面と向かって言ってくるし、露骨に嫌そうな顔を見せたりする。その点、静かに微笑んでいるリアーナの方が、ずっとお上品である。本物のお嬢様みたいだ。

 そうして少しお喋りしつつ穏やかな時間を過ごしていれば、ようやくフランシスがやって来た。

 軽く片手をあげて挨拶する気さくなフランシスは、リアーナの隣に座ると「楽しかった?」と問いかけている。「えぇ、とても」と答えるリアーナは、どこまでが本心なのだろうか。自分で言うのもなんだが、俺は女の子が喜ぶような会話はできない。アロンだったら、そつなくこなすのだろうけど。

 リアーナがお世辞を言っていることは丸わかりだ。本音では、あまり楽しくなかったと思っているはずである。だが、フランシスはその点について深く突っ込まない。「よかったね」と、にこにこしている。

 そうして今度は、フランシスを交えてのお茶会が再開した。彼が交じると、途端に場が明るくなる。俺とリアーナは、ふたりで気まずく時折言葉をかわすだけだったのに。フランシスは、身振り手振りを使いながら、にこにこと愛想よく会話を進める。すごいな。

 そうしてひと通り盛り上がった頃、フランシスは意味深な視線をリアーナに向ける。それを受けて、彼女は静かに立ち上がった。庭でも散歩してくると、わざとらしい言葉を残して退出してしまうリアーナは、まるで事前にフランシスと打ち合わせでもしていたみたいだった。

 彼女の去った空間にて。フランシスはうんと伸びをすると「疲れた?」と苦笑しながら俺を見てくる。

「誰なの?」
「うーん。僕の知り合い」
「なんで連れてきたの?」
「君に会いたいって言うからさ。悪い子じゃなかっただろ?」
「うん」

 彼女は猫を優しく触っていた。悪い人ではないと思う。
 綿毛ちゃんが、俺の足元に寄ってくる。空気を読んで黙り込んでいるのだ。犬がお喋りできると、フランシスやリアーナに知られるわけにはいかないから。

「突然で悪かったね」
「いいよ。友達だもん。いつでも遊びに来てよ」

 それにしてもベネットはどこだろうか。きょろきょろしていれば、フランシスが「友達ね」と呟く。

「僕とルイスくんは友達なの?」
「うん。そうでしょ」

 前回会った時にも、友達だと言ったはずだ。
 すんっと、なぜか真顔になったフランシスは、顎に手をやって、ついでに足も組む。

「じゃあ、友達としてお願いがあるんだけど」
「うん。なに?」

 フランシスからのお願いなんて珍しい。俺にできることなら叶えてやりたい。じっとフランシスの瞳を覗き込めば、彼はふっと目を伏せた。

 だが、またすぐに顔を上げたフランシス。その目は、真剣な色を帯びていた。

「彼女、いい子だろ」
「うん」
「ルイスくんさ」
「うん」

 再び俺から視線を外したフランシスは、どこか別のところを見つめていた。

「リアーナと結婚してやってくれないかな」

 ぼそっと投げられた言葉。その意味を理解して、俺は目を瞬いた。
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