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12歳

309 また明日にして

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「魔導書どこ?」

 黙り込むユリスは、ベッドに横になってしまう。知らないふりを続けるつもりらしい。嫌なお子様だ。

 うるうると、俺を見上げてくる綿毛ちゃん。泣きそうになっている毛玉に、なんだか心が痛む。

 無言で立ち上がって、本棚へと駆け寄る。ユリスが無視するなら、勝手に探すだけである。期待に満ちた表情で、ついてくる綿毛ちゃんと一緒に、本棚を眺める。暗くてよくわからない上に、ユリスが鼻で笑っている。おそらく、本棚にはないのだろう。

 ユリスが隠しそうな場所かぁ。

 ユリスは賢くみえて、意外とお子様である。多分、そんなに変なところには隠していない気がする。

 ベッドでのんびりと寛ぐユリス。その余裕溢れる態度に、ピンとくる。

「……」

 カツカツと、ベッドに近寄る。なんというか、うん。隠し場所の定番があるではないか。迷いなく進む俺を見て、ユリスが真顔になる。これで確信した。

 しゃがみ込んで、ベッドの下を覗く。暗くてよくわからないが、手を突っ込んで探れば、なにかが手に当たった。

「あった!」

 だが、微妙に届かない。指先が掠めるのだが、引っ張り出せない。うんうん格闘していれば、綿毛ちゃんがベッドの下へと潜り込んでいく。

 狭いけど大丈夫か?

「頑張れ、犬」

 手伝ってやろうと綿毛ちゃんのお尻をぐいっと押せば、『うわ、びっくりした』と、驚かせてしまった。そのまま、ふんふんと奮闘する綿毛ちゃんは、魔導書を器用に引き出し始める。

「おい。それは僕のだぞ」
「綿毛ちゃんのだってよ」
「いいや、僕のものだ」

 頑固なユリスは、ベッドの上から手を伸ばして、せっかく綿毛ちゃんが持ってきた魔導書を取り上げてしまう。

「泥棒!」
「だからこれは僕のだ」

 油断も隙もないと、そっぽを向くユリスは、魔導書を抱え込んでしまう。

「それ、綿毛ちゃんのだって!」
「なんだおまえは。なぜ、突然出てきた犬の話を鵜呑みにするんだ」

 不機嫌ユリスは、さっさと出て行けと雑に手を振る。

「だって喋る犬だよ。すごくない?」
「だからなんだ。犬が喋ることと、そいつの話を信用することは別問題だろ」

 そうかな。よくわからない。でも綿毛ちゃんは、すごくもふもふしている。こんなもふもふが、嘘をつくわけがないと思う。そう説明するが、ユリスは冷たい目になってしまう。

『あのぉ、オレの魔導書返してくれない?』

 遠慮がちに、短い足をひょいひょいと動かす綿毛ちゃん。反射で握れば、『握手かい?』となんだか弾んだ声が返ってきた。

「犬の肉球」
『オレ、犬じゃないけどね』

 肉球をもみもみしながら、ユリスを振り返る。魔導書を抱えたままのユリスは、綿毛ちゃんのことを警戒している。

「その魔導書、何に使うの?」

 正直、あれはユリスのコレクションとなっている。実際に使用することはない。だったら、別にユリスの手元になくてもいいのではと訊いてみるが、ユリスは不機嫌なままである。どうしても手元に置いておきたいらしい。

「そもそも、これが犬の物だという証拠がない」
『ひどい。オレのなのに』

 うーん。
 だが、ユリスの言うことも一理あるかもしれない。綿毛ちゃんは、突然俺の前に現れて、魔導書が自分の物だと主張するだけだ。どうして綿毛ちゃんのものなのか、一切説明がない。

 どうするべきか、考える。
 頑張って考えるのだが、今は眠い。

「また、明日考えよう」
『なんで。そんなこと言わないでよぉ』

 綿毛ちゃんが縋ってくるが、もう眠い。

 猫をベッドの端に移動させて、綿毛ちゃんも隣に並べる。猫と仲良くしろよと言い聞かせれば、『まだ話は終わってないけど?』と、不満そうな声が聞こえてくる。

「もう遅いから。明日ね」
『明日って言われても。オレは魔導書さえ渡してもらえれば、それでいいんだけど』
「うるさい。寝ろ!」
『なにその横暴さ。怖いよぉ』

 些細なことで震える綿毛ちゃんを無視して、ベッドに寝転ぶ。隣では、ユリスがすでに寝息をたてている。

『マジかよ。明日もこの子たちに付き合わないといけないのかよ』

 嫌だよぉ、とぶつぶつ言っている綿毛ちゃんの頭を、ペシッと叩いておく。

「うるさいぞ! 犬!」
『えーん、えーん。マジで帰りたい』

 わざとらしい泣き真似を横目に、俺は目を閉じた。
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