嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

文字の大きさ
209 / 930
11歳

275 疑いの目

しおりを挟む
 颯爽と出て行くラッセルのあとを追いかける。俺に気が付いたラッセルが、怪訝な顔で足を止めた。オーガス兄様はついてくる様子がない。

「ルイス様」
「俺も行く」
「え」

 面食らったラッセルは、俺の後ろにいたジャンへと視線を遣っている。しかし、ジャンは困ったように眉尻を下げるだけで、特に何も言わない。いつものことである。ジャンに頼ってもどうにもならないと悟ったのだろう。すぐに俺へと向き直ったラッセルは、丁寧に言葉を選んでいる。

「ルイス様は、お部屋でお待ちください。私にお任せくだされば、すぐにでもユリス様を見つけてきますから」

 少し屈んで、優しく微笑んでくるラッセル。どうやら俺のことを邪魔者扱いするつもりらしい。だが、オーガス兄様は頼りにならない。俺もユリスを探しに行った方がはやい気がする。

「いや」
「しかし」
「ユリスが心配。俺も行く」

 邪魔しないからと白猫を差し出せば、ラッセルは困惑したように白猫を見つめている。触らないのか? 可愛いもふもふで誤魔化そうとしたのだが、ラッセルは動きを止めてしまった。

 しばし固まっていたラッセルだが、気を取り直したのか、一度大きく頷くと「私から離れないでくださいね」と言い聞かせてくる。うんうん頷いて、早速ラッセルと共にユリス捜索へと乗り出した。さすが忖度お兄さん。物分かりが非常によろしい。

「ユリス様が足を運びそうな場所に心当たりは?」
「うーん」

 正直、ユリスは引きこもりというイメージが強い。自室以外に、彼が積極的に足を運びそうなところってどこだろうか。

 屋敷内は、すでに使用人たちにより大捜索が行われている。ここは手が足りていると判断したラッセルは、迷いなく外へと出る。

 けれども玄関先に、思わぬ姿を見つけた。

「アロン!」
「おはようございます、ルイス様」

 ひらりと手を振ったアロンは、玄関先で偉そうに仁王立ちしていた。おそらく彼も、ユリスの捜索にあたっているはずなのだが、こんなところに突っ立って何をしているのだろうか。まさか本日もサボりだろうか。

 その疑問を口にする間もなく、こちらに歩み寄ってきたアロンは、真っ直ぐにラッセルの肩へと腕をまわした。

 うえーい、と変な声をあげるアロンは、さながら友達に絡みに行くような気軽さで、ラッセルと親しげに肩を組む。

 これに困惑したのは、ラッセルだった。

「あの、アロン殿?」
「お久しぶりです、隊長殿」
「あ、はい。お久しぶりですね」

 こうして並ぶと、アロンの方が背が高い。アロンの奇行に動揺するラッセルは、俺に助けを求めてくる。

「やめなよ、アロン」
「なんでですか?」
「ラッセルが困ってるよ」
「へー」

 興味なさそうに応じたアロンは、やめる気配がない。きょろきょろと周囲を確認するが、ブルース兄様の姿は見えない。

「それで? ユリス様はどこですか」

 じっとラッセルの顔を覗き込むアロンは、その親しげな仕草に反して、険しい表情をしていた。

 今から探しに、と口にしたラッセルは、なんだか顔色が悪くなっていく。アロンの言葉の意味を理解したといった感じで勢いよくアロンの腕を振り払おうとするが、アロンはそう簡単には隙を見せない。逆にガッチリとラッセルを羽交締めにしてみせたアロンは、ニヤリと口角を持ち上げる。悪い笑みだ。こんな時だけ手際がいいな。

「ちょっと待ってください! もしかして私のこと疑ってます⁉︎」
「そりゃあね。王立騎士団にはルイス様を連れ去った前科があるんで」
「それは第二部隊の話ですよ! 一緒にしないでいただきたい!」

 必死に否定するラッセル。どうやらアロンは、ラッセルがユリスをどこかへ連れ去ったと考えているらしい。

 その可能性は、まったく考えていなかった。さすがクソ野郎。目の付け所が違うな。

「ちょっ、助けてください! ルイス様!」

 助けてと言われても。一応、アロンにやめなよと伝えるが、「嫌ですよ」とシンプルな拒絶が返ってきた。

「ラッセル。犯人なのか?」
「違いますよ!」

 食い気味に否定するラッセルは、焦りまくりで冷静さを失っていた。まさか犯人扱いされるとは、想像もしていなかったらしい。

「私がオーガス様に喧嘩を売るわけがないでしょ!」

 なにやら大声で主張しているが、それは嘘である。先程まで、オーガス兄様とバチバチに喧嘩していた。それをアロンに告げ口すれば、ラッセルがますます青い顔になる。

「いえ、あの。それは違いますよ。本当に! 私じゃありません!」

 ひたすらに違うと繰り返すラッセルは、なんだか憐れであった。
しおりを挟む
感想 724

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。