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11歳

275 疑いの目

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 颯爽と出て行くラッセルのあとを追いかける。俺に気が付いたラッセルが、怪訝な顔で足を止めた。オーガス兄様はついてくる様子がない。

「ルイス様」
「俺も行く」
「え」

 面食らったラッセルは、俺の後ろにいたジャンへと視線を遣っている。しかし、ジャンは困ったように眉尻を下げるだけで、特に何も言わない。いつものことである。ジャンに頼ってもどうにもならないと悟ったのだろう。すぐに俺へと向き直ったラッセルは、丁寧に言葉を選んでいる。

「ルイス様は、お部屋でお待ちください。私にお任せくだされば、すぐにでもユリス様を見つけてきますから」

 少し屈んで、優しく微笑んでくるラッセル。どうやら俺のことを邪魔者扱いするつもりらしい。だが、オーガス兄様は頼りにならない。俺もユリスを探しに行った方がはやい気がする。

「いや」
「しかし」
「ユリスが心配。俺も行く」

 邪魔しないからと白猫を差し出せば、ラッセルは困惑したように白猫を見つめている。触らないのか? 可愛いもふもふで誤魔化そうとしたのだが、ラッセルは動きを止めてしまった。

 しばし固まっていたラッセルだが、気を取り直したのか、一度大きく頷くと「私から離れないでくださいね」と言い聞かせてくる。うんうん頷いて、早速ラッセルと共にユリス捜索へと乗り出した。さすが忖度お兄さん。物分かりが非常によろしい。

「ユリス様が足を運びそうな場所に心当たりは?」
「うーん」

 正直、ユリスは引きこもりというイメージが強い。自室以外に、彼が積極的に足を運びそうなところってどこだろうか。

 屋敷内は、すでに使用人たちにより大捜索が行われている。ここは手が足りていると判断したラッセルは、迷いなく外へと出る。

 けれども玄関先に、思わぬ姿を見つけた。

「アロン!」
「おはようございます、ルイス様」

 ひらりと手を振ったアロンは、玄関先で偉そうに仁王立ちしていた。おそらく彼も、ユリスの捜索にあたっているはずなのだが、こんなところに突っ立って何をしているのだろうか。まさか本日もサボりだろうか。

 その疑問を口にする間もなく、こちらに歩み寄ってきたアロンは、真っ直ぐにラッセルの肩へと腕をまわした。

 うえーい、と変な声をあげるアロンは、さながら友達に絡みに行くような気軽さで、ラッセルと親しげに肩を組む。

 これに困惑したのは、ラッセルだった。

「あの、アロン殿?」
「お久しぶりです、隊長殿」
「あ、はい。お久しぶりですね」

 こうして並ぶと、アロンの方が背が高い。アロンの奇行に動揺するラッセルは、俺に助けを求めてくる。

「やめなよ、アロン」
「なんでですか?」
「ラッセルが困ってるよ」
「へー」

 興味なさそうに応じたアロンは、やめる気配がない。きょろきょろと周囲を確認するが、ブルース兄様の姿は見えない。

「それで? ユリス様はどこですか」

 じっとラッセルの顔を覗き込むアロンは、その親しげな仕草に反して、険しい表情をしていた。

 今から探しに、と口にしたラッセルは、なんだか顔色が悪くなっていく。アロンの言葉の意味を理解したといった感じで勢いよくアロンの腕を振り払おうとするが、アロンはそう簡単には隙を見せない。逆にガッチリとラッセルを羽交締めにしてみせたアロンは、ニヤリと口角を持ち上げる。悪い笑みだ。こんな時だけ手際がいいな。

「ちょっと待ってください! もしかして私のこと疑ってます⁉︎」
「そりゃあね。王立騎士団にはルイス様を連れ去った前科があるんで」
「それは第二部隊の話ですよ! 一緒にしないでいただきたい!」

 必死に否定するラッセル。どうやらアロンは、ラッセルがユリスをどこかへ連れ去ったと考えているらしい。

 その可能性は、まったく考えていなかった。さすがクソ野郎。目の付け所が違うな。

「ちょっ、助けてください! ルイス様!」

 助けてと言われても。一応、アロンにやめなよと伝えるが、「嫌ですよ」とシンプルな拒絶が返ってきた。

「ラッセル。犯人なのか?」
「違いますよ!」

 食い気味に否定するラッセルは、焦りまくりで冷静さを失っていた。まさか犯人扱いされるとは、想像もしていなかったらしい。

「私がオーガス様に喧嘩を売るわけがないでしょ!」

 なにやら大声で主張しているが、それは嘘である。先程まで、オーガス兄様とバチバチに喧嘩していた。それをアロンに告げ口すれば、ラッセルがますます青い顔になる。

「いえ、あの。それは違いますよ。本当に! 私じゃありません!」

 ひたすらに違うと繰り返すラッセルは、なんだか憐れであった。
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