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11歳
276 出世のプロ
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ラッセルをがっちり拘束したまま放さないアロンは、すっかりラッセルを犯人扱いしていた。遠い目をするラッセルは、冷や汗たらたらである。
「……とりあえず、放してもらえませんか?」
「そうしたら逃げるじゃないですか」
「逃げませんよ。やましいことなんて、ひとつもありませんから」
キリッと断言するラッセルは、かっこよかった。アロンよりかっこいいと口を滑らせたところ、アロンが不服と眉間に皺を寄せた。
「でも第一部隊って上に言われたことには絶対なんですよね?」
「そうですけど。だからこそ、私がオーガス様に楯突くと思いますか?」
確かに。ああ見えて、オーガス兄様は結構偉い人である。ちらっと聞いたのだが、王位継承権もあるらしい。次期国王はエリックで決まりだから、オーガス兄様にその座がまわってくることはないだろうけど。
ということで、権力に弱いラッセルがオーガス兄様を敵にまわすとは考え難い。しかし、アロンは納得しない。
「とか言って。エリック殿下とオーガス様、どちらか片方選ぶなら、どっちですか」
「そりゃあ、エリック殿下が優先ですが」
そこまで口にして、ラッセルが息を呑む。そうか。つまりは、エリックとオーガス兄様の頼みが真正面から衝突した時、ラッセルはエリックの言うことに従うというわけか。
「……ラッセル?」
疑いの目を向けると、ラッセルがわかりやすく慌てる。
「違いますって! 今はそういう状況にはありませんから」
「ユリスどこ」
「ですから! 私じゃありませんよ」
あわあわし始めるラッセルは、本気で困っているようであった。なんだか見ていて可哀想になるくらいの慌てっぷりである。
アロンも、ラッセルを揶揄って満足したのだろう。突然、彼を解放してはくすくすと人の悪い笑みを浮かべている。
目に見えて安堵するラッセルは、白い騎士服を整えると「勘弁してください」と弱々しく抗議してきた。
「で? どこ探しますか」
何事もなかったかのように問いかけるアロンは、流石である。ラッセルの言動から、彼が犯人ではないと判断したらしい。確かにな。ラッセルがユリスを連れ去ったとすれば、呑気にオーガス兄様と喧嘩なんてしていないで、さっさと逃げるはずだ。
「湖行ってみない?」
ふとした思い付きを提案してみる。
ユリスが足を運んだことのある場所で、人があまり寄り付かない場所といえばそこしかない。それにあの湖は、ユリスお気に入りの魔導書が落ちていた場所でもある。
俺の提案に、アロンが乗ってくる。ラッセルも、複雑な顔ではあるが、賛成してくれる。普段は立ち入るなと言われている場所ではあるが、アロンはクソ野郎なので、その点については深く考えていないらしい。最悪、ラッセルに全責任を押し付けるつもりでいるのだろう。
そのラッセルは、おそらく森が立ち入り禁止なのだと知らない。入ったことがバレたらブルース兄様に怒られることも知らないで。あわれなお兄さんである。
「ラッセルはね、出世のプロなんだよ」
森へ向かう道中、アロンに教えてあげれば、彼はあまり興味なさそうに「そうですか」と頷く。
おかしい。アロンはずっと副団長になりたいと主張している。出世のコツに興味があるのではないのか。
「そういえばさ。なんでアロンは副団長目指してるの? 団長は目指さないの?」
思えば、ずっとセドリックのポジションを狙っているが、団長ポジションについては特に言及していない。アロンのことだから、トップを狙っていてもおかしくはないのに。
俺の疑問に、アロンは肩をすくめる。
「団長になったら、全責任が降りかかってくるじゃないですか。副団長くらいがちょうどいいです」
「クソ野郎だな」
そのブレない姿勢には感心する。
「ラッセルは? どこ目指してるの」
「私はとにかく上を」
「へー」
第一部隊隊長の上ってなんだろうか。よくわからない。首を捻っていると、「まずは団長を目指しています」との簡潔なお答えがあった。
なんでも王立騎士団には、全体をまとめる団長と副団長がいるらしい。そして数の多い騎士たちを各部隊に分けて活動しているのだとか。ラッセルは第一部隊の隊長であるが、その上に、王立騎士団全体をまとめる団長ポジションがあるそうだ。ラッセルはそこを目指しているらしい。
「第一部隊の隊長が、団長やるわけじゃないんだ」
「そうですね。隊長は己の部隊にかかり切りですから。各部隊に指示を出して全体をまとめ上げる団長は、別で存在しているんですよ」
なんだか大変そうだな。ひたすらに出世を目指すラッセルは、顔だけはイケメンであった。
「……とりあえず、放してもらえませんか?」
「そうしたら逃げるじゃないですか」
「逃げませんよ。やましいことなんて、ひとつもありませんから」
キリッと断言するラッセルは、かっこよかった。アロンよりかっこいいと口を滑らせたところ、アロンが不服と眉間に皺を寄せた。
「でも第一部隊って上に言われたことには絶対なんですよね?」
「そうですけど。だからこそ、私がオーガス様に楯突くと思いますか?」
確かに。ああ見えて、オーガス兄様は結構偉い人である。ちらっと聞いたのだが、王位継承権もあるらしい。次期国王はエリックで決まりだから、オーガス兄様にその座がまわってくることはないだろうけど。
ということで、権力に弱いラッセルがオーガス兄様を敵にまわすとは考え難い。しかし、アロンは納得しない。
「とか言って。エリック殿下とオーガス様、どちらか片方選ぶなら、どっちですか」
「そりゃあ、エリック殿下が優先ですが」
そこまで口にして、ラッセルが息を呑む。そうか。つまりは、エリックとオーガス兄様の頼みが真正面から衝突した時、ラッセルはエリックの言うことに従うというわけか。
「……ラッセル?」
疑いの目を向けると、ラッセルがわかりやすく慌てる。
「違いますって! 今はそういう状況にはありませんから」
「ユリスどこ」
「ですから! 私じゃありませんよ」
あわあわし始めるラッセルは、本気で困っているようであった。なんだか見ていて可哀想になるくらいの慌てっぷりである。
アロンも、ラッセルを揶揄って満足したのだろう。突然、彼を解放してはくすくすと人の悪い笑みを浮かべている。
目に見えて安堵するラッセルは、白い騎士服を整えると「勘弁してください」と弱々しく抗議してきた。
「で? どこ探しますか」
何事もなかったかのように問いかけるアロンは、流石である。ラッセルの言動から、彼が犯人ではないと判断したらしい。確かにな。ラッセルがユリスを連れ去ったとすれば、呑気にオーガス兄様と喧嘩なんてしていないで、さっさと逃げるはずだ。
「湖行ってみない?」
ふとした思い付きを提案してみる。
ユリスが足を運んだことのある場所で、人があまり寄り付かない場所といえばそこしかない。それにあの湖は、ユリスお気に入りの魔導書が落ちていた場所でもある。
俺の提案に、アロンが乗ってくる。ラッセルも、複雑な顔ではあるが、賛成してくれる。普段は立ち入るなと言われている場所ではあるが、アロンはクソ野郎なので、その点については深く考えていないらしい。最悪、ラッセルに全責任を押し付けるつもりでいるのだろう。
そのラッセルは、おそらく森が立ち入り禁止なのだと知らない。入ったことがバレたらブルース兄様に怒られることも知らないで。あわれなお兄さんである。
「ラッセルはね、出世のプロなんだよ」
森へ向かう道中、アロンに教えてあげれば、彼はあまり興味なさそうに「そうですか」と頷く。
おかしい。アロンはずっと副団長になりたいと主張している。出世のコツに興味があるのではないのか。
「そういえばさ。なんでアロンは副団長目指してるの? 団長は目指さないの?」
思えば、ずっとセドリックのポジションを狙っているが、団長ポジションについては特に言及していない。アロンのことだから、トップを狙っていてもおかしくはないのに。
俺の疑問に、アロンは肩をすくめる。
「団長になったら、全責任が降りかかってくるじゃないですか。副団長くらいがちょうどいいです」
「クソ野郎だな」
そのブレない姿勢には感心する。
「ラッセルは? どこ目指してるの」
「私はとにかく上を」
「へー」
第一部隊隊長の上ってなんだろうか。よくわからない。首を捻っていると、「まずは団長を目指しています」との簡潔なお答えがあった。
なんでも王立騎士団には、全体をまとめる団長と副団長がいるらしい。そして数の多い騎士たちを各部隊に分けて活動しているのだとか。ラッセルは第一部隊の隊長であるが、その上に、王立騎士団全体をまとめる団長ポジションがあるそうだ。ラッセルはそこを目指しているらしい。
「第一部隊の隊長が、団長やるわけじゃないんだ」
「そうですね。隊長は己の部隊にかかり切りですから。各部隊に指示を出して全体をまとめ上げる団長は、別で存在しているんですよ」
なんだか大変そうだな。ひたすらに出世を目指すラッセルは、顔だけはイケメンであった。
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