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11歳
251 俺が行く
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「ブルース。これ、どうすればいいと思う?」
なぜかブルース兄様にどうにかさせようとするオーガス兄様は、書類からそっと距離を取る。
露骨に嫌そうな顔をしたブルース兄様は、隠しもしないため息をつく。これまでオーガス兄様のことを敬っていたはずなのに、最近ではちょっと扱い方が雑になりつつある。色々と諦めたのかな。
「どうって。普通に届けさせますよ。それしかないでしょうよ」
「そうだよね」
へへっと笑うオーガス兄様は、気まずそうに視線を逸らしている。そんな兄様を、ニックが「しっかりしてくださいよ」と、半眼で見つめている。どうもうちの長男は頼りない。
どうやらティアンのもとに、その書類をお届けしなければならないらしい。事情を把握した俺は、すっと手をあげる。
「俺がお届けに行ってくる!」
「え……?」
さっと顔色を悪くしたオーガス兄様は、「いやいや。そこまでしなくても」と頬を引き攣らせる。ブルース兄様も、「やめろ。おまえに任せるとろくなことにならん」と酷いことを口にする。
「大丈夫。俺もう十一歳」
「いやいや」
いやいやってなに? 俺は十一歳ですが? 先日、ブルース兄様も一緒に誕生日パーティーしただろうが。忘れたとは言わせないぞ。
「大丈夫! 任せて!」
「いやちょっと」
微妙な顔をする兄様ふたりは、困ったように佇んでいる。「あ、美味しいお菓子あるけど食べる?」と、オーガス兄様なんかは明らかに話を逸らそうとしてくる。
お菓子もいると主張して、右手を差し出しておく。最近、オーガス兄様はお菓子をストックしている。部屋に隠していること、俺は知っているんだぞ。
ティアンのところにも行けると説得する。だが、兄たちは反対らしい。ちょっと遠いとか、わざわざおまえが行かなくてもとか、色々と理由をつけては俺のやる気を折ろうとしてくる。だが、俺も負けるわけには行かない。
「ティアンに会いたいもん」
「それは」
正直にどうしても行きたい理由を伝えてみれば、オーガス兄様が言葉を詰まらせる。「うーん?」と小さく唸る兄様は、迷っているようであった。
「ティアンに会いに行く! 行きたい!」
畳み掛ければ、オーガス兄様が「そうだねぇ」とちょっとだけ理解を示してくれる。
パッと表情を輝かせて、ブルース兄様の様子をわくわくと窺う。腕を組んで、口を真一文字に結んだ兄様は、判断をオーガス兄様に任せるつもりらしい。
「えー、それは大丈夫なんですか?」
「ニックも一緒に行くか?」
「嫌ですよ。俺はオーガス様につくのが仕事なので。ルイス様の面倒とかみていられません」
なぜか不安をあらわにするニックは、けれども同行は拒否してくる。ロニーを振り返ると、小さく苦笑していた。積極的に口出しはしないつもりらしい。
なんとなく、判断がオーガス兄様に任されたような空気になる。察したオーガス兄様が「えぇ?」と、ブルース兄様に縋るような目を向けているが、冷たい次男はつんとそっぽを向いている。次に、オーガス兄様が助けを求めたのは、ニックであった。
優秀な護衛騎士は、一瞬だけ目を見張ったものの、すぐに取り繕うと「遠出となれば、人手も必要でしょう」と、なんだかネガティブなことを言い始める。
どうやらニックとしては、俺の遠出に反対らしい。なんでだよ。
「ティアンに会いたい。なんかティアンがいないと、ちょっと寂しい」
ここぞとばかりに悲しいアピールをするが、ニックは知らんふりを貫いている。なんて冷たい奴。
「オーガス兄様」
じっと長男の顔を見つめれば、「う、うーん」と、迷うような唸り声が聞こえてくる。
「ティアンとは仲良かったもんね」
「うん。ユリスは俺と全然遊んでくれないからつまんない。あとデニスも俺と遊んでくれない」
デニスは、俺に対して基本的に塩対応だ。対して、ユリスにはしょっちゅうベタベタしている。声音からして違うもん。
「ちゃんと届けて、ちょっとティアンと遊んでくる」
天井を見上げたオーガス兄様は、「そうだなぁ」と腕を組む。
「まぁ、ティアンに会いに行くのは、別に悪いことではないよね」
「うん!」
「ちょっと兄上」
なにやらブルース兄様が苦い声を発するが、もう決定である。オーガス兄様に任せるポーズをしていたものの、内心では反対派だったらしい。
やったぁと両手をあげて喜ぶと、ブルース兄様が口を閉ざす。代わりに、オーガス兄様が「アロンを連れていけば大丈夫じゃない?」と、のんびり口にする。
「それは。まぁ、あそこはミュンスト伯爵家の領地ですから。顔は利くでしょうけど」
低い声を出すブルース兄様は、アロンの同行について迷っているらしい。アロンは騎士ではあるが、なんというかトラブルメーカーでもある。性格もクソだしな。
正直、俺としてもあまり連れて行きたくはない。変なトラブルに巻き込まれそうである。しかしこの状況で文句も言っていられない。せっかくのお出かけが消滅するのは嫌だ。
「ちゃんとアロンの言うこときくからぁ、いいでしょう?」
「いや。あいつの言うことに従うとろくなことにならないと思うが」
逡巡するように目を閉じたブルース兄様であったが、やがて諦めたように深く深くため息を吐く。
「……余計なトラブルは起こすんじゃないぞ?」
「わかった!」
さすがブルース兄様。マジでありがとう。今度こそお土産買ってくるから安心して欲しい。
なぜかブルース兄様にどうにかさせようとするオーガス兄様は、書類からそっと距離を取る。
露骨に嫌そうな顔をしたブルース兄様は、隠しもしないため息をつく。これまでオーガス兄様のことを敬っていたはずなのに、最近ではちょっと扱い方が雑になりつつある。色々と諦めたのかな。
「どうって。普通に届けさせますよ。それしかないでしょうよ」
「そうだよね」
へへっと笑うオーガス兄様は、気まずそうに視線を逸らしている。そんな兄様を、ニックが「しっかりしてくださいよ」と、半眼で見つめている。どうもうちの長男は頼りない。
どうやらティアンのもとに、その書類をお届けしなければならないらしい。事情を把握した俺は、すっと手をあげる。
「俺がお届けに行ってくる!」
「え……?」
さっと顔色を悪くしたオーガス兄様は、「いやいや。そこまでしなくても」と頬を引き攣らせる。ブルース兄様も、「やめろ。おまえに任せるとろくなことにならん」と酷いことを口にする。
「大丈夫。俺もう十一歳」
「いやいや」
いやいやってなに? 俺は十一歳ですが? 先日、ブルース兄様も一緒に誕生日パーティーしただろうが。忘れたとは言わせないぞ。
「大丈夫! 任せて!」
「いやちょっと」
微妙な顔をする兄様ふたりは、困ったように佇んでいる。「あ、美味しいお菓子あるけど食べる?」と、オーガス兄様なんかは明らかに話を逸らそうとしてくる。
お菓子もいると主張して、右手を差し出しておく。最近、オーガス兄様はお菓子をストックしている。部屋に隠していること、俺は知っているんだぞ。
ティアンのところにも行けると説得する。だが、兄たちは反対らしい。ちょっと遠いとか、わざわざおまえが行かなくてもとか、色々と理由をつけては俺のやる気を折ろうとしてくる。だが、俺も負けるわけには行かない。
「ティアンに会いたいもん」
「それは」
正直にどうしても行きたい理由を伝えてみれば、オーガス兄様が言葉を詰まらせる。「うーん?」と小さく唸る兄様は、迷っているようであった。
「ティアンに会いに行く! 行きたい!」
畳み掛ければ、オーガス兄様が「そうだねぇ」とちょっとだけ理解を示してくれる。
パッと表情を輝かせて、ブルース兄様の様子をわくわくと窺う。腕を組んで、口を真一文字に結んだ兄様は、判断をオーガス兄様に任せるつもりらしい。
「えー、それは大丈夫なんですか?」
「ニックも一緒に行くか?」
「嫌ですよ。俺はオーガス様につくのが仕事なので。ルイス様の面倒とかみていられません」
なぜか不安をあらわにするニックは、けれども同行は拒否してくる。ロニーを振り返ると、小さく苦笑していた。積極的に口出しはしないつもりらしい。
なんとなく、判断がオーガス兄様に任されたような空気になる。察したオーガス兄様が「えぇ?」と、ブルース兄様に縋るような目を向けているが、冷たい次男はつんとそっぽを向いている。次に、オーガス兄様が助けを求めたのは、ニックであった。
優秀な護衛騎士は、一瞬だけ目を見張ったものの、すぐに取り繕うと「遠出となれば、人手も必要でしょう」と、なんだかネガティブなことを言い始める。
どうやらニックとしては、俺の遠出に反対らしい。なんでだよ。
「ティアンに会いたい。なんかティアンがいないと、ちょっと寂しい」
ここぞとばかりに悲しいアピールをするが、ニックは知らんふりを貫いている。なんて冷たい奴。
「オーガス兄様」
じっと長男の顔を見つめれば、「う、うーん」と、迷うような唸り声が聞こえてくる。
「ティアンとは仲良かったもんね」
「うん。ユリスは俺と全然遊んでくれないからつまんない。あとデニスも俺と遊んでくれない」
デニスは、俺に対して基本的に塩対応だ。対して、ユリスにはしょっちゅうベタベタしている。声音からして違うもん。
「ちゃんと届けて、ちょっとティアンと遊んでくる」
天井を見上げたオーガス兄様は、「そうだなぁ」と腕を組む。
「まぁ、ティアンに会いに行くのは、別に悪いことではないよね」
「うん!」
「ちょっと兄上」
なにやらブルース兄様が苦い声を発するが、もう決定である。オーガス兄様に任せるポーズをしていたものの、内心では反対派だったらしい。
やったぁと両手をあげて喜ぶと、ブルース兄様が口を閉ざす。代わりに、オーガス兄様が「アロンを連れていけば大丈夫じゃない?」と、のんびり口にする。
「それは。まぁ、あそこはミュンスト伯爵家の領地ですから。顔は利くでしょうけど」
低い声を出すブルース兄様は、アロンの同行について迷っているらしい。アロンは騎士ではあるが、なんというかトラブルメーカーでもある。性格もクソだしな。
正直、俺としてもあまり連れて行きたくはない。変なトラブルに巻き込まれそうである。しかしこの状況で文句も言っていられない。せっかくのお出かけが消滅するのは嫌だ。
「ちゃんとアロンの言うこときくからぁ、いいでしょう?」
「いや。あいつの言うことに従うとろくなことにならないと思うが」
逡巡するように目を閉じたブルース兄様であったが、やがて諦めたように深く深くため息を吐く。
「……余計なトラブルは起こすんじゃないぞ?」
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