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11歳
250 期待を裏切らない
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「デニスはまだ諦めてなかったの?」
「そうみたい。でも俺じゃなくてユリスと結婚したいんだって」
「へ、へぇー」
戸惑ったように身を引くオーガス兄様は、「ユリスの相手とか大変そうだけどな」と、デニスを心配している。
「なんで俺じゃなくてユリスがいいんだろう?」
オーガス兄様の部屋にて。
昨日の出来事を報告すれば、兄様は「それは、なんでだろうね?」と、苦笑する。
どうやらデニスは、俺のことがあまり好きではないらしい。ユリスと同じ顔しているのに。俺が近寄る度に「お子様はあっちに行って!」と、酷いことを言ってくる。でも、デニスとのお付き合いは大変だった。別に彼と仲良くする必要はないかな。
「デニス様も諦めが悪いですね」
首を突っ込んでくるニックは、わかったように肩をすくめている。「わざわざ乗り込んでくるとは」と、隣のロニーに同意を求めているが、ロニーはそれを軽く笑って受け流してしまう。
「オーガス兄様は? 彼女できた?」
「僕のことは、ほっといて」
遠い目をする兄様は、まだ彼女ができないらしい。あんなにキャンベルとの一件で、ブルース兄様と大揉めしていたのに。まだ解決していないらしい。相変わらずの優柔不断だな。
その時である。軽いノックが響いて、ニックがドアに寄っていく。顔を見せたのは、ブルース兄様であった。
「なんでルイスがここに居る」
「今ね、オーガス兄様の恋愛相談に乗ってあげてたところ」
「違うから! ルイスが適当言ってるだけだから!」
なぜか本気で訂正するオーガス兄様は、ブルース兄様相手にビビっているらしい。また文句を言われると恐れているようだ。
はぁっと、わざとらしくため息を吐き出したブルース兄様は、頭を掻く。
「そんなことより、兄上」
「うん! なにかな」
ブルース兄様が深く突っ込んでこなかったことに安堵したらしい。露骨に胸を撫で下ろすオーガス兄様は、頼りない長男であった。
「オーガス兄様、なにしてるの?」
先程からずっとペンを走らせているオーガス兄様の手元を覗き込めば、ブルース兄様が眉を寄せる。「兄上の仕事を邪魔するな」と、俺を執務机から引き離そうとしてくる。それを制止したのは、オーガス兄様であった。いいよいいよ、と笑う兄様は、一枚の書類を指し示す。
首を伸ばしてじっと凝視すれば、見慣れた名前が見えた。
「ティアンって書いてある!」
該当箇所を指差せば、「そうそう」と満足そうに頷くオーガス兄様。
「これさ、ティアンに頼まれてたやつなんだよ。学園に入学するのにさ、なんか保証人的な? なんだったっけな? とりあえずそんな感じのやつ。僕の名前を書いておいたけど」
「あぁ、なるほど。ティアンもしたたかですね」
感心したように呟くブルース兄様によると、これは学園側に提出する書類らしい。単なる確認書類のため、誰のサインでも構わないらしいが、貴族の集まる学園である。あえて伝手のある有力貴族にサインをさせて、己の後ろ盾となる人物をさりげなく学園側にアピールする人もいるらしい。
その後ろ盾として、ティアンが選んだのがオーガス兄様というわけだ。
大公子であり、ヴィアン家の跡継ぎでもある。これ以上の後ろ盾はないだろう。さすがティアン。抜かりないな。
ふむふむ感心していると、「ところで」とブルース兄様が苦い顔をする。
「その書類。なんでまだ兄上が持っているんですか?」
「ん?」
首を捻るオーガス兄様は、いまいちピンときていないらしい。ひくりと口元を引き攣らせたブルース兄様が、さらに続ける。
「いやあの。それって入学時に学園側に提出する物では? ティアンに渡さなくて良かったんですか?」
「……あ」
間の抜けた声を発したオーガス兄様の顔色が、みるみる悪くなっていく。
「わ、渡すの忘れてた。出発の時に渡そうと思っていたのに」
呆然と呟くオーガス兄様に、俺はブルース兄様と顔を見合わせる。
さすがオーガス兄様。期待を裏切らないな。
「そうみたい。でも俺じゃなくてユリスと結婚したいんだって」
「へ、へぇー」
戸惑ったように身を引くオーガス兄様は、「ユリスの相手とか大変そうだけどな」と、デニスを心配している。
「なんで俺じゃなくてユリスがいいんだろう?」
オーガス兄様の部屋にて。
昨日の出来事を報告すれば、兄様は「それは、なんでだろうね?」と、苦笑する。
どうやらデニスは、俺のことがあまり好きではないらしい。ユリスと同じ顔しているのに。俺が近寄る度に「お子様はあっちに行って!」と、酷いことを言ってくる。でも、デニスとのお付き合いは大変だった。別に彼と仲良くする必要はないかな。
「デニス様も諦めが悪いですね」
首を突っ込んでくるニックは、わかったように肩をすくめている。「わざわざ乗り込んでくるとは」と、隣のロニーに同意を求めているが、ロニーはそれを軽く笑って受け流してしまう。
「オーガス兄様は? 彼女できた?」
「僕のことは、ほっといて」
遠い目をする兄様は、まだ彼女ができないらしい。あんなにキャンベルとの一件で、ブルース兄様と大揉めしていたのに。まだ解決していないらしい。相変わらずの優柔不断だな。
その時である。軽いノックが響いて、ニックがドアに寄っていく。顔を見せたのは、ブルース兄様であった。
「なんでルイスがここに居る」
「今ね、オーガス兄様の恋愛相談に乗ってあげてたところ」
「違うから! ルイスが適当言ってるだけだから!」
なぜか本気で訂正するオーガス兄様は、ブルース兄様相手にビビっているらしい。また文句を言われると恐れているようだ。
はぁっと、わざとらしくため息を吐き出したブルース兄様は、頭を掻く。
「そんなことより、兄上」
「うん! なにかな」
ブルース兄様が深く突っ込んでこなかったことに安堵したらしい。露骨に胸を撫で下ろすオーガス兄様は、頼りない長男であった。
「オーガス兄様、なにしてるの?」
先程からずっとペンを走らせているオーガス兄様の手元を覗き込めば、ブルース兄様が眉を寄せる。「兄上の仕事を邪魔するな」と、俺を執務机から引き離そうとしてくる。それを制止したのは、オーガス兄様であった。いいよいいよ、と笑う兄様は、一枚の書類を指し示す。
首を伸ばしてじっと凝視すれば、見慣れた名前が見えた。
「ティアンって書いてある!」
該当箇所を指差せば、「そうそう」と満足そうに頷くオーガス兄様。
「これさ、ティアンに頼まれてたやつなんだよ。学園に入学するのにさ、なんか保証人的な? なんだったっけな? とりあえずそんな感じのやつ。僕の名前を書いておいたけど」
「あぁ、なるほど。ティアンもしたたかですね」
感心したように呟くブルース兄様によると、これは学園側に提出する書類らしい。単なる確認書類のため、誰のサインでも構わないらしいが、貴族の集まる学園である。あえて伝手のある有力貴族にサインをさせて、己の後ろ盾となる人物をさりげなく学園側にアピールする人もいるらしい。
その後ろ盾として、ティアンが選んだのがオーガス兄様というわけだ。
大公子であり、ヴィアン家の跡継ぎでもある。これ以上の後ろ盾はないだろう。さすがティアン。抜かりないな。
ふむふむ感心していると、「ところで」とブルース兄様が苦い顔をする。
「その書類。なんでまだ兄上が持っているんですか?」
「ん?」
首を捻るオーガス兄様は、いまいちピンときていないらしい。ひくりと口元を引き攣らせたブルース兄様が、さらに続ける。
「いやあの。それって入学時に学園側に提出する物では? ティアンに渡さなくて良かったんですか?」
「……あ」
間の抜けた声を発したオーガス兄様の顔色が、みるみる悪くなっていく。
「わ、渡すの忘れてた。出発の時に渡そうと思っていたのに」
呆然と呟くオーガス兄様に、俺はブルース兄様と顔を見合わせる。
さすがオーガス兄様。期待を裏切らないな。
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