冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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11歳

252 計画は次男の仕事

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「ユリスも連れて行っていい?」
「余計なトラブルの種を増やしてどうする」

 せっかくだからユリスもお誘いしようと思ったのだが、これにブルース兄様が待ったをかけた。

 いわく、ただでさえアロンという厄介な奴が同行するのに、それ以上に厄介な奴を増やしてどうするということだ。確かに、ユリスは行動がヤバいけれども。

 でも、彼だけ仲間外れは可哀想である。

 ユリスも誘うと主張し続けていれば、オーガス兄様が「そんなに心配しなくても」と控えめに苦笑する。

「ユリスは外出は嫌いだろ? 遠出なんてしないよ。誘っても普通に断られるんじゃないかな」

 確かに。あいつの出不精は相当だ。庭に出るのも嫌がるユリスが、馬車での長距離移動なんて応じるわけがない。行くわけないだろ、と鼻で笑うユリスの小生意気な顔が浮かぶ。

「そっか。ユリスは行かないのか」

 ちょっと残念。肩を落としていると、オーガス兄様が「お土産でも見繕ってきなよ。きっとユリスも喜ぶよ」と励ましてくれる。そうだな。なんかユリスが好きそうな変な物でも買ってこよう。


※※※


「僕も行く」
「え? 行くの?」

 一応ユリスに、お出かけするから数日留守にすると伝えたところ、そんな予想外の答えが返ってきた。驚きに目を丸くしていると、ユリスは「なんで僕を置いて行こうとする」と、不機嫌になってしまう。
 荒々しい動作で椅子に座り、怒ってますアピールをしている。すかさずタイラーが「お行儀悪いですよ」と、苦言を呈している。

「オーガス兄様が、ユリスは行かないだろうって」
「なんだあいつ。なんで勝手に決めるんだ」

 なにやらオーガス兄様に怒りの矛先が向いてしまった。けれども、兄様が言い出しっぺなのは事実である。

「で? 出発はいつだ」
「それは知らない」

 ティアンに忘れ物届けに行くと決めただけで、詳細はまだ不明だ。同行者を決める必要もあるから、時間がかかりそうではある。

「たぶん、ブルース兄様が適当に決めるんじゃない?」
「ふーん」

 こういう時、いつも計画立てるのはブルース兄様だ。長男であるオーガス兄様は、「いいんじゃない」と笑うだけで、特に具体的な案は出さないのが常である。ちなみに俺が色々と提案しても、ブルース兄様は冷たい目をするだけで、まともに検討してはくれない。

「タイラーも行く?」

 ちらりと様子を窺えば、「ユリス様に従いますよ」との返答。なるほど。ユリスが同行するということは、彼の護衛騎士であるタイラーも必然的についてくるわけか。

「ジャンとロニーも行くでしょ」
「はい、もちろんですよ」

 にこやかに応じるロニーの背後で、ジャンもこくこくと頷いている。

 であれば。あとは一体誰が同行するのか。

「猫も連れて行っていいかな?」
「連れて行ってどうするんだ。ティアンへの土産にするのか?」
「なんでだよ。猫と一緒に旅行は楽しそう」

 けれども、ロニーとタイラーは反対のようだ。遠出だし、泊まりである。猫にはストレスだと言ってくる。

「でも俺がいない間、誰が猫のお世話をするのか」

 ご飯食べられないと可哀想と主張すれば、「オーガスにでも預けておけばいいだろ」と、ユリスが提案してくる。

 なるほど、オーガス兄様に。

「ちゃんと面倒みれるかな」

 少し心配である。けれどもニックも居るしな。たぶん大丈夫だろう。最悪、お母様がどうにかしてくれるだろう。白猫のことをエリスちゃんと呼んで可愛がっているし、おやつも与えている。そのせいか、猫もお母様に懐いている。

「じゃあ、猫はお留守番だな」

 長旅で体調崩しても嫌だし。途中ではぐれて迷子になったりなんかしたら、もう俺は立ち直れないと思うから。今回は置いて行こう。

「それで? 何泊の予定だ。どこに滞在するつもりなんだ」
「だから知らないって」

 細かく予定を確認してくるユリスをあしらって、廊下に出る。自室に戻ろうとしたのだが、なぜかユリスが背後をぴったりとつけてくる。どういうつもりなのか。

「僕も行くからな。置いて行ったら許さないからな」
「わかったってば」

 どうしても行きたいらしく、そんな念押しをしてくる。別に内緒で出発したりはしないから安心しろよ。
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